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by shin-yamakami16

オバマ米大統領への「二つの疑問」

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         原発関係者を前にして演説するオバマ大統領 (2月16日)


アフガン誤爆に「謝罪」は? 原発GOは「改宗」か?

                                   山上 真

  アフガニスタン南部ヘルマンド州に於ける、米英軍を中心とするNATO軍の「タリバン殲滅」大作戦が始まってから、ほぼ一週間になろうとしているが、この間に、連合軍は大した反撃も受けずに「順調に前進した」一方、当初から懸念されていた「誤爆などによる」民間人被害が深刻な状況になっている。

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 2月15日には、カンダハル近郊で道路工事に従事していた民間人グループを武装勢力と間違えて爆撃し、5人が死亡、2人が負傷した。
 翌2月16日Marjahでは、「タリバンが潜伏中」の建物をロケット攻撃したが、目標を外れて住民家屋に命中し、中に居た12人が死亡した。その内、5人が子供で、5人が女性だった。
 
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         ヘルマンド州 Marjahでタリバン掃討を続けるNATO連合軍 


 事の重大性に鑑み、現地米軍司令官マクリスタル氏は直ちに記者会見で誤爆を謝罪したが、「ロケットを発射したのは、米軍に同行していたアフガン軍兵士」と説明し、米軍の関与を否定した。筆者はこれを聴いて、アフガン軍がこれ程重装備しているのかと驚いたが、どうもこれは、マクリスタル氏の言い逃れだったようだ。その後のいかなる説明にも、誤爆ロケット砲をアフガン人兵士が操作していたという事実が見当たらない。

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             米軍 Stanley A. McChrystal 司令官

 そもそも、今度の鳴り物入りで宣伝された「大作戦」は、アフガン民衆の「心と魂」を克ちとることを優先した筈だったのであるが、案の定、寄せ集め部隊に付きものの「無秩序作戦」だったのである。一説には、民間人被害も、想定した「作戦の内」のようだ。
 現地「人権擁護」グループの調べでは、大作戦開始後、既に19人の民間人が死亡しているということだ。

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 この事態を招いて、米軍最高司令官たるオバマ大統領の、アフガン国民に対する「謝罪」が為されないのが不思議だ。米軍15,000人の増派を決めたオバマ氏が、今度の軍事作戦について詳細を把握しているのは当然で、極めてその責任は重い。しかし、彼は今の所、何の言及もしていない。
 我々はオバマ氏に期待したのは、貧しい者、虐げられている人々に対する繊細な配慮だった。彼は、そこの所がしっかりしているものと、当然のように思っていたのである。大統領就任後一年を経て、現実政治の厳しさに揉まれて、彼は「人が変わった」のだろうか?

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 オバマ氏は、一昨年の大統領選挙中に、ネバダ州ユッカマウンテンの「核廃棄物処理施設」の新たな建設について、明確に反対していたことは周知の事実である。これは、対立候補マケイン氏が、原子力発電所新設に前向きな態度をとっており、それに対して、オバマ氏が少なくとも原発推進政策は採らないからだと見られていた。ところが、今年初めの「一般教書演説」で、原発推進への転換を示唆した。

 2月17日、オバマ大統領はメリーランド州での演説で、突如として「原発建設の為の政府保証を行う」ことを発表した。ジョージア州で計画されている原子炉二基の建設費・保証額83億ドル余り(約7500億円)を明示したのである。原発についての政府保証は、1979年の「スリーマイル島原発事故」以来、実に30年ぶりのことだ。
 理由は、「電力需要への対応と地球温暖化対策を両立させること」と、「建設推進による雇用増大」の為とした。

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            米国・スリーマイル島原発事故現場


 ヨーロッパの英国、ドイツなども、チェルノブイリ原発事故後、長い間中止していた原発建設を新たに始めているのは、いずれもCO2による「地球温暖化」対策として、石炭火力に替わる核燃料依存政策を採り始めているからだ。しかし、1979年のスルーマイル島原発の「原子炉・炉心溶融」事故の原因は何だったのか、或は、広島型原爆の500倍もの放射線汚染を引き起こし、長期的には数十万人の犠牲者を生み出す恐れのある1986年のチェルノブイリ事故が、何故起こり、今後は原発事故を防げるのか、というような基本的疑問に対して、殆どまともに応えられていない。その後も、今日に至るまで、各国で中小の放射能漏れ事故を引き起こしている。
 
 今日の「原発推進」の世界的な動きは、原子力発電の「安全性」と、不可避的な副産物である「核廃棄物」の処理法を解決しているからではない。ただ、地球温暖化を遅らせることが出来そうだ、ということと、当面のエネルギー需要に対応する事だけを考えた「行き当たりばったり」の方便に過ぎない。

 「理念の政治家」の筈だった「オバマ像」は、もはやその実体を失ってしまった、と言っても過言ではない。あれだけ多くの米国人、世界の人々が期待していた「理想の政治家」は、米国の「伝統」になりつつある戦争政策と、経済優先主義によって、あえなく潰え去ろうとしている。  
                                 (2010.02.18)

 
<追記 1> 2月19日付の『ワシントン・ポスト』紙によると、大作戦 'Operation Moshtarak' の第6日目(2月18日)にMarjah で、タリバンの最大の抵抗に遭遇し、銃撃と路傍爆弾で4人のNATO軍兵士が死亡した。作戦開始以来では、9人のNATO軍兵士と、1人のアフガン兵士が死んでいる。
 一方、英国BBC ニュースによると、2月18日、Babaji 地域で英国兵1人が爆弾で、もう一人が銃撃を受けて死亡したということだ。今度の作戦開始後、5人が亡くなったことになり、英国兵戦死者は、2001年の参戦以来、263人を数える。


<追記 2> 2月18日付の『テレグラフ』紙によると、アフガン北部 Kunduz州で、タリバンがNATO軍及びアフガン政府軍・警察を攻撃したことに対して、反撃・空爆中に誤爆し、7人の警察官を死亡させ、2人を負傷させた。
 また、2月19日付『ニューヨーク・タイムズ』紙が伝えるところによると、17日、首都カブール西方・Wardak 州 Chak 地区で、25人のアフガン警察官が、重火器、2台のトラックごと、タリバンに寝返ったということだ。


<写真> The New York Times, Daily Telegraph, The Washington Post, Wikipedia, BBC News
by shin-yamakami16 | 2010-02-18 21:42