世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

英国:どうなる「11・05消防士スト」?

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               11月5日 ロンドンの花火 



ガイ・フォークス「議場爆破」未遂事件の「教訓」は如何に


                                   山上 真

英国・ロンドンでは今、「ガイ・フォークス・デイ」と呼ばれる歴史的記念日当日の「歴史的」消防士・ストライキを巡って、大論争が巻き起こっている。


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                10月23日 スト中の消防士たち

 この日の由来について先ず触れておきたい。
 11月5日は、1605年、実行犯ガイ・フォークスを含む13人のカトリック教徒過激派が、当時の政府転覆及び国王ジェームズ1世の暗殺を謀り、イングランド上院議場を爆破しようとしたが、実行直前に露見して失敗に終った日である。この日、英国では、事件に因んだ祭事が各地で開催され、夜遅くまで花火が轟いている。


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 離婚問題のこじれという個人的な理由でローマ教会と対立したヘンリ− 8世は、1534年にローマ教皇庁と絶縁して、自らがイギリス教会の首長であることを宣言し、ここに英国国教会が成立した。
 しかし、彼の死後、熱心なカトリック信徒であったメアリ− 1世は、英国をカトリック教会に戻そうとして、プロテスタントに対する弾圧を行い、 ‘BloodyMary’ の異名をとった。
 続くエリザベス1世は、どの宗派にも偏しない「中道政策」を採って、英国国教会の位置付けをより明確なものにした。
 1586年にスコットランド女王メアリー・スチュアートがエリザベスの暗殺を謀った罪で捕えられ、翌年に死刑が執行されたが、これを機に、1588年のスペインとの「アルマダ海戦」に繋がって行く。英国のカトリック信徒の間では、メアリ−・スチュアートを「殉教者」として称えることになった。
 そのメアリーの息子であるスコットランド王ジェームズ6世は、1603年、イングランド王ジェームズ1世として即位したが、母親と同じカトリック信仰を持つと思われたのも束の間、彼は1604年に各宗派代表を集めて開かれた ‘Hampton Court Conference’ で、英国「国教会堅持」を宣言して、カトリック教徒を甚く失望させた。

 「閉塞状況」を打ち破ろうとして首謀者ロバート・ケイツビーが導いた結論こそが、ウェストミンスター宮殿内にある「議事堂爆破」という前代未聞の陰謀だった。国王のみならず、国会議員の多数を占める国教徒、そして清教徒をも同時に殲滅して国会機能を麻痺させた後、政権をカトリック教徒が奪還し、ローマ教会に従う王国を再興しようというのだ。


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             1605年11月 捕えられるガイ・フォークス


上院議事堂直下の地下室に大量の爆薬を仕掛けて、1605年11月5日の開院式に出席するジェームズ1世、国会議員の多くを一挙に暗殺しようとする途方もない計画は結局、この陰謀を知らせる一通の匿名の手紙と、それに基づく直前の「手入れ」で実行犯ガイ・フォークスが捕えられ、終焉した。過酷な拷問による自白によって事件の全てが明らかになり、加担した13人は皆処刑された。
 この事件を契機に、1606年、「宗教刑罰法」が強化されて、カトリック教徒に対する弾圧は一層苛烈なものとなったという。


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 11月5日は、以後英国では特別な日として記憶され、1859年に廃止されるまで2世紀半にわたって「国民の休日」となった。毎年この日、「ガイ」と呼ばれる人形を市中に曳き回した後、篝火で焼く行事が各地で行われたが、現在では専ら打ち上げ花火を楽しむ祭りとなっている。

 なお、英国では1829年に「カトリック解放法」が布告され、宗教差別は公的には無くなったとされる。

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                  オズボーン蔵相

 「消防士スト」の話に戻ると、この10月20日のオズボーン蔵相演説で、公務員49万人削減、地方自治体予算の3分の1カット、児童手当などの廃止または削減、失業給付の大幅削減、付加価値税(消費税)の引き上げなど、極めて過酷な「緊縮財政」政策が発表された。これに反対する労働者たちは、抗議デモを展開して、既に「年金問題」を巡ってフランスで行われているような全国規模の抗議運動に発展させようとしている。


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 そのような共通課題に加えて、消防士組合の場合は、当局側が提案する「勤務シフト」を撤回させる運動を進めようと闘っている。10月23日には第一波の8時間ストが行われたが、ロンドンで通常150台稼働する消防車の内、この日は27台のみが動いただけだった。

 危険業務の一つとされる消防士の勤務体制は、これまで、
 第1日目  午前9:00 ------午後6:00 (9時間)  昼間勤務
 第2日目  同じ昼間勤務
 第3日目  午後6:00-------午前9:00 (15時間) 夜間勤務
 第4日目  同じ夜間勤務
 第5、6、7日は休日 となっている。

 今度の当局側提案は、昼間12時間勤務を二日続けた後、夜間12時間勤務を二日続けて、4日休みにするというものである。その目的は、夜間勤務を減らして、昼間勤務の間に、「火災予防の為のキャンペーン」活動に重点を移す為という。
 
 今度の争議の本質は、勤務シフトの問題よりも寧ろ、「専門職業」としての消防士に対する雇用当局側の「尊重欠如」と雇用不安定、「契約変更を呑まなければ解雇する」という強硬な態度にあるようだ。それに加えて、政権側の「緊縮財政」政策による賃金凍結・手当圧縮という一般的な「反労働者」的政策が怒りを呼んでいるということだろう。

 キャメロン政権は、「争議」の内容に踏み込むことは避けているが、「11月5日」ストというタイミングについては「挑発的で、向こう見ず」だと非難している。
 消防士労組としては、ストライキの効果が一番大きな時期にやるのが当然だとしているが、スト自体を目的としている訳ではなく、当局側が「正当な要求」を受け入れれば、事前に中止される可能性が十分あるという。

  1605年「ガイ・フォークス」の乱の原因には、当時の政府の「反カトリック」政策という宗教的根本問題が横たわっていたが、今日の「労働者の乱」は、世界的「緊縮政策」という強敵に抗う「国際的な闘い」の一環である。その意味で、英国内ばかりでなく、世界の目が注がれている。
                                    (2010.10.29) 



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             「遠距離通勤するロンドン消防士たち」


<追記 1> 今日29日付『デイリ−・メール』紙は、「海外に住んでいるのに、消防士たちはロンドン居住の為に5,000ポンドのボーナスを要求している」と題する「中傷記事」を掲載した。ロンドン消防士5600人の内、2700人がロンドン市外から通勤しているというのだ。誰であれ、仕事自体に差し障りなければ、どこに住もうと自由の筈なのに、こういう「場違い」攻撃をするのが、大衆紙の常だ。とにかく保守系メディアは「消防士スト」を抑え込もうと躍起になっている。                                            (2010.10.29)


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「11・05スト」参加中のBBC 「花形スター」Martha Kearny, Huw Edwards, Fiona Bruceの諸氏



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 対談相手を「屁とも思わぬ」不遜な態度で「有名な」ジェレミー・パックスマン氏


<追記 2> ロンドン消防士組合ストは、11月5日早朝、実施予定直前に中止された。組合側の要求について、今後の交渉で折り合いが付けられる見通しが立ったことと、 'Bonfire Night' でのストには影響が大き過ぎることなどの為である。
 なお、この日、BBC の'The National Union of Journalists' が大規模な48時間ストに突入した。経営側の「年金縮減」計画に抗議する為である。このストには、花形キャスターも参加し、定例番組の多くが予め録音・録画された番組で埋められている。前日木曜日の「ニューズ・ナイト」を主宰しているBBC名物男Jeremy Paxman は、いつもは次の日の番組予告で終る筈なのに、「明晩はね・・・何が起こるかさっぱり分らんね・・・という訳でお休みなさい 」と告げて番組を閉じた次第だ。
                               (2010.11.05)




<写真・資料> Daily Mail, The Guardian, BBC News, The Daily Telegraph, Wikipedia
 
by shin-yamakami16 | 2010-10-29 12:07