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by shin-yamakami16

英国総選挙・終結:各党今や「修羅場」の取引か

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                 英国2010総選挙・勢力図



浮かび上がる「選挙制度改革」問題

                            山上 真

 この数年間、英国各政党は「この為だけに」必死の活動を重ねて来たのであるが、結果は、どの政党幹部も喜ばぬ「代物」となってしまった観がある。


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 「政権党」労働党は91を議席を失い、ブラウン首相再選の可能性をほぼ潰した。キャメロン保守党は「右派メディア」が予想・期待した過半数326に遠く及ばぬ307議席に止まり、「嫌いな」自民党との連立交渉に追い込まれた。
 自民党は、「ニック旋風」を吹かせて大躍進を期待したが、見事にメディア・体制側の抑え込みに嵌ってしまい、躍進どころか前回総選挙より5議席を減らす羽目に陥った。
少しの救いは、「グリーン・パーティ」が初めて議席を獲得したのに対して、極右BNPが一議席も取れなかったことだ。


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          当選した「グリーン・パーティ」党首Caroline Lucasさん


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          3位で落選したBNP(英国民党)Nick Griffin 党首


 この選挙に参加した有権者の声としては、「何だ、これは?」という意見と、「これでいいじゃないの?」と言うものに分かれている。前者は概ね、右派・保守系メディア及びその支持者だろうし,後者は「宙ぶらりん議会」を歓迎する中立・左派系メディアと人々だ。

 得票率では大差はないものの,現行「小選挙区」制度によって、少数議席しか獲得出来なかった自民党が、’King Maker’ の役割を担うことになったのは、「悪くはない皮肉」である。この「ニック・自民党」の持つ57議席の行方が「キャメロン首相」を実現するか、それとも、労働党を政権の座に据え続けるかを決定するからだ。しかし、自民党の主張する「比例代表制」や、核ミサイル[トライデント]廃棄などの要求を呑むことは、他の二党にとっても決して容易なことではない。政治の方向性の根幹に関わる問題であるからだ。

 自民党にとっても、どのような「原則性」と「柔軟性」を発揮出来るかということが、この党の将来の消長に関わる重大事であるが故に、安易な妥協は難しいだろう。目下、自民党の幾つかのレベルで、妥協点を画定しようとしている。


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          「自民党との連立」の意図を述べるキャメロン保守党首


 現時点で一番可能性の大きい政権形態は、保守党内で想定されていた「キャメロン少数内閣」の発足である。この場合、自民党とは、それぞれの政策別の協力関係があり得る。「財政赤字削減」、「学校制度の自由化」、「IDカード廃棄」などで、政策協調が予想される。ただ、この「閣外協力」が、自民党にどのようなメリットを与えるかは未知数だ。確かに、国家的危機を齎す恐れのある「政治不在」を救う意味は認められるにしても。


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           「先ず保守党と交渉」と述べるクレッグ自民党首       


 自民党が労働党と組む場合は、先ず「選挙制度改革」で一致することは,大いにあり得ることとしても、「IDカード」で、乗り越え難い対立が避けられない。「トライデント」問題も互いに譲り難いと思われる。


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             政権維持の意欲を猶示すブラウン氏


 英国政治が一定の落着きを見せる迄,今後1週間から1、2か月を要すると観測する向きが多いようだが、この国の幾つかの要素を採り入れている日本の将来像にも、「選挙制度」などの面で少なくない影響を及ぼすものと思われる。その動向を注目したい。
                    
                                   (2010.05.08)
 

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<追記 1> 昨日8日朝、1時間余り、保守党キャメロン党首と自民党クレッグ氏の会談が、「友好的雰囲気」の中で持たれたが、「比例代表制」など選挙制度の具体的問題点まで触れられなかったようだ。それぞれの党の中で、両党「連立」について賛否両論が渦巻いており、例えば,選挙制度改革を求める千人程の人々が自民党本部の前に集まり、保守党との交渉を牽制しているようだ。しかし、クレッグ党首は、『サンデータイムズ』紙などによれば、選挙制度改革より「経済危機」を打開する為の方策を優先させる意向だということだ。この二党間の交渉は9日にも続けられる。
   (2010.05.09)                                

<追記 2> 総選挙後の幾つかの世論調査によると、現在問題になっている選挙制度について、現行の小選挙区制に替わる「比例代表制」を支持する英国民は、実に50%から62%に上ることが明らかになった。しかし、専門家の話では、その実現には議会での法案画定・決議、'Referendum' (国民投票)、国民への説明などのプロセスを経なければならず、その実現までに少なくとも3年から4年間を必要とするとのことだ。こうなると、「比例代表制」を、自民党が「連立」の前提条件とすることが容易ではなくなる。結局,大まかな了解事項ということになるかも知れない。


<追記 3> BBC 1 日曜日(9日)朝の 'The Andrew Marr Show' での、元自民党首 Paddy Ashdown 氏との対談で、同氏が「国家的利益」の為に、保守党との連立が現実的妥当性を持つという趣旨の発言をしていたことが注目される。つまり、自民党指導部では、同党の 'centre left' (中道左派)という従来の立場を変更しても、「右派」保守党と「連立」することが有力な選択肢となっていることを窺わせる。しかし、これまで熱心に自民党を支持していた人々の間で批判が高まっており、例えば9日付『インデペンデント』紙社説は、「自民党は、選挙制度改革の為に、労働党と政権を組むべきだ」と主張している。                (2010.05.09)

<追記 4> 5月9日付『ガーディアン』紙が伝える所によると、ブラウン政権の多くの閣僚は首相が先ず辞意を明らかにし、、その上で、自民党との「連立」交渉を続けるように求めているということだ。誰が交渉の責任を負うかという問題を含めて、労働党内で、今後の「連立交渉」の道筋について混乱が起こっているようだ。                    (2010.05.10)

<追記 5> 今回の総選挙で、労働党政権の2人の前・元内相が落選した。ジャキー・スミスと、チャールズ・クラークである。前者は「公費の私的使用」が響いた。
 左翼紙『モーニング・スター』によると、'Labour Representation Committee' に属するジョン・マクドネル、ジェレミー・コービンなど20人の労働党「左派」議員が再選されたということだ。
 一方、左翼「リスペクト・パーティ」は、選挙区を替えた党首ギャロウェーが落選し、議席を失った。                    (2010.05.10)


<追記 6> 5月10日のBBC News が伝えている所によると、ブラウン首相は今年9月の労働党・党大会迄に、「国益の為に」退陣することを初めて公式に表明した。   (2010.05.11)


<追記 7> 各メデイアは早くもブラウン氏の後継・労働党首として幾人かの名を挙げている。先ず有力とされているのが、現外相の David Miliband (45) 氏だ。その父はマルクス主義学者 であり、1960年代に「ニュー・レフト」としてヴェトナム戦争に反対する激しい運動を繰り広げたRalph Miliband である。
 同じく労働党首「後継」に立候補する意思を示しているエネルギー・環境相の Ed Miliband (41) は、David の実弟である。
 児童・学校・家庭相 Ed Balls (43) は、『ファイナンシャル・タイムズ』の経済記者の経歴を持ち、2005年の下院選挙で当選した。経済に強い人物として注目されている。
 現在副党首のHarriet Harman (60) は、幾つかの要職を経た、女性議員として最古参の一人であるが、今のところ、自身は党首に立候補する意思を示していない。



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               デビッド・ミリバンド氏


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                 エド・ミリバンド氏

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                 エド・ボールズ氏

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                 ハリエット・ハーマン女史


                                 (2010.05.11)


<写真・資料> The Times, Daily Mail, The Guardian, The Independent, Daily Telegraph,
      BBC, Wikipedia
        
by shin-yamakami16 | 2010-05-08 22:47 | Comments(0)