世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

二つの「乱射事件」の示唆するもの

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「アフガン・イラク」の混迷と米英指導者たちの窮境

                           山上 真

何とも気が滅入るような事件が続いている。ここでは、遥か彼方の戦場の話であるが。


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 アフガニスタンでは、今月2日、南部ヘルマンド州 Nad-e’Ali で哨戒任務の訓練を受けていたアフガン人警官が、5人の英兵を射殺し、6人に重軽傷を負わせた上、バイクで逃亡するという事件が発生した。


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 英国兵は、哨戒任務を一旦終えて、アフガン人警官隊と共にお茶を啜りながら休んでいて、防弾服なども着用せず無防備の状態であった。突然、一人のアフガン警官が英国兵に銃口を向けて射撃し始めたという。この行動を助けた仲間も居た様だ。


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               射殺されたMatthew Telford 伍長


 数日後に、通称 Gulbaddinと呼ばれている其の警官は、タリバンに花を贈られて迎えられ、その保護下に入ったという現地情報が流されている。
 
 事件が示すのは、アフガン軍・警察中枢部にタリバン勢力が浸透しており、西側が企図する、「アフガン自立の為の自衛軍創設」後に撤退するというNATO軍出口戦略が、根本的に崩れていることである。


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 この事件が英国社会にいかに大きな衝撃を与えたかということは、通常、比較的冷静な反応を示すことで知られているFT (『ファイナンシャル・タイムズ』紙)が、トップ記事「世論の潮が反戦に傾いている」を掲げ、上記射殺事件で18歳と37歳の兵士二人の犠牲者を出した Grimsby と、その隣接する町の雰囲気が一変していることを伝えている事実からも分かる。

 Grimsby は、1960年代に漁業が廃れて、以来兵士を多く出すことで知られているが、27年間英国海軍にいた男性は次のように言う。

「私の18歳になる甥も、向うの戦線に行っているが、2012年の帰還予定前に、アフガン戦争が終わって欲しい。もう撤退して、お金は直接、英国本土をテロ攻撃から守る為に使った方がいい。ゲリラ戦なんだから、勝てる筈がない」

 こうした声は、今や英国政府高官 Kim Howells (情報・保安管理担当)から、Ashdown卿( 元アフガン駐在国連代表)に至るまで、幅広く聞かれる。


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           「アフガン撤退」を主張する Kim Howells 氏

 11月6日、ブラウン首相も遂に、「もしカルザイ政権が汚職.腐敗問題に正しく対応しなければ、これ以上英国兵を犠牲にする訳にゆかない」として、撤退の可能性を、消極的ながら仄めかすに至った。

 11月8日の保守系紙『タイムズ』は、トップ記事で「英国軍指導部がアフガン戦線からの退却を検討している」と伝えた。Musa Qalaなど、タリバンによる烈しい攻撃に晒されている最前線基地幾つかを放棄して、ヘルマンド州の重要拠点のみを防衛する作戦に変更するという。

 一方、同日の『インディペンデント』紙は、やはりトップで、ここ30年来、アフガンで取材活動を続けている Patrick Cockburn 記者の「アフガンからの英国軍撤退が最善の選択だ」とする記事を掲載している。アフガン民衆の大多数が米英軍の駐留を望まない現実が厳然として存在する以上、新たな軍派兵は全くの無駄で、兵士たちの空しい血を流すだけであると断じている。

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 11月5日、米国テキサス州 Fort Hood 陸軍基地で起きた銃乱射事件は、13兵士死亡、30人負傷という最悪の惨劇となった。 犯人は、イスラム教を熱心に崇拝する精神科医Nidal Malik Hasan少佐(39歳)で、近くイラクかアフガニスタンに派遣されることになっており、そのことで大いに悩んでいた様だ。


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仕事上、戦線から帰還する傷病兵の治療に従事する過程で、戦場の悲惨さを熟知しており、少なくとも、イスラム圏での戦争参加に対しては厭戦的になっていたに違いない。加えて、軍隊内の人種差別的側面も、未曾有の規模の犯行に至る要素として、暴露される可能性がある。


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           乱射事件犯人とされる Nidal Malik Hasan 少佐


 引き続いて、Hasan少佐がアルカイダ系ウェブサイトに接触していたこと、「9.11テロ事件」への関与の痕跡があること、或は、自分の所持品を隣人に分け与えて身辺整理をしていたことなどの情報が流されているが、本人が生きて法廷に立つことになれば、その内面を含む全ての状況・動機が明らかになりそうだ。


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 どのような事情があれ、今度の事件は、アフガニスタンへの新たな「4万人兵士派遣」計画を策定中のオバマ大統領にとっては、最悪のタイミングとなった。自軍兵士の「派兵拒否反応」が凶行の原因とすれば、軍最高司令官としてのオバマ氏の足元を揺るがす出来事であるからだ。

今や米国民の大多数がアフガン戦争を無意味なものと看做しており、以前の「オバマ人気」も、最近の二つの州知事選挙(ヴァージニア・ニュージャージー)での民主党候補の敗北が示すように、陰りが目立ってきている。

 11月7日、アフガニスタン北西部でNATO空軍機による誤爆があり、アフガン兵士8人が死亡し、米兵5人を含む25人が負傷した。このような誤爆は頻繁に繰り返されており、アフガン戦線全域で、最早まともな作戦の体を成していないと言って差し支えないだろう。


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              バグダッド中心部 自爆テロ現場

 米軍が撤退途上にあるイラクでも、今猶バグダッド、モスルなどで自爆テロが多発し、それぞれ数十人から100人規模の犠牲者を出している。10月25日には、バグダッド中心部で死者137人、負傷者約600人を数える爆弾テロが発生した。

 今こそ、米英を始めとする西側指導者たちの「勇気ある決断」が必要とされる時であるが、もし、それが新たなる軍隊投入という愚かしい選択となるならば、世界世論の落胆・失望を招くことは必至である。 (2009.11.09)



<追記 1> 11月8日のBBC NEWS が伝えている世論調査結果では、英国民の 64% がアフガン戦争を勝利不可能と見ており、63% が可及的早期に撤退するように求めている。


<追記 2> 11月9日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じるところによれば、ハッサン少佐は、事件当日朝6時に基地近くのモスクで礼拝し、別れの言葉を友人たちに告げて、「これから旅に出かけるので、明日はここに来ない」と話した。その6時間後、基地内・海外派遣兵士向け健康診断施設に入り、当初は静かに坐っていたが、祈りをするかのように頭を何回か上げ下げした後、立ち上がって、ピストルを引き抜き、「アラー・アクバル」(神は偉大なり)と叫んで、発砲し始めたという。



<写真> The Times, Daily Telegraph, The Guardian, The Independent
     The New York Times, Daily Mail, Financial Times


 

 
Commented by shin-yamakami16 at 2009-11-09 22:03
中村哲医師のアフガニスタンでの地道かつ道理の通った活動に敬服してきました。現地の民衆の生活と意識に無知な米軍などの、軍を背景にした民生支援活動は、多くの場合、理解を得られず、成果を得られないでしょうね。
by shin-yamakami16 | 2009-11-09 08:58 | Comments(1)