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by shin-yamakami16

アフガン戦争:米兵死者遂に1,000人超える

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                自爆テロ直後のカブール    


改めて問われる「オバマ新作戦」の有効性

                            山上 真

 5月18日付『ニューヨーク・タイムズ』紙は、’Grim Milestone: 1,000 Americans Dead’ 「不気味な里程標:千人のアメリカ人の死」と題する長文の特集記事を掲載した。

 この記事は、先ず、去年8月に、アフガニスタン・カンダハルでの歩哨任務に就いていた若年米兵3人が、相次いでI.E.D.即ち即製爆弾に触れて死亡した事件から説き起こしている。そして、この5月18日には、カブールで起きた自爆テロで、5人の米兵が同時に犠牲になったことによって遂に米軍戦死者千人を超えるに至り、現在進行中の米軍・NATO軍作戦の「妥当性」を疑問視する内容となっている。

 この戦争では、米兵戦死者が500人に達するまでに約7年を経ているのに対して、更なる戦死者500人に至るまでに、僅か2年に満たない点を指摘して、アフガンでのタリバン勢力の武装闘争が激しさを増していることを示している。
 しかも、上記の3人の若い兵士たちは、アフガニスタンでの厳しい戦闘の実状を知らないまま軍隊に志願していたようだ。
 例えば、19才のPatrick S. Fitzgibbon の場合は、妊娠した女友達との結婚を夢見て軍隊に入り、3か月の基礎的訓練を受けただけで戦場に送られた。同じ日に戦死した他の二人との共通点は、両親の離婚を耐え凌ぎ、学校があまり好きではなく、軍隊を「より良き生活への入り口」と看做していたことだ。

 「兵卒 Fitzgibbonの死 は、多くの点で、戦死の新たな増加傾向を典型的に象徴している。軍歴で明らかであるが、米軍人はますます若死にしており、多くの場合、新兵訓練所から出たばかりだ。2002年から2008年にかけては、アフガン作戦中に戦死した兵士の平均年齢は28歳だった。去年は26歳まで下がった。今年戦死した125人以上の兵士の平均は25歳になった」


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 『ニューヨーク・タイムズ』紙は、幾人かの兵士の、戦死に至る経緯を詳述した後、多くの戦死者を出すようになった現地戦線の背景事情に迫ろうとする。
 
 結論を急ぐと、米軍現地司令官は、協力を得ねばならない戦闘地域の首長の人間関係・行動様式についての情報を殆ど把握出来ずに、盲目的作戦行動を続けていることが分かった。
 現地最高司令官マクリスタル氏は、「アフガン情勢は深刻だ。アメリカ軍は執拗で一層激しい抵抗に直面している」と語るばかりだ。同氏の主張に従ってオバマ大統領は、昨年秋に、新たに3万人の兵士を派遣することに決めたのであるが、I.E.D.、「イラク」型の高性能爆弾使用など、タリバンの高度化する戦術を前にして、更なる戦死者の増加は免れられない状況に陥っている。


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 間もなくNATO連合軍による「カンダハル作戦」が始まろうとする矢先、カブール近郊・米軍最重要基地「バグラム」が、ロケット砲などを装備した20人程のタリバンに襲撃される事件が19日起きた。幸運にも、負傷者を出すだけで済んだが、これは、作戦の「背後から敵に撃たれる」形になっていることを示している。
 

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                 襲撃されたバグラム米軍基地
 

 オバマ大統領に求められるのは、自国の若い人々の「無駄死に」を避けるべく、戦場の実状を知り、「戦争一辺倒」の政策を一日も早く直すことではないか。
 既に米国では、約60%の国民が、米軍の「アフガニスタン撤退」を求めている。「賢明な指導者」としての大統領の資質が、今厳しく問われていると言えよう。
   
                                  (2010.05.20)


<追記 1> 5月20日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、18日(火曜日)カブールで起きた自爆テロによって殺害されたNATO軍関係者の中に、米国・カナダ軍大佐各一名、米軍中佐二名が含まれていることが分かった。事件は、ラッシュ・アワーの混雑時に、自爆犯が乗ったミニバスが米軍車列に突っ込み,爆発、バスのアフガン人乗客12人、米兵2人も犠牲になった。合わせて4人もの軍高級幹部が一度に殺害されたのは、アフガン戦争開始以来、初めてのことという。                                  (2010.05.22)


<追記 2> 5月23日付の英国各紙によると、英国防相、外相、そして国際開発相などがアフガン訪問中に、カンダハル空港が数時間に渉ってロケット砲などの激しい攻撃に晒され、これら英国首脳部が予定していたカンダハル視察を中止したという。彼らの間では、英国財政事情緊迫化に伴い、「アフガン撤退」時期を巡って激論が交わされているとのことだ。 (2010.05.24)

<写真・資料> The New York times, Daily Telegraph, Le Monde



 


 
by shin-yamakami16 | 2010-05-20 22:21