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by shin-yamakami16

「フォークランド戦争」再び?

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            フォークランド沖の英国・油井掘削装置    



英国「帝国主義」を引きずる「労働党」政権


                             山上 真

 またもや南極海近くの離島周辺できな臭さが漂い始めている。アルゼンチン沖の「英領」フォークランド諸島が、30年前の2国間の戦争を経て、再び国際緊張の舞台になろうとしている。


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 1982年3月19日から、6月14日にかけてアルゼンチンと英国の間で、この「羊の島」を巡って戦われた戦争の死者は、それぞれ645人と256人に上る。
英国で ‘Falklands Conflict’と呼ばれるこの戦争は、アルゼンチンでは、「マルビナス戦争」であるが、それぞれの側の戦闘艦などを数隻撃沈したりする本格的「現代戦争」であった。


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 フォークランド諸島(マルビナス)は、1520年にアルゼンチンの元宗主国スペインの船団が発見し、1816年のスペインからの独立を契機に、アルゼンチンが領有を宣言した。しかし、1829年のアメリカ海兵隊上陸後、英国軍が1833年に再占領し、英国が実効支配するに至った、現在は、住民の殆どが英系白人である。アルゼンチンの国内事情から、19世紀初頭以後150年間に、明確な領有権の主張が為されて来なかったことが、問題を困難にしている要因だ。

 アルゼンチンは第二次世界大戦後、英国との直接交渉及び国連を通じた交渉によって、穏健な形でフォークランド返還を求め続けた。1960年頃からは、フォークランド住民に行政・医療サービスなどを行いながら、英国に対して諸島を返還するように求めてきた。しかし、英国は、住民の「自決権」を振りかざして、返還を拒否した。

 一般に流布している説であるが、当時のアルゼンチン軍事政権は、凄まじい「インフレと失業」による国民の不満を逸らす為に、武力に依る「マルビナス奪還」という挙に出たようだ。その裏には、まさか英国がはるばる大軍を擁して、「何もない」諸島の再奪還を図るとは、予測出来なかった。

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   英国・原子力潜水艦が発射した魚雷で撃沈されたアルゼンチン巡洋艦「ベルグラーノ号」


 事実として、先ず、時の軍事政権大統領レオポルド・ガルティエリ氏率いるアルゼンチンが「自国領土」であるマルビナス諸島に陸軍4,000人を上陸させて支配権を握った。これを一方的侵略と看做す英国首相・「鉄の女」ことマーガレット・サッチャー女史は、8,000マイル離れた本国から、空母2隻、原子力潜水艦など艦艇111隻、航空機117機、戦闘員約3万人を動員して、占領された島嶼の奪還を図った。
 当初は優勢だったアルゼンチン軍は、作戦経験豊富な英国陸軍、及び米国情報部の協力を得た空軍戦略によって、烈しい戦闘の後、徐々に弱体化されて敗北し、英国軍の再占領を許すことになった。

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 英国がフォークランド諸島の油田開発に目をつけたのは、1990年代後半からのようだ。小さい新聞記事に、試掘による海洋汚染の恐れが言及されていた。しかし、あまり表に出ることはなかった。今回は、島嶼北方100マイルの海域に巨大な油井掘削装置が移設されていることが明るみに出て、更には、この2月22日から探査作業が始まることが分かり、事態は急を告げた。
 フォークランド諸島周辺には、総計115億バレルの石油と9兆立方フィートの天然ガス資源があると推定されており、これは、北海油田に匹敵する600億ポンド相当の資源量と考えられている。この事業を請け負ったのは、英国Desire Petroleum社である。英国政府承認の下に設立された、この油田開発会社は専ら、フォークランド諸島周辺での開発事業を目的としている。
 アルゼンチン側から見れば、自国の領土の資源を略奪するかのような「英国の所業」ということになる。


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           英国旗を燃やして抗議するアルゼンチン市民


 アルゼンチンのクリスチナ・フェルナンデス大統領は2月16日、「アルゼンチンとマルビナスを往復する船舶、及び、諸島周辺のアルゼンチン領海を通行する全ての船舶は、事前許可を得なければならない」とする布告を出した。これは明らかに、英国側の資源探査の動きを阻止する為の措置と受け取られている。

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            アルゼンチン・フェルナンデス大統領

 次いでフェルナンデス大統領は、折からメキシコ・カンクンで開催された中南米「統一サミット」で、アルゼンチンのマルビナス領土主権を支持するように要請した。この要請を、先ずヴェネズエラのチャベス大統領が強く支持し、キューバのカストロ議長も賛意を表した。加盟32か国からは、アルゼンチン支持の声が相次いで、議長国メキシコ・カルデロン大統領は2月23日、「統一サミット加盟国首脳は、英国との領土主権問題について、アルゼンチンの正統性を支持する」という声明を出した。なお、この会議には、「米国抜き」の機構を目指す建前から、米国は招待されず、2009年に軍事クーデターがセラヤ大統領を倒したホンジュラスも招かれなかった。
 フェルナンデス大統領は更に、国連事務総長パン・ギムン氏とも会談して、アルゼンチンの主張を支持するように要請した。これに対して国連議長は、武力によらない、交渉での解決を求めたようだ。


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        2010年「統一サミット」参加の各国首脳 (Cancun 2010.02.22)


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英国・エリザベス女王に「マルビナス返還」を求める書簡を送ったヴェネズエラ・チャベス大統領


 一方、前回の「フォークランド紛争」では、「タカ派」レーガン大統領の下で、全面的な英国支持に回っていた米国は、2月25日付の『デイリーメイル』紙によると、英国を支持せず、中立的立場を守るということだ。

 英国ブラウン政権は、一貫して「フォークランド」の英国主権を主張しており、譲歩の片鱗すら見せていない。ミリバンド外相は、「歴史的に英国領土であることは疑問の余地がない」としている。

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               英国・ミリバンド外相


 しかし、2月19日の英国『ガーディアン』紙は、「フォークランド諸島:帝国主義の誇り」と題する長文の社説を掲げて、根拠の乏しい「英国領土」主張を放棄し、一旦、アルゼンチンに諸島を返還した後に、貸借契約を結んで、英国人の使用を可能にすることを提案している。同紙は、1776年に、英国がこれらの諸島を「放棄した」という事実に拠っている。

 もし、この提案が生きることになれば、資源開発も、アルゼンチンと共同して行い、両国にとって大きなプラスになることは間違いない。
 大方の英国メディアは、相変わらず「英国主権」を煽り気味の『テレグラフ』紙などを除き、事実報道に止めているが、これは、英国が、約30年前の世界情勢とはまるで異なる環境に置かれているからだろう。殊に、中南米の雰囲気は、相次ぐ左派政権誕生で、旧植民地・帝国主義国にとって、極めてシビアなものになっている。今更、いかに「資源が欲しい」とはいえ、本国から1万3000キロの距離にある島嶼をめぐって、「いくさ」に訴える愚は冒さないと思うのだが。
                              (2010.02.26)


<追記> 2月28日(日)付の英国『オブザーバー』紙によると、「マルビナス」戦争に参加したアルゼンチン退役軍人たちが、設置されている英国の「油井掘削リグ」の周辺で、船舶による抗議デモを計画しているということだ。アルゼンチンでは、全国的に、英国製品の不買運動も広がりつつあるようだ。

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     「反英デモ」を展開するアルゼンチン退役軍人たち (Buenos Aires)




<写真> The Times, Daily Telegraph, The Guardian, Daily Mail, BBC News
The New York Times, Wikipedia
 
by shin-yamakami16 | 2010-02-26 20:06 | Comments(0)