世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

元MI5長官証言:「英国をテロの危機に陥れたイラク参戦」

f0166919_816632.jpg





包囲されるブレア元首相の「正しかった戦争」論

                            山上 真

 7月20日付の英国各紙は、元英国情報部トップの「イラク証言」をやや衝撃的に伝えた。
 前日、英国「イラク侵攻経緯調査」委員会(委員長John Chilcot卿)は、前MI5長官Manningham-Buller 女史の証言を聴聞した。この委員会は昨年11月から始まったのであるが、未だ猶も、イラク開戦に関わった政府関係者の証言が続いている。


f0166919_818117.jpg


      「聴聞会」会場に入る前MI5長官マニンガム・ブラー女史


 2007年、時のブレア政権によって辞任に追い込まれた英国軍情報局保安部(通称MI5=Military Intelligence section5)長官の証言は、当時の首相ブレア氏の証言、即ち「英国のイラク参戦は英国をより安全にした」ことと真っ向から対立するものであっただけに、特に注目されることとなった。


f0166919_8234665.jpg

 
           「イラク戦争」証言を行う前MI5長官



 この日、女史は冒頭で、

 ‘Our involvement in Iraq radicalized, for want of better word, a whole generation of young people – not a whole generation, a few among a generation - who saw our involvement in Iraq and Afghanistan as being an attack on Islam’

と語った。つまり、英国のイラク参戦が、若い世代の全部とは言わないまでも、「イスラム」に対する攻撃と看做す人々を「過激化」してしまった、というのである。
 そして、英国で生まれた多くの若者たちが、オサマ・ビンラーデンやアルカイダのイデオロギーに惹き付けられたようだと言うのである。こういう「危険な人々」が余りにも多くて、テロ取締まりの任を負う英国情報部は、手に負えない状態に追い込まれたということだ。


f0166919_8262030.jpg


         2005年7月7日のロンドン「同時多発爆弾テロ」現場


 彼女が言うには、MI5は、サダム・フセイン政権が「英国にとって脅威になる程の大量破壊兵器(WMD)を保有している」とするMI6 (Military Intelligence section 6 = 英国秘密情報局)の情報を、根拠薄弱と看做していたという。しかし、トニー・ブレアは、このMI6の方の情報を意図的に採用して、「イラク参戦」に踏み切ったのである。
 結局のところ、イラク占領後、米軍がどこを捜しても、WMD は全く発見されなかったのは、周知の通りである。


f0166919_8301979.jpg




f0166919_8311314.jpg




f0166919_8323159.jpg




 女史は現在,戦闘が激化しているアフガン情勢との関連性についても触れ、

 ‘By focusing on Iraq we reduced the focus on the al Qaida threat in Afghanistan. I think that was a long-term major and strategic problem’

と結んだ。つまり、米・英両国などが、本来的にアルカイダとは無関係であったサダム・フセイン政権打倒の為のイラク戦争に集中したことで、アルカイダのアフガンでの活動を活発にする余裕を与えてしまい、後にイラクへのアルカイダ侵入を促すことになった。そのことが、長期的に見て深刻な問題を引き起こしてしまったというのである。


f0166919_8331347.jpg


                
     下院議場で「イラク参戦は違法」と断言するニック・クレッグ副首相
     左は、硬い表情を浮かべる保守党オズボーン蔵相


 折しも、7月21日、キャメロン首相が渡米などで留守中の英国議会で、連立政権を担う副首相ニック・クレッグ自民党党首は、首相代理としての野党労働党との遣り取りの中で、「イラク侵攻は違法であった」と断定的に述べた。当時、労働党政権に同調して、イラク参戦に賛成した保守党議員の面々が、このクレッグ発言に苦渋に満ちた表情を浮かべていたのが印象的である。

 「クレッグ発言」を受けて、左翼・反戦団体などでは、ブレア氏を「裁きの場へ」との主張も強まっており、今後の展開が注目されるところだ。イラクに於ける戦争行為によって、百万人に達するとされるイラク人死者、約5千人の欧米兵士の戦死、莫大な戦費の浪費が齎された。そのことの「けじめ」をきちんと付けることは当然である。             

                                   (2010.07.25)
 
 

<写真> The Independent, Daily Telegraph, Daily Mail, The Guardian
by shin-yamakami16 | 2010-07-25 08:47 | Comments(0)