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by shin-yamakami16

仏地方選・左翼連合「圧勝」の意味

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             ピンク色は「左翼連合」 青は「保守 UMP」



「自民・民主」に替わる日本での「革新連合」構築を

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 3月21日、フランス左翼は2007年成立のサルコジ政権に対する決定的な打撃を与えた。第二回目の地方選挙で、社会党・共産党・「ヨーロッパ・エコロジー」などから成る「左翼連合」は、保守党UMPに対して得票率で54%対35%という圧倒的な勝利を収めた。前者は22地方議会で多数派を握り、後者はアルザス地方で勝っただけである。


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                「落胆」のサルコジ大統領

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                同じくフィヨン首相

その一方、極右政党‘Front National’が Provence-Alpes-Cộte-d’Azur とNord-Pas-de-Calaisの2地方で20% 以上の得票を重ね、Languedoc-Roussillon, Picardie, Champagne-Lorraine-Ardenne の3地区で20%に近づく票を得て復活を遂げたことが注目される。これは、多くの保守党票が流れた結果とされるが、その党首ル・ペンが「ホロコーストは歴史の細部に過ぎない」と嘯く『国民戦線』の危険性は明らかなだけに、フランス政治の今後の動向が大いに懸念される。

 このような選挙結果を齎した要因は、一言で云えば「サルコジ政治」への仏国民の全般的不満である。10%を超える失業率、相次ぐ企業・工場閉鎖、若年層の暴動、労働争議・ストの頻発など、枚挙の暇がない。サルコジ政権の下で、フランス社会は「フリーズ」状態に陥った観がある。

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地方選後の23日には、フランス全土の80万人(警察発表38万人)の市民が街頭に出て、年金・雇用の改善を求めてデモ行進した。このデモには、サラリーマン、教員、看護師、年金生活者、失業者など全ての階層の人々が参加した。

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  「一昨日は投票所(又は棄権)、今日は街頭で、明日も戦い続ける」(パリ)


 更には、22日(月)20時から24日午前8時までの鉄道ストが、仏全土で行われた。これは、雇用・購買力確保、年金、労働条件改善を求めるものである。
 
 地方選挙の勝利と、間髪を入れぬ仏全土の「統一行動」は、2012年の大統領選挙「勝利」に向けた「左翼連合」プログラムの一過程に過ぎない。今後は、現実的になった「左翼連合」大統領の、統一候補として誰を選ぶかという大きな課題に目処をつけなければならない。今度の勝利を導いた社会党首Martine Aubry 女史が有力であるが、前大統領候補Ségolèna Royal 女史の線、或は、IMF総裁 Dominique Strauss–Kahn 氏など、全く別の候補を立てる可能性も残されている。


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                 オーブリ社会党首


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                社会党ロワイヤル議員


 敗北後のサルコジ大統領は、地方議会の議席を失った閣僚を主として、6閣僚を入れ替える内閣改造を行ったが、一般には次期大統領選挙に備えた「化粧直し」と受け止められている。
 他方、次期大統領選に出馬することが憶測されている前首相ド・ヴィルパン氏が、保守新党を立ち上げるという噂も出ている。

 振り返って日本を見ると、大いに期待された民主党政権は、些末な「金権問題」は措いても、沖縄・普天間問題のいい加減な処理、「原発推進」という錯誤など、心ある国民の意に反した愚策を続けている。本を糾せば、この「民主党」の「日米安保」への肯定姿勢と、大企業体に対する「擁護姿勢」に突き当たる。これらの態度は、殆ど自民党のそれに変わらないのである。
 この事実に気付いた国民は、急速に「民主党」を離れ始めており、その一部は、うっかりと「みんなの党」などという、本質は自民党と変わらない、訳の分からぬ党に掴まり、また、多くは「無党派」に回帰しているようだ。
 
 問題は其処に、自民・民主からの「迷い人」を受け入れるべき、まともな「受け皿」が備わっていないことである。今こそ、フランスに見られるような、民衆の真の利益を守れる「革新連合」を、この日本でも構築するべきだ。その基本政策としては、諸悪の根源たる「日米安保」解消と、政策的に優遇されてきた大企業への「規制強化」を含むべきだ。
 この連合の中核に、民主・社民党良心派、共産党が入るのは当然として、「無党派」市民が多く結集することが望まれる。英国でも、第三党が政権の行方を左右する程の勢力に成長しており、日本でも「第三党の出番」という機が熟している。相変わらずの保守政党の「衣替え」ではなく、真の「チェインジ」を遂行する「革新連合」が待ち望まれる。 (2010.03.24)


<追記 1> 地方選挙での大敗北を受けてフィヨン首相は3月23日、かねて重要政策と位置づけていた「炭素税」導入を、「他の西欧諸国との足並みに合わせる」為に、当面延期することを発表した。「炭素税」は、地球温暖化対策として、産業界などが排出するCO2に対して課税するものだが、仏国民の三分の二が反対しているとされている。サルコジ政権の「支持率浮揚」を図る為に、方向転換したと見られる。


<追記2> フランスの2月の失業率は、前月比0.1% 上昇した。過去5年間の状況は次のグラフの通りである。(『フィガロ』紙より)

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             フランス失業者:今年2月時点で387万人余り


<追記 3> 3月24日付の保守系『フィガロ』紙が掲載した、地方選挙直後の世論調査によれば、2012年の次期大統領選挙に於いて、59% の国民が左翼の大統領誕生を望んでおり、65% の国民は社会党書記長オーブリ女史がロワイヤル女史よりも大統領候補者として有力と考えているということだ。一方、ド・ヴィルパン氏が立候補した場合、保守票よりも多くの左翼票を集めることが見込まれ、国民の44%が大統領選出馬を支持しているということだ。

<追記 4> ド・ヴィルパン前首相は25日(木)、パリの Press club で記者会見し、2012年の大統領選挙に向けて6月19日に、「自由と独立」の新党を立ち上げることを表明した。この席で、同氏は「サルコジ政治」の政治手法を厳しく論難した。 (2010.03.26)


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           記者会見場の Dominique de Villepin 氏



<追記 5> 今日3月26日付の『ル・モンド』紙掲載のCSA世論調査(24,25日実施)によれば、2012年大統領選でサルコジ氏が再出馬した場合、第一回目投票では首位になるものの、第二回決戦投票では、「左翼連合」のMartine Aubry 女史がサルコジ氏に対して、52% 対 48% の得票差で勝利するという予測になった。



<写真・資料> Le Parisien, Libération, Le Monde, L'Humanité, Le Figaro
by shin-yamakami16 | 2010-03-24 15:26