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by shin-yamakami16

英国総選挙・「終盤の情勢」:キャメロン「勝利」のレベルは?

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        選挙キャンペーンで草臥れた表情のブラウン首相(5月3日)




労働党:「戦術投票」呼びかけの狙い

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 英国総選挙戦は、5月6日(木)の投票日まで、あと二日を残すだけとなり、各党共に必死の票固めを続けている。

 保守党キャメロン党首が、最近の保守党優位という幾つかの世論調査結果を「真に受けて」、政権獲得を前提に、「女王演説」の構想を練り始めるという「早とちり」をしているのに対して、「労働」・「自民」側は、未だ選挙もやっていないのに何事かと、強く抗議している有様だ。


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          親労働党誌から「危険視」されているキャメロン氏


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           反キャメロンの「戦術投票」を呼びかける『ミラー』紙



 労働党幹部ピーター・ヘイン氏及び、労働党支持メディアである『デイリー・ミラー』紙は、この所相次いで、「キャメロン政権登場阻止」の為の ‘Tactical Voting’ 即ち「戦術投票」を呼びかけている。つまり、労働党が比較的強く、保守党候補者と戦っている選挙区では、自民党支持者に「労働党への投票」を求める一方、自民党候補者が、保守党に匹敵する強さを持つ選挙区では、労働党支持者に自民党候補への投票を求めている。こうして、死票になるのを防いで、保守党候補者を落選させ、労働党・自民党の議席増を目指す狙いだ。ひょっとすると、労働党が自民党と組んで,ともかく「政権」を維持出来るかも知れないという「魂胆」があるかも知れない。


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               「未知」自民党首を皮肉る 'Cartoon'


 選挙戦の様子を、メディアの動きから見ていると、一般に「メディア王」と呼ばれるルパート・マードックの支配下にある英国「右派メディア」などの、「反自民・労働党」キャンペーンの露骨さと烈しさは、いつも乍ら、不快感さえ感じさせられる。『サン』、『メイル』、『タイムズ』、『エクスプレス』、『デイリー・テレグラフ』などは、普通の議員なら問題にならぬ収入額、邸宅の大きさなど全く個人的次元に属する事柄を、TV討論会で大好評を博した「自民」ニック・クレッグに限っては連日大きく取り上げて、読者の「反感」を買うように仕向けた。それほどに、「自民」有力政治家の登場は「危険視」されているのである。

 それは何故か。先ず、自民党の求める「比例代表制」という選挙制度改革は、確かにキャメロン氏が言うように、英国「2大政党制」というものの根幹を揺るがせてしまう。これは、或る人から見れば、「多党乱立」による政治の「安定性」を損なうことになり、別の人から見れば、「イラク参戦」に象徴される「政治の暴走」を未然に防ぐことになる。それぞれにメリット・デメリットがあるのはやむを得ない。

 自民党が訴える次の問題は、核ミサイル「トライデント」廃棄など、軍事予算「削減」の方針だ。これについては、5月4日付の『タイムズ』紙によると、ガスリー将軍など、元英国軍最高幹部3人が、政権参画の公算が大きくなっている「クレッグ自民党の英国・防衛政策は、他国がつけ入る可能性を増し、英国がテロリズムに晒される危険性を増大させる」として、警告しているということだ。
 自民党は,空かさず、「これは保守党を利する為の計略だ」として、上記指摘の妥当性を否定したが、「既存体制側」からすれば、核抑止力保持という伝統的軍事方針の大転換となる事態を何とかして避けたいのだ。


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             「ブラウン失政」などを衝く風刺漫画          


 保守党からすれば、ブラウン労働党は、政権の現状を批判すれば好いだけだから、御し易い相手ということになる。「未曾有の」景気後退を招いた責任、技術革新の遅れ、財政赤字を増大、果てはアフガン英軍装備の「お粗末さが戦死者を増やしている」など、枚挙の暇がない。ブラウン氏は防戦一方だ。

 筆者から見て、保守党の「唯一?」立派な公約は、労働党「売り物」の「ID カード」計画廃棄である。このIDカード実施は、膨大な経費を要する割に実用に全く適さず、寧ろ「人権侵害」の危険性など、弊害の方が大きい問題となっているのだが、「不法入国」取締の切り札として、労働党政権が固執しているのは全く理解し難い。この問題では、自民党も保守党と同じ見解だ。


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               5月4日の世論調査 (Channel 4 News)


 保守党「勝利確実」の予報を得て、保守党キャメロン党首は5月3日、たとえ保守党が安定多数の326議席に達しなくても、自民党と連立せずに、「マイノリティ政権」を維持する方針を明らかにしている。恐らく,「勝ちに行く」選挙対策上の方針表明であろうが、こうなると,今後の英国政治の「方向」がますます目を離せなくなりそうだ。            
                                   (2010.05.04)

 
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 自民党首ニック・クレッグ氏、白血病患者のケイさんと共に5月4日、リバプールにて


<追記 1> 5月5日付『インデペンデント』紙「社説」は、各政党の長所・短所を指摘した上で、「選挙制度の抜本的改革」の為に、自民党への投票と、「保守・労働党が拮抗の選挙区」での労働党への「戦術的投票」を呼びかけた。


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     コーンウォールにて、 保守党首キャメロン氏、夫人サマンサさんと共に

<追記 2> 保守党首キャメロン氏は、北アイルランドを遊説中であるが、これは、総選挙で「安定多数」326議席に及ばない場合、9 議席程度獲得する可能性のある北アイルランド 'Democratic Unionist Party (DUP) との連立を組むことを念頭に置いているものと思われる。

                                   (2010.05.05)

<追記 3>5月5日 付 『インデペンデント』 紙 「コメント」欄で、保守党が多数派を握るカウンシルHammersmith & Fulhamに於ける「弱者切捨て」地方政治の実態が暴露されている。ここは、キャメロン保守党が「モデル」としているロンドン西部の自治体であるが、幾つもの「ホームレス保護施設」を廃止して、大手デベロッパーに売り渡し再開発しているが、その為に、妊娠女性さえも公園で4日間野宿させられたということだ。保守党は福祉面 の支出を大幅カットする一方、富者の遺産相続税を減税しようとしているが、多くのメデイアはこうした事実に迫ろうとしていないのが残念だ。                (2010.05.05)



<追記 4> 今日6日付BBCニュースの最終的世論調査結果によると、支持率は保守党37%、労働党28%、自民党27%で、議席予測は保守党283、労働党255、自民党60ということである。これで、保守党は過半数の議席を獲得することが困難と予測されることになった。          (2010.05.06)





<写真・資料> The Times, The Independent, Daily Telegraph, Daily Mail,
Daily Mirror, The Guardian, New Statesman, Channel 4
by shin-yamakami16 | 2010-05-04 23:14