世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

<   2008年 11月 ( 5 )   > この月の画像一覧


 
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「アジア大乱」の予兆か?

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 11月27日にインド・ムンバイ(旧ボンベイ)で起きた連続テロは、60時間の惨劇の中、195人の死者と,約300人の負傷者を出して終息した。死者の中には、米国人6人を始めとして、英国人、日本人など外国人約10人が含まれていた。欧米、日本などの外国人が主として宿泊する二つの豪華ホテルが、10ヵ所に及ぶ攻撃拠点の中に含まれていたことは、このテロ事件の性格を如実に物語るものであろう。
 

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 20人以上の「ダッカ・ムジャヒディン」を名乗るテログループが周到な計画に基づいて、自動小銃、手榴弾を豊富に用意して,インド軍と長時間対峙したことは、世界に衝撃を与えた。インド当局によると、犯人らは、投獄されている仲間の解放を求めたということだが、事件の規模から見て,それだけの目的ではないことは明らかだ。彼らは「欧米人のパスポートを持つ者」を探し回ったそうだ。また、ユダヤ教拠点が攻撃目標になった。
 つまり、少なくとも一つの目的として、欧米・イスラエルをターゲットにしたということだ。
 インド政府は、このテロ事件の首謀者が、パキスタンから侵入してきたイスラム過激派であることを示唆する声明を出しているが、真相は未だ不明だ。


 
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 これまでにインドでは,何度か大きなテロ事件に見舞われた。今年だけに限っても、5月にインド北西部の観光地ジャイブールで発生した無差別テロ事件では、9件の連続爆発で、60人が死亡し、約100人が負傷した。ここでは、外国人の被害者は一人も居らず、経済的不満を持つグループが、インド政府の信用失墜を狙ったテロとされている。
 10月30日、北東部アッサム州で起きたテロ事件では、死者70人、負傷者470人に上った。ここでは、13回の爆発がほぼ同時に発生した。犯人は、イスラム過激派とされている。


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年率8%を超えるインフレの中、ヒンズー主流のインド社会の中でイスラム派は貧困、カースト(身分差別)が生きている社会、経済格差に対する不満を募らせている。加えて、イラク、アフガニスタンでの、米国・英国などのイスラム社会への直接的武力行使に対して、激しい憎悪を燃え上がらせていることもあるだろう。


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 最近は、インドへの日本企業進出の動きが著しいと云う。日本企業のインド国内の拠点数は今年1月の555ヵ所から、10月までに840ヵ所に急増した。ムンバイは先進国の金融機関が集まる「金融センター」になり、金融、商社、製薬などの企業が、120の拠点を置いているということだ。(朝日新聞11月28日)
 恐らく、日本企業のインドへの投資の激増は、昨年の「反日運動」などで中国市場の先行き不安が生まれ、企業が方向転換を図っている結果であろう。確かにインドのIT技術や、知的資源の魅力には抗えないものがある。しかし、ここでも、「テロの起こる土壌」という地政学的問題が潜んでいた。

 主観的に言えば、嘗てのインドは、世界の「非同盟運動」で指導的な役割を長期に渉って演じてきた「平和勢力」であった。しかし、現在は、ITなど科学技術でめざましい発展を遂げる一方、インド亜大陸で、米国の承認の下に核武装しつつ、同じく核武装国パキスタンとの覇権を争う「危ない国」になっている。ガンジーの「非暴力主義」や、ネルーの「平和主義」は一体どこへ行ってしまったのだろうか。
 

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 ムンバイでのテロ事件とほぼ同時に、タイ政権混乱による2空港閉鎖で、1万人の日本人が身動き出来なくなったと云う。ミャンマーの軍事政権の行方も不安定なままだ。中国政府による暴動鎮圧の後、チベット「独立」の方向が、抵抗勢力によって提起されている。インドネシア、フィリピンでのイスラム原理主義運動も依然として根強く続いている。「テロの元凶」とされるアフガニスタン戦争の帰趨も全く混迷状態だ。「アル・カーイダ」指導者ビン・ラディンの行方も掴めていない。
 こう見ると、アジア全体が今後の数年から十年の間に、激動期を迎える可能性を到底排除し難いことが理解できる。            (2008.11.30)


<追記> 英国・BBC Radio 4 は、イスラム過激派を批難するのはいいが、イラク、アフガンなど全世界で、米英軍がどれだけ多くの人々を殺してきたか、という事も考えるべきだという中年男性、及び女性の声を紹介していた。ガザで、パレスチナ人に対する無差別攻撃を続けるイスラエルも、テロリストと変わらないじゃないか、という声も別の男性の意見だった。(11月29日,15:24)
  

<写真> The Guardian, The Daily Telegraph, The Times, Le Monde
by shin-yamakami16 | 2008-11-30 14:08 | Comments(2)

足音高まる「世界恐慌」


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「近代経済学」は現事態に応えられるか?
                          山上 真

 世界的「経済・金融危機」を迎えて、各国首脳は、先ずワシントンでのG20首脳会議、次いでペルー・リマでのAPEC(アジア・太平洋首脳会議)と立て続けに危機への対応を図っている。しかしながら、現ブッシュ政権の制約を避けたい米国の次期大統領オバマ氏がG20に出席しなかったこともあって、この一連の国際会議の成果は,極めて限定的となった。そのことを裏付けるように、これら会議後の各国経済指標は、株価大幅下落など、軒並み低調なものとなった。これら会議で再確認された原則、即ち、今後も「自由競争に基づく市場主義」が、どのように機能するかということの深まった議論なしに再確認されるだけでは、深刻な不況に悩む一般社会にとって、到底納得し難いものだった。例えば、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、これらの会議の記事を、通常は第1面を飾る筈のものを、3ページ目に掲載するという扱いにした。

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 この最中に、オバマ氏は、米国自動車産業の危機が極めて深刻で、今後何百万の雇用が失われる恐れがあると言明した。メディアも、米国デトロイト、ミシガンで大規模人員整理が迫っていることを伝えている。次期民主党政権の下での、政府資金補給の意図が明らかになっているが、その効果が如何程のものか疑われている。米国車の生産コスト競争で、到底日本車に及ばず、機能性も早期の改善が望み薄だからである。そんな環境で、日本への関心が好い意味でも,悪い意味でも高まっているのも事実だ。先日のFOXラジオは、長時間に渉って、日本社会の特徴、地理、産業構造などを、非常に浅い知識しか持たない聴取者の質問に答えながら,説明していた。TOYOTA, HONDAなどの日本車の名称が頻繁に登場している。

 11月 22日には、株価暴落の煽りを受けて、米国大手銀行・シティグループが資金不足に陥り、投資会社か政府の多額資金援助を求めていることが明らかになった。もし破産することになれば、世界中の従業員35万人が路頭に迷うことになる。


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 早くも雪景色の英国では、雑貨・大スーパーマーケット 'Woolworths' が倒産の危機に陥っている。現経営者は、全国800店舗を僅か1ポンドで売り渡そうとしていると云う。3万人の雇用者が厳寒の中、「荒涼とした」クリスマスを迎えようとしているということだ。
 
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 このような事態に英国政府は、矢継ぎ早に緊急経済政策を発表している。ダーリング蔵相は、22日、VAT(付加価値税=消費税)を現行17.5%から、15%に下げる方針を示したと云う。それに依って消費を刺激し、経済活性化を図ろうとする。
他方では、'Northen Rock' や スコットランド銀行などの救済策で膨らむ一方の国家財政赤字への対策として、年収15万ポンド(約2200万円)以上の所得者の税を、40%から45%に引き上げる増税策を明らかにした。富裕層に重い負担を求めるこの政策は、ブレア前政権との「決定的な別離」を意味するということだ。
 
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しかしながら、こうした政策によっても、英国経済が好転するだろうと考える人は少ない。今年度の住宅差し押さえが45,000件に達するだろうとする予測を見ても、ますます深刻化する事態の見通しは暗い。

 ここ数十年間に渉って支配的だった「近代経済学」は、これら経済・金融危機に対して、どのような解決策、いや、少なくとも指針を持ち合わせているのだろうか。嘗て誇っていた学問的自信は、どこに行ってしまったのだろうか。金融商品「デリバティブ」などの流行語も、今や「損失」を象徴する言葉に化した。様々な新聞、雑誌類を見て回っても、事態の深刻化を強調する事実説明ばかりで、脱出策を吐露する論文を寡聞にして知らない。

 ドイツでは最近、カール・マルクスがよく読まれているという。これは、日本で
戦前のプロレタリア作家・小林多喜二の『蟹工船』が、若者たちを中心に読まれ始めていることと軌を一にしている動きと捉えてよいだろう。現代資本主義が齎した多岐にわたる惨状を、どのように正確に捉え、そこからの解決策を求める先は,他ならぬ「過去のもの」とされる古典に在るのかも知れない。
                        (2008.11.25)
 

<写真> The New York Times, Washington Post, The Times, The Daily Telegraph
The Guardian 掲載のもの
by shin-yamakami16 | 2008-11-25 22:36 | Comments(0)
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米軍戦争犯罪は、どこまで裁かれるか?
                            山上 真

11月17日(月)夜、渋谷駅近くの小さな映画館で催された、イラク米軍の犯罪行為を告発した映画会に参加した。100人程収容できる館内の席の9割が、ほぼ各世代を網羅している観客で埋まった。

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 米国・*Brian De Palma監督製作の映画の広告には、「その挑戦的なテーマで
2007年ヴェネチア国際映画祭に大きな衝撃を与え、賛否両論の嵐を巻き起こした末に、優秀監督賞である銀獅子賞に輝いた。アメリカ公開時には、FOXのニュース番組が上映禁止を呼びかけるなど、様々な波紋を呼んだ」
 
「本作は、兵士が撮影するプライベート・ビデオの映像を中心に、YouTube、各国のTV番組、従軍記者の取材映像、インターネットサイト等々、現代に溢れる様々なメディアの映像を組み合わせながら、マス・メディアが切り捨てた真実に迫る。その映像の数々はドキュメンタリーと見まがう程に生々しいが、実は役者によって演じられ緻密な演出が施された完全なフィクションである」

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「フィクションとノンフィクションの境目を曖昧に描くことで、現実に私たちに届けられる情報は”真実”なのか?という問いを投げかけ、単なる反戦映画に留まらず、情報操作の恐ろしさを訴えるのだ」と書かれているが、この映画の本質を充分に伝えている。

 一つの重要なポイントは、バグダッド中部・サマラ駐留米軍が警備・管理する
'barrage' と呼ばれる 検問所での悲劇である。他国に勝手に侵入してきて、傍若無人に、民衆の生活に直結する交通を管理するという「暴虐性」が赤裸々に描かれている。男の兵士が堂々と少女の体を上から下まで探って触れるという恥辱を与えた後に、厚手の手袋を再びつけながら、にやにや笑うといういかがわしさ。緊急入院の為に先を急ぐ自家用車が、「警戒線突破」と看做されて、乗っていた妊婦とお腹の子供を射殺してしまう。

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 2006年3月、イラク中部マフムディアで起きたレイプ・殺人事件では、一度夜間捜索で目をつけた一家を綿密な計画を立てて、5兵士が再び襲い、妻と娘を強姦、居合わせて抵抗した祖父、幼女を射殺、事後更に、妻と娘を射殺、死体を焼くという、おぞましい行為をやってのけた。うち1人の兵士は行為を詳細にフィルムに撮影して証拠を残し、後にテロ・グループに捕まって、斬首されるに至った。この事件は、軍当局によって捕捉され、当事者たちは尋問されたが、事件全体が 'redacted' 、即ち編集されて、生々しい事実は、世の中に広く公表されることがなかった。 

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  映画の後、イラクから来日しているカーシム氏、高遠菜穂子さん、朝日新聞・吉岡一氏がこの映画の背景説明をしてくれた。
 カーシム氏は イラク駐留米兵は、個人的欲望から、金、貴金属などの窃盗、レイプを頻繁にやっているという。このような犯罪を犯せば、強制除隊になって、早く帰国出来るから、という驚くべき理由があった。日本でもよくある「食べる為に、犯罪を侵して刑務所にはいる」類いである。これでは、取り締まりようがない。
 その上、多くの兵士たちは、利己的な動機で様々な悪事を働きながら、「命令に従っただけだ」と嘯いている。

 カーシム氏は、このような犯罪が跡を絶たない以上、米軍駐留が長引けば、イラク人の憎しみに依る抵抗運動が一層強まるだけで、早期撤退が望ましいと結論づけた。
 米軍侵攻によって破壊された国境から入り込んだアルカイダは、直接的に米軍攻撃で犠牲を蒙った民衆の間に支持を一定程度、獲得したということだ。外から侵入したのは、アルカイダばかりでなく、シーア派過激派も、中近東各地から入り込んで、抵抗勢力と一体化したようだ。

 この晩の会は、『リダクテッド』上映に引き続く三者の解説と質疑の時間が僅かしかなく、折角の機会が生かされなかったのは残念だ。諸事情あるだろうが、この点、主催者側に工夫を望みたい。

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             イラク民間人死者数推移

 最近のイラク国内では、11月9日にバクバの検問所で女性による自爆テロが起こり、19人が死亡するなど、確かに米兵の死者数は激減したが、イラク民兵、市民の犠牲者数は夥しい数に上っている。特にバグダッド北方60キロの Diyala 出身の女性による自爆テロ事件は、今年だけで7件に達し、約100人が死亡している。  

 オバマ政権の誕生は、イラク社会で広く歓迎されている様だ。前回米大統領選挙の際も、ブッシュ氏と戦った民主党アル・ゴア氏が歓迎されたという。
 現在のイラク民衆が何よりも求めているものは、生活の為のインフラ整備だ。水も電力も限定的にしか得られない状況を、一日も早く回復しなければならない。
 
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          米軍・連合軍兵士・死者数推移

 これまで「イラク戦争」を常に批判してきたオバマ氏は、可能な限り速やかに、その違法性、実態を徹底的に究明し、戦後補償を実施に移すべきである。そのことが、過酷な運命を強いたイラク民衆に対する、唯一の贖罪の道だ。        
                           (2008.11.18)




<注> Brian De Palma:米国ニュージャージー州ニューアーク出身の映画監督。
  『キャリー』、『スカーフェイス』、『ミッション・インポッシブル』などを
   手がけた。第19回ベルリン国際映画祭銀熊賞、第64回ヴェネツィア国際映  
   画祭銀獅子賞などを受賞。コロンビア大学物理学科在学中に、『市民ケー
   ン』に衝撃を受け、専攻を映画に変える。


<写真> IMDb掲載のもの
by shin-yamakami16 | 2008-11-18 22:27 | Comments(2)
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2008米国大統領選挙(7)・結果と評価
                            山上 真

 バラック・オバマ氏が米国大統領に当選して以来、米国内のみならず世界中の人々に計り知れない反響と感動を呼び起こしている。
 'Yes, we can ' という合い言葉に象徴されるのは、「そうだ、やって見れば,出来るんだ」という底知れない自信である。そこには、長期に渉る共和党保守政治に絶望していた人々が、新たな希望と勇気を,オバマという人物の出現によって呼び覚まされた「新世界」が拓けている。

 オバマ氏は、「大統領選当確」直後の11月4日深夜、20万人が集まったシカゴ・グラントパークでの「勝利演説」で、次のように全国民に訴えた。

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 「もし今もなお、米国が全ての事が可能である場所であることを疑い、我々の建国者たちの夢が今日も猶生き続けているだろうかと思い、我々の民主主義の力を疑問に思う人がいるとすれば、今晩がその回答なのです」

 オバマ氏は、自分が決して有力な大統領候補者でもなく、先の見通しが全く分からないのに、極寒、酷暑の中を献身的に働いてくれた何百万人もの支持者に謝意を表し、この勝利が「人民の、人民による、人民の為の政府」を具現する皆の勝利とした。

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 「皆さんは、前方に横たわる課題の途方もない大きさを理解しているが故に、此処までやって下さった。今晩の祝福の最中にも、明日の齎す挑戦が、我々の生涯の内でも最大のものであることをご存じである。即ち、二つの戦争、危機に曝されている地球、そして、1世紀の内で最悪の金融危機なのです」

 「私たちがこうしている時でさえも、子供たちが寝入った後に、どうやったら住宅ローンを借りられるかとか、どうやって医療費を支払ったらいいかとか、大学の学費を工面出来るかとか悩んで眠れない父母たちがいるのです。新しいエネルギーを開発し、雇用を創出しなければなりません。新たに学校を設け,脅威に対処し、友好関係を修復しなければなりません」

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 「前方に横たわる道程は長く、坂は険しい。1年間や、1期目にさえ辿り着くことは出来ないかも知れないが、今晩ほど、米国がそこに到達することに希望を持ったことはないのです。一つの国民として、そこに到達するでしょう」

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 オバマ氏は最後に、アトランタで投票した106才のアン・ニクソン・クーパーさんの生涯と、アメリカ近代史を重ね合わせて語る。彼女は、車も飛行機も見られない時代、「婦人であることと、皮膚の色」故に投票できなかった時代を知っているのである。彼女は大恐慌と、ニューディール時代、第二次世界大戦を経て、マーチン・ルーサー・キング師らの黒人市民権運動が実を結ぶのを見てきた。
 オバマ氏は、自分の娘たちがクーパーさんと同じ位長生きできるとすれば、どれだけの進歩を目撃できるだろうかと問う。そして、「アメリカの夢」を実現できる機会を今、一つになって手中にしていることを確かめ合っているのである。

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 11月8日のシカゴでの最初の記者会見で、オバマ氏は、、新政権が取り組むべき第一義的課題として、経済の正常化と雇用の創出を挙げた。更に、健康保険制度、気象変動、エネルギー依存問題に速やかに着手することを約束した。

 オバマ「新大統領」の新しい政策の萌芽が見え始めている。外交の方で、ポーランドへの米国ミサイル配備の約束を保留しているという情報が流れている。イランとの、話し合い路線もあり得そうだ。内政面では、人権侵害で悪名高いグアンタナモ収容所を閉鎖する方針が示されているという。また、ブッシュ大統領が「生命倫理上の問題」を理由として連邦予算の投入を制限しているES細胞(胚性幹細胞)研究を、「アルツハイマー病治療などにに役立つ」として推進しようとしている。ユタ州での石油・天然ガス掘削を承認するブッシュ大統領の姿勢も,環境保護の観点から、見直されそうだ。

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 11月10日、オバマ氏は、ブッシュ大統領の招待を受けて、ホワイトハウスに初めて入り、2時間の会談を持った。当選後、わずか6日を経たばかりの両者の会談は珍しいこととされる。折しも,ブッシュ大統領の不支持率は,CNNに依ると史上稀な76%に上るという。

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 オバマ氏は、米国内外の圧倒的な支持を背にして、エイブラハム・リンカーン以来の理想主義的政治活動に間もなく乗り出す。彼の主張してきた原点を固守しつつ、柔軟な現実的対応を発揮するならば、必ずや期待されるだけの成果を挙げるものと、私は確信する。              (2008.11.12)

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<追記>
ブッシュ政権国務長官ライス氏、オバマの当選を歓迎する。(11月6日)

FOX radio:人種的要素で世論調査結果よりも、実際の得票率が大きく下回るという「ブラッドリー効果」は、もう存在していないとする。(11月7日)

Gallup 調査:選挙後の初記者会見を経て、オバマ支持率66%で、選挙の得票率54%を上回る。 (11月8日)

FOX News:'American University' は、とてつもなく' liberal 'な教育をしていて問題だ。例えば、この大学の教科書に依ると、広島原爆投下は、日本降伏の為でなく、ソ連を威嚇・警告する為だった、とする。(11月8日)

宗教界:今度の選挙結果から見て、保守系・米国Evangelists(福音主義教会派)の影響力が著しく低下したことが指摘されている。これ迄の大統領選挙では、よく結果を左右して、共和党を有利にしてきたとされる。


<写真> The New York Times, Washington Post, Los Angeles Times,
Chicago Tribune, The Times, The Independent, Le Monde
by shin-yamakami16 | 2008-11-12 09:51 | Comments(6)

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オバマ勝利の意味

                             山上 真
 
  予測された勝利とは言え、バラック・オバマ米国大統領の誕生は、戦争と経済恐慌に苦しむ世界への、かけがえのない贈り物だ。彼は休むことなく、米国を震源とする全ての深刻な世界的諸問題、即ち、イラク・アフガン戦争、サブプライム問題に発する経済・金融恐慌、更には地球温暖化問題に対して、どのような根本的解決策を用意できるかという緊急課題に立ち向かわなければならない。選挙中にもよく指摘されたことであるが、未だ若いオバマ氏は、外交問題,経済問題などで決して十分な知識・見識を持ち合わせているとは言い難い。新たに学びつつ、しかし早急に、米国の諸政策を立て直さなければならない。そのことを、米国民ばかりでなく、世界諸国民が期待しているのである。
オバマ氏は、シカゴでの勝利演説の中で、マケイン氏の私心のない、立派な戦いを讃え、多くの共和党支持者の声に耳を傾ける姿勢を強調した。そして、一つの偉大な国を築く為に、新たな夢を実現する為に、全ての人々が協調して、難局に当たることを呼びかけた。マケイン氏も、アリゾナでの「敗北演説」の中で、オバマ氏の健闘を賞讃し、選挙中の激しい対立を乗り越えて、協力して行く意思を明確にした。
 オバマ氏の勝因については、「経済が人種問題を超えた」ことを挙げる人々が多いが、それは間違いではないにしても、それだけではないと思われる。簡単に言えば、草の根の市民運動から始まったオバマ氏の献身的人間像、ミシェル夫人を含む家族の雰囲気など、その個人的魅力が大いに闘いの行方を左右したであろう。

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米国大統領選挙・経過 (6)

FOX radio (22/10) :オバマが「麻薬をやっていた」話を蒸し返す。確か、去年の段階で、オバマが「若気の至り」で謝っていたこと。'BARACK OBAMA's Cocain
Days' 「African American President としては重大問題だ」とする。

Gallup調査 :世界70カ国での世論調査。64カ国でオバマ支持率がマケインを上回り、欧州ドイツ、フランス、英国で60%、日本でも66%対15%でオバマ圧勝の形。
興味深いのは、オセチアに侵攻したグルジアは、マケインが 23% 対15% で上回った。(朝日新聞 10月23日)

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ペイリン副大統領候補が、1500万円使って、高級服の「着せ替え人形」になっていることが、NHKを含む世界各国メディアで報道される。資金源の共和党は、この報道に当惑しているようだ。やはり共和党は、国民の貧しさとは無縁の思想を持つ「金持ち政党」だ。
 更に、アラスカからニューヨーク迄の子供同伴費用を州政府に負担させていたことが判明した。
 こうした非常識な行動によって、女性の好感度が54%下がっている。
 (毎日新聞 10月23日)

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マケイン陣営の運動員女子学生(白人)、自傷事件を起こし,それを「黒人による傷害事件」のように僭称したことが,明るみに出た。(10月25日、東京新聞)
 恐らく、この女子学生は、自陣営の旗色の悪さに危機感を抱いて,このような事件によって,「黒人の犯罪」をアピールし、少しでも同色のオバマ候補を叩こうと図った,幼児的行動と思われる。マケイン陣営の混乱を象徴するような茶番劇だ。

『ニューヨーク・タイムズ』紙社説、「オバマを米国大統領に」と、支持を表明。
「この困難な時代にオバマを選択することは正しい」とする。(10月24日)

FOX radio :各種世論調査で、オバマとマケインの支持率差が、9 〜15% と、更に広がっている。
ペイリン候補の、共和党資金を使った華美な服装問題、党選挙スタッフとの「*記者会見」をめぐる軋轢、アラスカでのスキャンダルなどがじわじわと響いてきている。 

再び、オバマ暗殺計画発覚。白人至上主義者の若い男二人(テネシー、アーカンソー州出身)が、オバマ氏と黒人多数を、高速運転の車から無差別銃撃を企てた。27日、米司法省が二人を逮捕し、公表。

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米国北東部で雪が降り始めているということだ。ニューヨークは4度C、風景を見ると、如何にも寒そう。この寒さの中での選挙戦、両候補にとって最後の過酷な闘い、特に苦しいマケイン候補には悲壮感が漂う。(10月28日)
 有利に進めているオバマ候補は、勝利が確実だという「楽天主義」を戒め、最後の一瞬まで、票固めをするよう訴えている。一方、マケイン候補は、「やっぱり駄目か」という悲観主義に陥ることなく、「立ち上がって,立ち上がって!」と必死に訴えている。

FOX radio : マケイン候補が、ペンシルバニア州で、これまで10%以上、オバマ候補にリードされていたのが、4%に迄追いついていることを伝える。(10月31日)
 このFOXは,しょっちゅう、このような「マケイン激励」のメッセージを流している。

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ロサンゼルス・タイムス紙:ミズーリ州は、圧倒的に共和党地盤であるが、オバマ陣営は、頻繁な戸別訪問、及びTV広告に依って,精力的に票の掘り起こしに努めている。人口の80%以上が白人で、ブルー・カラーの労働者層が厚い当地では、民主党支持者さえも、「もし、オバマが白人なら、問題なく彼に投票するのだが」と語る。迷うのは、人種的要素に加えて、株価暴落、雇用不安などの経済的危機の解決を誰に託せるかという問題である。民主党・オバマ候補の方が適格と分っていても、やはり人種問題が心理的に付きまとう。         
 セントルイスのGateway Archでの「オバマ演説会」には、10万人が集まった。                               
                              (10月31日)
     
FOX radio : 「ハリウッドの映画界の多くが、オバマ支持であるが、中には、マケイン支持の人々もいる。そのような女優の一人は『オバマは共産主義者で、キューバのカストロのように振舞うだろう。ペイリンは、面白くていい』と述べる」
 若い女優は、この程度の認識しか持っていない。流石に、FOXラジオの解説者も失笑していたが、マケイン支持者の知的レベルの低さは、目を覆うばかりだ。
 
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                            (11月1日)
Gallup poll:オバマ、マケインの支持率差、52%対41%で、広がる。
Zogby は、オバマが支持を増し、マケインは滑り落ちつつあるとする。
                             (11月1日)
NPR News : アリゾナ州で、リードしているマケイン候補が、次第にオバマ候補に
追い付かれてきている、とする。              (11月1日)

ニューヨーク・タイムズ紙 : 消費者の購買力激減によって、価格失墜、投資窒息、を招き、数年に渉って雇用悪化する、デフレーションの「幽霊」が徘徊している。
                             (11月1日)
英国ガーディアン紙:オバマ候補の叔母が「不法移民」で、彼女が「違法に」オバマに総額$260の寄付をしていることが明るみになり、投票日を4日後に控えて、マケイン陣営の恰好の攻撃材料になる事が懸念される。(11月2日)

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英国テレグラフ紙:英国で最も古い「梵火祭」(東サセックス・ヘイスティングズ)で、機関銃を抱えた 'RAMBO' 姿に作られた米副大統領候補セイラ・ペイリンの大人形が、火炙りにされるという。ペイリンの「銃規制反対」の態度を批判的に象徴させたもの。(11月2日)

ペイリン副大統領候補、電話でフランス大統領サルコジを騙ったカナダ・ケベック「ユーモリスト」の罠に嵌る。「ヘリから狩りをしようよ」、「ええ、そうしましょう」と言った調子。                  (11月1日)

FOX News : 相変わらず、オバマが「PLO (パレスチナ解放機構)の友人だ」とか、「マルクス主義者だ」というような放送を流す。
 彼が、「テロリスト」だという印象を与えることに躍起だ。オバマ候補の「叔母不法滞在」問題も、しつこく触れて回る。(11月3日)

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USA TODAY 紙:各種世論調査結果を発表。いずれもオバマ優位で一致する。
 Gallup: 52/41 Research2000/Daily Kos: 51/44 Rasmussen: 51/46
Diageo/Hotline: 50/45 Reuters/Zogby: 50/44 (%)   (11月3日)

ABC News : マケイン陣営がペンシルバニア州を最後の戦場として重視している理由は、他の幾つかの州を失っても、ここで勝てば、代議員数が多い為、逆転して過半数を獲得できるからだ。                   (11月4日)

FOX News :キャスターは、オバマの優勢を伝える中で、相変わらず、「ボストン・スラム街」に住むオバマ候補の叔母の「不法滞在」問題を衝いている。オバマが、「彼女は法を守って出国しなければならない」と述べたことを、「冷たい仕打ち」とコメントしている。オバマが大統領候補者として,そのように言わなければならないことを計算した上での挑発だ。ここに来て、「オバマ攻撃」の最後の切り札は、個人攻撃と、人種問題を強調することで、また、マケイン支持派としては,それしか残っていない。                   (11月4日)


投票日まで数時間を控えて、オバマ候補のハワイに住む祖母マデリン・ダナム(85)
が亡くなるという悲報が届く。彼の母親代わりになり、「家族の要」と彼が表現する人だった。   
 最後の遊説をしているオバマ候補の涙を拭う姿が見られた。  (11月4日)               
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FEN JAPAN : 解説者、オバマの「社会主義」は、税金も払わない貧しい者に、無料の教育、医療を施す一方、重税を課すことによって、中産階級を破壊する政策だ。このまま行くと、米国は,中南米のアルゼンチンみたいな国になってしまう、と激しく攻撃する。                     (11月4日)

最も早い投票結果:ニューハンプシャーの小さな町 Dixville Notch で、15対6票という開票結果をもって、オバマ候補がマケインを破る。ここは伝統的に共和党が勝ってきた地盤だ。米国一早い投票を行う選挙区として有名。(11月4日)

東部諸州の投票始まる。長い列に並ぶ人々、笑顔を見せながらも寒そう。最後の、最も正確とされる世論調査Daily/TIPP Poll に依ると、オバマ陣営は、51.5%、マケイン陣営は、42.4% という結果となった。(Los Angeles Times 11月4日)

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<開票始まる> 2008年11月5日

最重点ペンシルベニア州:65/34% でオバマ勝利の見通し,明らかになる。一方、
ジョージア州は、59/40%で、マケイン勝利の見通しとなる。

開票3時間後の情勢:オバマ候補は、東北部諸州で勝利を収め、代議員数200、マケイン候補は、予想通り、テキサス州など南部,中央部で強く、130人の代議員を獲得する。投票総数の比率は、50/49% で、オバマ氏がやや優勢。

フロリダ、ヴァージニアで接戦が続く。オバマ氏、アイオア、オハイオ、ニューメキシコを押さえる。

FOX News :オバマ候補が、第44代米国大統領に当選することが確定したと、全てのメディアの筆頭で伝える。代議員数は276から290人を獲得する模様とする。
                          (日本時間13:00PM)
カリフォルニア、オレゴン、ヴァージニア、フロリダがオバマに渡る。
ほぼ同時にABC Newsも、’Mr. President OBAMA’ の表示を出す。
代議員数  297/145 投票総数比率 51%対 48%        (13:05)

NHK BS ニュースも、ABCニュースの「オバマ当選確実」を伝える。(13:15)

間もなく、両候補の「敗北・勝利」演説が始まる。

マケイン敗北演説 :選挙中の激しさとは打って変わった落ち着いた口調で、オバマ候補の立派な闘い方を賞讃し、自己の「長い闘いの人生」が終ったことを、安堵感さえ湛えながら表明した。

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オバマ勝利演説:マケイン候補、そして「自分に投票しなかった」共和党支持者たちに、極めて配慮した演説だった。更には、夥しい数の、選挙運動を助けてくれたボランティアの人々に深く感謝する内容。多くの参加者が、喜びと感動の余り、涙を流していた。その中に、黒人解放運動指導者ジェシー・ジャクソン師が居た。

代議員獲得数:オバマ 338 マケイン 162
投票総数:62,419,768 (52%)  マケイン 55,368,713 (47%)  
(21:25)
民主党は、上院,下院選挙でも、新たに数議席を加え,安定多数を握る見通しとなった。

大統領選挙・当選者確定後も、ミズーリ、ノースカロライナ、インディアナの各州では、1%差で激戦続く。                   (22:30)



<注> 「記者会見」問題:ペイリン副大統領候補が、当初嫌っていた記者会見に応じる態度に変化したのに対して、共和党選挙本部が、「失言を重ねて笑い者になる」ことを怖れて、抑制させている対立を指す。
(2008.11.05)

<写真> ABC News, The New York Times, Washington Post, Chicago Tribune,
Los Angeles Times, The Times, The Guardian, The Daily Telegraph

<追記1>
 選挙結果から見て、大統領候補両氏の支持率差が5%に縮小したことは、直前世論調査の「7〜11%差」と較べると、驚くべき事実と言える。やはり、黒人候補への差別感情に基づく,一種の「ブラッドリー効果」が幾分か働いたと見るべきだろう。オバマ候補に投じるつもりで投票所に行って、最後の一瞬に臆してしまう有権者が相当数いたのであろう。オバマ氏が、最後の最後まで必死に訴え続けた理由がよく分る。
                            
<追記2>
 代議員獲得数:オバマ 349    マケイン 162人
 上院議員:民主党(D) 56 共和党(R) 40 下院議員:(D) 254 (R) 173 

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                             (2008.11.06)
by shin-yamakami16 | 2008-11-05 23:50 | Comments(0)