英国大司教:「富める者が応分の負担を担うべし」
2010年 12月 27日
クリスマス「訓話」を述べるRowan Williams カンタベリー大司教
注目される英国「改革」政権への辛辣な批判
山上 真
12 月26日付の英国各紙は、Rowan Williamsカンタベリー大司教のクリスマスに因んでの「説教」演説を大きく伝えたが、特に、『デイリー・メイル』紙では、キャメロン政権の「売り物」である‘Big Society’ 政策の問題点を厳しく批判する内容となっている。
「政府の福祉手当削減は、不当な受給者のみならず、正直で勤勉な貧しい人々に打撃を及ぼす恐れがある」
「もし現政権の『改革』が導入されるならば、貧困を自分から選んだ訳ではない多くの人々、特に子供たちが深い不安感に襲われるに違いない」
「いわゆる『大きな社会』構想については、人々は一体どんな具体的投資が社会共同体に為されるのかを知りたいと思っている」
こう述べて、ローワン・ウィリアムズ大司教は、キャメロン政権の「社会政策を慈善団体や社会的起業家などに委ねる」構想に、疑問を呈している。
この「保守・自民」連立政権の下で、困窮者の為の「公共住宅」費が縮減され、「働く気のない」人々の福祉手当は無くされ、子供手当も所得度に応じた限定的な支給となった。大学授業料は三倍近くに跳ね上がった。全て、「個人責任の原則」から出た政策の為だ。
これに対して大司教は、
‘Hard-working and honest people who do their best really do face problems; so do people with disabilities, with mental health issues or limited mobility.’ (最善を尽くして正直に勤勉に働く人々も確かに様々な問題に直面しているが、障害を持った人々、精神的問題を抱える人々や、行動の自由を奪われた人々も、同様に苦難に直面している)
と述べて、社会的弱者への思いやりに欠ける政策を批判している。
英国現政権が史上最大の「財政赤字」を克服しようとしているのは事実であるが、キャメロン氏の「大きな社会」構想は実質的に、既に「弱者切り捨て」で悪名高い「新自由主義」に基づく、「小さい政府」の裏返しに過ぎないことは明らかだ。要するに、国家の福祉負担を徹底的に減らして、個人責任を「重んじる」行き方である。
こうして、英国の伝統とされてきた「揺かごから墓場まで」の福祉社会は、完全に潰えようとしている。
ハンプトン・コート宮殿でのエリザベス女王「クリスマス挨拶」
因にエリザベス女王は、「スポーツは共同体を結束させる手段として高く評価されるべき」という、再来年開催予定の「ロンドン・オリンピック」を多分に意識した「クリスマス挨拶」を国民に述べた。これは、国民の間であまり「オリンピック支持」の雰囲気が盛り上がっていないことを危惧しての言及であろうか。
政治・社会の在り方に、国家・社会の権威者として、時の政治権力から離れた立場で、忌憚ない批判・批評を加えるという伝統は高く評価されていい。それに引き較べて、日本の場合には、こういう「慣習」が全くと言っていい程有り得ないことは、甚だ残念だ。
(2010.12.27)
<写真> The Guardian, The Daily Mail
by shin-yamakami16
| 2010-12-27 15:29