世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

<   2008年 08月 ( 5 )   > この月の画像一覧


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「オリンピック」再考
                              山上 真  
 メディアの世界では、漸くオリンピックの熱狂から解放されて、やや醒めた雰囲気が漂っている。この期間中は、世界で大きな事件が起きても、目立たない見出しと、数行の記事で済まされてしまった。「何とか一色」という表現が,決して誇張ではない。

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 北京での今度の大会は、様々な角度から注目された。曰く、極東アジアの、曰く、共産主義国の、曰く、大地震被害を蒙ったばかりの、曰く、大気汚染の物凄い国で主催されるオリンピックという具合だ。

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 蓋を開けて見ると、皆がわっと言う様な開会式だった。凄まじい花火、奇想天外な仕掛け、圧倒的な人海戦術。「統制国家」ならではの予算規模で準備された大会だった。心配されたテロも起こらなかった。大会期間中の大気汚染も、汚染物質を生み出す工場が操業中止するという、「自由企業社会」では考えられない措置によって、目につく程でなかった。

 各国選手11,000名、米国・ブッシュ、ロシア・プーチン氏を初めとする各国元首クラス約90人が参列するという、オリンピック史上最大の大会となった。当初、チベットでの人権抑圧問題が少なからず影響を及ぼすのではないかと指摘されていたが、結局のところ、'REAL POLITICS' が勝った形だ。壮大な企ての前には「少々の」問題は力を持たないということだ。IOCは中国政府に対して、大会期間中のデモなど示威行為を許すように約束させたようだが、現実には、警察力によって封じ込まれて、大会後の記者会見の席で、ジャック・ロゲIOC会長は両手を広げて肩を竦めるばかりであった。この点では、今度の大会は、特異だったと言わなければならない。依然として、中国に於ける「民主化」運動が、その途上にあることを示している。

 筆者は「メダル獲得競争」には殆ど関心が無かったが、主催国中国がよくも51個もの金メダルを取ったものだと呆れている。無理な選手養成方法が採られなかったのだろうか、気になる。成績が好いのに越したことはないが、度が過ぎると、見て居られない。その点で、日本選手の在り方は、全体的に自然に見えた。故障があれば、無理して出ることはない。メダル数も程々で好い。

 一つだけ、最初から終わり迄、TVで見たのは、韓国対キューバの野球決勝戦である。印象に過ぎないのだが、昔のキューバ選手は、もっと精悍だったように思われる。もう一つ元気さが欠けて、敗北した感じだった。アマとプロの違い、というようなことは、自分にはよく分からない。
 次の大会では,野球、ソフトボールが競技種目から姿を消す、というのは何だろう。英国では、やる人がいないから、というのだとすれば、乱暴なやり方だ。

 印象深いシーンは、女子1600mリレーでの表彰式で、左側4人が2位白人ロシア選手、中央1位が黒人米国選手4人、右が3位ジャマイカ選手4人がずらり並んでいたことだった。陸上競技で、いかに黒人選手が多く活躍しているかを歴然と示している一コマだった。

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 閉会式の最後で、次期オリンピック主催国・英国のプレゼンテーションがあったが、如何にも英国らしい趣向を凝らした演出に見えた。その中で、五輪旗引き継ぎに現れたロンドン市長ボリス・ジョンソンの,やや軽薄な仕草が目立った。英国メディアによると、このボリスの「傲岸で野卑、無礼な態度」に対して、中国内で厳しい批判が起こっているという。ボリスは、中国式形式主義に対して,「我々は肩肘張らずにやるんだ」という所を見せたかったのだろうが、誤解を招く恐れは十分にある。少なくとも、一緒に並んでいたIOC会長ロゲ氏や、郭金龍北京市長の、謹厳な物腰とは対照的であった。

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 さて、そのロンドンであるが、例えば開会式での「口パク」問題に見られる様な
日本での批判とは大違いで、「北京オリンピック」総体を極めて高く評価している英国民は、果たして自分たちが、4年後の2012年に、あれだけのことを、無事に出来るんだろうか、と大いに心配しているのである。
 先ず予算面で、中国のそれの半分以下でやらなければならない。中国は、200億ポンド(4兆700億円)の費用をかけた。ロンドンは、93億ポンド(1兆8900億円)を予定している。今年は、経済成長率0%に落ち込んで、英国でのオリンピック開催批判派が少なくない中、追加支出は望めない。北京での大会をTVで見ていた若者たちが、開催支持に回る一方、年率4%という超インフレと低い年金額に苦しむ高齢者は、多くが支持していない。

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 大会期間中の、交通機関や会場でのテロの危険性も、北京の場合と較べて遥かに大きい。イラク、そしてアフガニスタンでの戦争に加担した国として、「イスラム原理主義」グループの正面のターゲットになっているからだ。最近も、ブラウン首相の暗殺を企てた容疑で、3人の男が捕まっている。

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 素人の私見であるが、オリンピック行事に金がかかり過ぎているのではないか。普通サイズの国がなかなか引き受けられない構造になっているのではないか。古代ギリシャの「都市国家間の祭典」の様に、などとは言わぬが、もっとコンパクトに出来ないものだろうか。
 最近の誘致運動を見ていると、自国の「景気浮揚の為」とかの、国益を前面に出した動きが目立ち過ぎる。英国・ブレア氏、日本の石原氏などの言動がそうである。

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 将来は発想を変えて、例えば、アフリカの発展途上国で、時々開催するのはどうだろうか。経済先進国が大いにインフラ整備に援助して、その国の恒久的発展に繋げてやるのだ。気候が難しい場合には、時期を選べば好いだろう。「アフリカ飢餓・貧困問題」解決の一助になるかもしれない。
 
 最後に蛇足であるが、2016年の「東京オリンピック」の可能性は、はっきり言って、無いだろう。「北京」の後、極東アジアで10年以内に再び開催されるなんてことは、常識的にあり得ないからだ。           (2008.08.29)
 
<写真> The Daily Mail 掲載のもの
by shin-yamakami16 | 2008-08-29 23:01 | Comments(0)
 
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       パリ・ザンヴァリッド(廃兵院)での10兵士追悼式

そして住民76人死亡の米軍誤爆 —「混沌のアフガン」再び
                              山上 真
 去る8月18日、ヴァカンスの余韻残るフランス社会を、衝撃的な知らせが襲った。アフガニスタン・タリバンの攻撃を受けて、駐留フランス兵10人が死亡、21人が負傷するという未曾有の事件が起こったのである。
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        2007年11月 仏軍部隊を激励するサルコジ大統領
 
 米ブッシュ政権の「テロとの戦い」の要請を受けて、6年前からNATOの一員として参加していたフランスは、米政権と距離を置くシラク前政権当時は、若干の空軍機、艦艇と、1000人規模の兵士を、カブール空港周辺など比較的安全な地域に送っていた。
 ところが、「ブッシュ支持」を前面に掲げているサルコジ政権は、去年、方針を一変させて、新たに増援した700人の部隊を、タリバンと直接対峙しているアフガン南部の危険地帯に展開させた。
  
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 この日、フランス軍偵察部隊は、米軍特殊部隊、アフガン政府軍、チャド軍と共に、カブールとパキスタンを結ぶルート上にあるSaroubiに向かっていた。カブール北東約50キロ、海抜約2,000メートルの峠に近づいた所で、周到に準備していたタリバン軍約50人の待ち伏せ攻撃を受けた。そこでの4時間に及ぶ烈しい戦闘で、9人が死に、21人が負傷、もう1人は、看護兵として負傷者を救援中に射殺された。周辺地域から集まったタリバン軍は、100人程度に達していた。悪いことに、この作戦では、空からの援護を受けていなかった。
 
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 更に問題となっているのは、実戦経験のない20歳前後の兵士が多く送られていることである。相手のタリバン兵は、旧ソ連軍と戦って負けなかった、30年の戦闘経験を持つ古兵である。筆者が既に『混迷のアフガニスタン』(2008.06.18) で触れているように、ここでの戦闘に慣れている筈の米・英軍も多大な犠牲者を出している。
 最近だけでも、8月18日から22日にかけて、3人のポーランド兵士、1人の英兵、3人のカナダ兵がタリバンとの戦闘、路傍爆弾などで死亡している。
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 英国軍の戦死者は、2001年派兵以来、116人に上り、今年5月以降、22人に達した。米軍戦死者数は、今年5月以降だけで、48名に上っている。アフガニスタンでのNATO連合軍の戦死者は、総計2400人を超えている。

 
 他方では、NATO軍による、タリバンと間違えて民衆を殺す形の誤爆が増える一方である。8月16日、南部ヘルマンド州で、英軍ロケット攻撃により2人の子供を含む4人の住民が殺害され、2人の子供が重傷を負った。
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 8月22日には、アフガン東部ヘラトでの米軍機による空爆で、祝祭中の住民76人が殺された。うち19人が女性、50人が15歳以下の子供、男性は7人に過ぎなかった。これを、米軍当局は、「指揮官を含む30人のタリバン兵士」と主張している。
カルザイ大統領もこの事態に黙って居られず、調査団を設けて、連合軍側に強い抗議をした。現地では、24日、数百人のアフガン人が「アメリカに死を!」などと叫んで,激しい抗議デモを展開している。
 国連によると、今年前半のアフガニスタンで、一般人約700人が殺害された内、255人が、NATO・アフガン政府軍によるものという。(08.08.25 The Daily Mail)
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         米軍機誤爆に抗議するヘラトの人々
 
 10人のフランス兵戦死事件を受けて行われた世論調査で、55%の仏国民は、「フランスの手の打ちようがない戦争からは、軍を撤収しなければならない」と看做しており、36%は、「国際テロリズムに対する戦いに参加している以上、アフガンでの軍隊を維持しなければならない」としている。
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    「派兵以外に他の道があるのか」と語る Hervé MORIN 国防相
 
 フランス政府は、政治家・識者の提言を受け入れて、9月下旬に国会で「アフガン派兵」の是非を問う討議・採決を行うことに決めた。ここでの議論の深まり方によっては、国際的な波紋を及ぼす可能性が出て来る。アフガン戦争の「政治解決」の道も見えて来るかも知れない。そこに大いに期待したい。    (2008.08.25)


<写真> Libération, Le Monde, Le Point, Nouvel obs., France 2, La Croix. com,
    The Daily Mail 掲載のもの

<追記>
 (1) 8月24日のBBCニュースによると、故ブット女史の夫であり、パキスタン人民党から、次期大統領候補者として指名されている Asif Ali Zardari 氏は、インタヴューの中で、「アフガニスタンでタリバンが優勢になっている」と語っている。

(2) 8月26日、非政府組織『ペシャワール会』で、現地の農業支援活動に携わっていた、静岡県出身の伊藤和也さんが、ジャララバード近郊で何者かに拉致され,後に殺害される、という実に悲しむべき事件が起きた。欧米系のNGO関係者も、最近多くの犠牲者を出しており、改めて、アフガニスタンでの治安状況悪化を浮き彫りにした。

(3) 上記『ペシャワール会』の現地代表・医師中村哲氏が、2007年8月31日の毎日新聞紙上で、日本政府が準備している「テロ特措法はアフガン農民の視点で考えてほしい」と題するエッセイを書いている。その中で、氏は、米英軍の空爆によって多くのアフガン農民が殺されている事実を指摘し、日本の、インド洋上のNATO軍艦船への給油活動が、現地での反日感情を掻き立て、NGOの活動を危機に陥れていることを厳しく指摘している。この危惧が現実となったのが、今度の伊藤さんの事件である。
 年間90億円にも達する日本の給油が、現地民衆を助けるどころか、空爆によって彼らを殺すのを助けているとしたら、これは由々しき問題である。 (2008.08.28)



 
by shin-yamakami16 | 2008-08-25 21:20 | Comments(0)
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グルジアと米・露確執の結末
                            山上 真

 何とか「五日間戦争」は終結したようだ。8月17日、グルジアに次いでロシアが停戦合意に署名し、ロシア軍の撤退が始まった。
 この間目立ったのは、慌てふためいたブッシュ氏の数回の演説と、グルジア・サアカシュヴィリ大統領の必死の「救国の訴え」だった。自ら招いた危機を、いかにも全てがロシアの「侵略行為」の所為であるかのように振舞った。日本を含む西側メディアの多くも、彼らの口車に乗って騒いでいる形であった。しかし、事の本質はどこにあったのだろうか。

 8月7日から8日にかけて、7400人のグルジア軍が突然、ロシア住民が大多数を占める自治領・南オセチアに侵入し、砲撃・銃撃によって1400人が死亡したという。
 サアカシュヴィリ大統領が北京オリンピックの最中に狙いを定めて、かねてから立てていた作戦計画を実行したという説が有力である。この時期ならば、ロシア軍は動かないだろうと、高を括っていたらしい。また、密接な関係にあるブッシュ政権の同意のもとに行われた作戦行動だった,という説も一部流布している。
 
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    グルジア軍の攻撃を受けた南オセチア住民

 南オセチアは、グルジア南西のアブハジアと並んで、グルジア国内にあるロシア人が住民の多数を占める、言わばロシアの「飛び地」である。この二地方は、1990年代から自治領としてロシア軍管理の下に置かれ、グルジアからの独立への動きを強めていた。これに対し、2004年、「反露・親米」を売り物にして選挙に圧勝したが、最近,人気が陰っているサアカシュヴィリ氏としては、先手を打つ必要に迫られていた。

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           ロシア軍の爆撃を受けたゴリ住民

 この国は、ブッシュ政権の要請を受けて、あの「イラク」に2000人もの軍隊を派遣している特異な国である。NATOに属しているドイツ、フランスさえ、一兵も送っていないのに、である。サアカシュヴィリ氏ご本人は、米国で教育を受け、法律家の資格を獲得した自称「民主主義者」なのであるが、グルジア国内では、反対派系のテレビ局を閉鎖させたり、反政府デモを暴力的に弾圧したりしているという。

 様々な情報から判断すると、どうもロシア指導部は、グルジア側の「南オセチア侵攻」作戦を今や遅しとばかりに、待ち構えていたようだ。プーチン首相はオリンピックを見ていたが、事が起こると即座に北京を離れて、現地に直行した。
 
 圧倒的兵力・火力を動員して、瞬く間にグルジア侵攻軍を蹴散らした。南オセチア首都ツヒンバリ解放後、グルジア内部の都市ゴリに到達した。他方、ロシア黒海艦隊を派遣して、アブハジア、黒海沿岸部を制圧した。この間、米国の援助で武装・訓練を受けて養成されたグルジア軍は、ロシア軍の電撃作戦によって、潰走するばかりであった。

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 このようなロシア軍の進撃を、「不均衡反撃」として、西側政府・メディアは一斉に非難している。ロシア側からすれば、「二度とグルジア側からの侵攻無き様に」措置しているということなのだが。

 最終的に、戦場となった地域の住民2000人が犠牲となり、16万5千人が難民となった。双方の戦闘員死者は200人とされる。

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 ここで想起されるのが、「コソボ戦争」である。米国ブッシュ大統領、英国ブレア首相らは、1999年、セルビアが支配するコソボ地区のアルバニア系住民の独立を、軍事力で強引に認めさせた。
 もし、この図式を南オセチアに適用するならば、ロシア系住民の独立を認め、南オセチア、及びアブハジアの国家樹立を承認しなければならないことになる。それを拒否するサアカシュヴィリ氏を支持するとなれば、「二枚舌」と非難されても仕方ない。


  英国『ガーディアン』紙の論説記事の中で、サイモン・ジェンキンス氏は次のように述べている。
 「嘗ては国家主権の尊重を原則としている国連によって、防げていた国家対民族の衝突を、ブッシュとブレアが『コソボ戦争』という恣意的干渉行為によって解き放った。その結果、世界中で分離・独立運動が活性化してしまった。至る所で流血の惨事を目にすることとなった」 (August 13 2008)

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           ロシア軍進撃を非難するサアカシュヴィリ氏  
    
 一方、フランスの『リベラシオン』紙は、解説記事の中で、
 「若くて激情型のサアカシュヴィリは、自己の独裁的政権を救う為に何かしなければ、と思ったのだ。米国の政権交代期を好機として、グルジア民族の気概を奮い立たせる『南オセチア解放』を実現することを、ブッシュ政権も支持しない筈はない、たとえ、ロシアと対峙することになっても、NATOが助けてくれるだろう、と考えていた」と述べている。  ( samedi 9 août 2008)

 今後のグルジア国内情勢について、仏紙『フィガロ』(14/08/2008) は、
 「国内を通って西側に供給している石油・ガス輸送管が閉鎖されており、銀行が業務を停止し、経済活動が止まっている。また、ロシア軍の攻撃を受けて、グルジアの殆どの軍事インフラが破壊された。更には、誰がこの戦争の口火を切ったのか、ということがグルジア社会の中で問われ始めている。発端がサアカシュヴィリ氏、ということになれば、今度の戦争による混乱の責任が、厳しく追及されることは必至だ」と伝えている。

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            北京オリンピック会場での二人

 米国政府の出方については、大統領がかなりヒステリックにロシア非難を繰り返していたのと対照的に、ゲイツ国防長官の、「ロシアとは今後も安定的な関係を続行しなければならない」と冷静に語る姿が印象的であった。しかし、ロシアが最も警戒している、ポーランドへのミサイル配備を米国・ポーランド双方で合意したことが、新たな緊張関係を欧州で生じることは間違いない。事実上の「新たな冷戦」が、小国指導者の向こう見ずな野望をきっかけとして始まったことは、悲しい皮肉だ。
                           (2008.08.18)


<写真> The Daily Mail, The Guardian, Le Monde, Libération 掲載のもの
by shin-yamakami16 | 2008-08-18 11:21 | Comments(0)
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                長崎原爆キノコ雲

'NO' と言えぬ日本政府
                               山上 真

  この8月、久しぶりに日本に居て、広島、長崎の「原爆の日」を振り返ることができた。それぞれの「記念式」が一層充実した形で,整然と執り行われるのは貴重なことだ。
 筆者は、これまでに広島を3回、長崎を2回訪れたが、行く度に原爆記念館・資料館が整備され、充実しているのを見てきた。新しい資料、写真などが内外で発見され、加えられている為だろう。
一方では、被爆者の高齢化が進み、「語り部」が少なくなっていること、被爆記念物を穢したり、壊したりしようとする不逞の輩が増えてきているという問題が生まれている。
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               広島爆心地近く
 
 今年は、長崎在住で、その弟が未だに行方不明だという被爆者代表・森重子さんの、「平和を守る為に憲法九条を決して変えてはなりません」という訴えかけがとても印象に残った。式典でこの言葉を聞いていた福田首相はどう思っただろうか。自民党内の圧倒的に多い改憲派を説得して、きっぱり改憲を拒否するような姿勢を示せれば、北京でのオリンピック開会式から直行して、ここに出席した意味があるのだが。

 先日、戦争直後に広島・長崎に入り、軍の命令で、原子爆弾の破壊力を記録する為に写真撮影に従事していたアメリカ軍人ジョー・オダネル氏と、死後、その遺志を継いで、米国で原爆被害の悲惨な実態を訴えている息子の「ドキュメンタリー番組」を、『NHK総合TV』が放映していたが、その中で、原爆投下を命じた当時の大統領トルーマン氏さえ、「前大統領(ルーズベルト)の決めたことを引き継いだだけで、自分としてはやりたくなかった」という趣旨の発言をしたという。<参考>
       
 しかし今なお、6割近くの米国人は原爆投下について、何も悪いことはしていないと思っているようだ。国際法では、戦争に於いて、一般市民を巻き込む大量殺戮、所謂「ジェノサイド」は、戦争犯罪とされているが、彼らにはこのような「罪の意識」がまるで見られない。だからこそ、原爆のみならず、焼夷弾を住宅密集地に大量にバラ撒き、数十万人の人々を焼き殺すことができたのであろう。百万人の犠牲者を出しているイラク戦争という暴挙もこの文脈で説明がつく。   

 歴代日本政府が、太平洋戦争と、その戦禍についての日本の責任を曖昧にしてきたことが、今度は米国に対して、その非人道的行為の責任を何ら追及することなく曖昧にし、戦後の「対米隷従」とも思えるような卑屈な外交姿勢を取らせることになった。
 
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          放射能漏れを起こした米原潜ヒューストン
 
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 沖縄、佐世保や横須賀に寄港している米国「核艦船」即ち、原子力潜水艦、航空母艦が再三にわたって放射能漏れ事故、火災を起こしているのにも拘らず、日本政府はまともな抗議すらしていないのはどういうことか。
  
 
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     火災を起こした横須賀配備予定の原子力空母ジョージ・ワシントン
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 直接的な核事故の危険性ばかりでなく、米艦艇に積載していると考えられる核ミサイルなど核兵器の存在が、ひとたび極東で緊張状態が高まれば、相手方の「第一撃」を誘発し、三度、「ヒロシマ・ナガサキ」を再現しないとは誰が言えるのか。米国政府は日本への「核持ち込み」を否定しているが、それを「信じたい」のは日本政府だけで、中国など他国がどう思っているかは別問題である。
 
 'I have a DREAM' --- それは、第1段階で、「日米安保」を解消し、朝鮮半島、沖縄を含む日本からの米軍全面撤退、同時的に、極東全ての国々・米国が参加する不可侵・集団安全保障条約の締結である。第2段階では、アジア・太平洋地域での全面「非核化」を実現すること。最終的には、世界規模の「核兵器廃絶」を実現する。
 この願いを少しでも早く実現できるように、皆さんと共に頑張りたいと思っている。                             (2008.08.10)      

<参考> NHK 「解かれた封印・米軍カメラマンが見たNAGASAKI」
     http://www.nhk.or.jp/special/onair/080807.html 

<写真> Wikipedia, 日本図書センター, The Gazette, CNN.com 掲載のもの     
by shin-yamakami16 | 2008-08-10 16:12 | Comments(0)
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権威失墜のロンドン警視庁
                            山上 真

 1999年4月、筆者が英国南部の学校で日本語を教えていた頃の話である。いつも見ているBBC・TVの花形キャスターが勤務から帰って、入ろうしていた自宅アパートメントの玄関先で、背後から一発の銃弾を頭部に受けて殺害されたという事件は、射殺事件は珍しくないにしても、衝撃的であった。

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             ジル・ダンドーさん
 
 事件の目撃証言は得られず、物的証拠も乏しく,捜査は困難を極めた。ジルさんが ‘Crime Watch' という番組を担当していたことから、番組で取り上げた事件関係者の犯罪プロがやった仕業とか、当時始まったNATO軍による「コソボ戦争」と結びついた政治的背景を持った事件、というような憶測が為されたが、決め手は無かった。
 
 当然のことながら、手っ取り早い方法として、ジルさんが住んでいたロンドン西部フルハム近辺に住み、犯罪歴を持つ者が洗われた。その中から、1983年に婦女暴行未遂事件で逮捕されたことがあり、その後も、数多くの女性に対してストーカー行為を執拗に繰り返していたバリー・ジョージ元被告が捜査線上に浮かんできた。彼は孤独かつ自閉的な生活を営み、「奇人」として近辺に住む人々から怖れられていたという。故ダイアナ妃に憧れ、彼女の住むケンジントン宮殿に「ナイフを持って」侵入したところを逮捕されたこともあるという話だ。

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           元被告バリー・ジョージさん   
 
 警察が狙いを定めて家宅捜索したところ、夥しい数の女性写真と共に、ジル・ダンドーさんの写真を掲載した新聞、雑誌などを発見して、彼の逮捕に踏み切った。事件から一年後のことだ。しかし,他の証拠品と言える物が殆どなく、後になって警察が提出したのは、バリーのポケットの中に有ったとされる銃弾のごく微細な破片と、彼の衣服に付いていた、ジルさんの着ていたコートの素材・ポリエステル繊維一本だけである。勿論、本人は終始、自分が犯人であることを否定していた。

 2001年の裁判では、陪審員の多くがバリー被告を有罪とする評決をして、勾留が続けられたが、陪審員の一人の女性は、バリー被告が犯人であることに強い疑問を抱き、証拠とされる物について再鑑定を求めた。その結果、「銃弾破片」とされるものが、犯行の際に発射された銃弾のものとは限らないことが分かり、証拠能力を失った。また、「繊維」も、全く同種の繊維が、一般に売られている衣料品に使われていることが判明した。つまり、偶々、同種の繊維屑の一本がバリー被告の服に付いた可能性が出てきたのである。
 残るのは、状況証拠だけとなった。「彼のような人物が如何にもやりそうな犯罪」ということである。しかし、知的障害を伴い、性格的に「凶暴さ」が目立たない人物が、果たしてジルさんのような女性を「冷酷に」銃弾で殺害できるだろうか、という根本的な疑問が関係者の間で生まれていた。
 
 この8月1日の判決では、陪審員全員がバリー被告の無罪を主張した。原告側も、割り切れない思いを抱きつつも、この評決を受け入れることを表明した。無罪判決は確定した。バリーは8年間の勾留生活から解放された。「信じられない」という言葉を繰り返しながら、法廷を去って行った。

 釈放の日から数日して、バリー元被告は幾つかのタブロイド紙のインタヴューを受けて、今後は決して女性に対するストーカー行為をしないことを誓っている。また、差し当たり、気に入ったチームのサッカー試合を見に行ったり、ジャマイカとか,南米に旅行に行ったりしたいこと,いずれ仕事を見つけて結婚したいとも、明るい表情を浮かべて語った。

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          インタヴューに応じるバリーさん
 
 この裁判は、事件の性格上、大変な注目を集め、人権団体『リバーティ』や、誤審監視グループなどが再審を支援してきた。元被告には、常に心理学者の女性が付添っていた。当然のこと乍ら、妹ミシェルさんなど、家族の支えも大きかった。

 
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            妹ミシェルさんと
 
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        審理中、常時付添った心理学者スーザン・ヤングさん
 
 この「誤審」についての賠償額は500,000ポンドとも言われ、「バリーは億万長者になった」などと騒ぐ向きもある。一方、捜査当局が要した費用は、この事件捜査と裁判費用を合わせて、1000万ポンド(約22億円)に達している。
 その上、ロンドン警視庁は、現在、別の真犯人について何の情報も持ち合わせていない。杜撰捜査のツケは巨大だ。 (2008.08.05)

 

<写真> The Daily Mail, The Daily Telegraph, The Times 掲載のものである。
by shin-yamakami16 | 2008-08-05 10:55 | Comments(0)