世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

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                          山上 真

 去年4月から今年春まで英国・ロンドン北東部郊外で暮らしていた頃、よく思ったことは、日本の社会・政治が保守政治の範疇内でも、少しは「安定」に向かうのではないか、ということでした。何しろ、しょっちゅう首相が変わって、英国メディアでは、日本政界の誰が誰やら分からないという混乱が起こっていたのです。
こういう状態が続くと、国際社会での日本の地位そのものが低下することが懸念されました。

 今日の日本がどのように海外で受け取られ、理解されているかということは、国際関係が国益に密接に結びついている点を考慮すると、外国の地に住んでいる者のみならず、一般国民にとって大きな関心事に違いありません。

 英国に於ける「日本」は、印象的に申し上げれば、一昔と較べて、影が薄くなってきているように見えます。その主因は、言うまでもなく、日本経済の沈下です。
その結果として、英国に於ける日本の資本投下が著しく減り、日本企業の撤退が目立っています。一説には、50%の事業所が閉鎖されたと言われています。例えば、ロンドン市内にあった3、4の日本の百貨店は、一つが残っているだけになって久しいです。
 
 この事実は、文化面の交流に少なくない影響を及ぼしています。日本語を学習する英国人学生の減少と、例えば英国北部ダーラム大学の場合のように、大学での日本語学科の廃止・縮小という傾向が顕著になっています。それと対照的に、最近では、中等学校での中国語選択者が増えているようです。これは、中国の目覚ましい経済発展と結びついた傾向です。

 英国BBCなどのテレビで、しばしば旧日本軍の残虐行為を描いた戦争映画が放映されるのは、近年の日本の指導者の「タカ派的発言」と無縁では無さそうです。靖国神社の参拝問題を巡っての中国・韓国などとの対立について、英国メディアは極めて敏感に反応し、日本支配者の「超右翼」的発言の度毎に、英国軍人が「シンガポール陥落」や「捕虜収容所」で受けた仕打ち・屈辱を忘却させないような意識的努力をしているようです。

 英国で日本の存在を否応無く意識させるのは、日本メーカーの自動車・オートバイ、テレビ、音響機器、プリンターなど電気製品の優秀さ、そして、'healthy' である鮨・豆腐など日本食品でしょう。これらの物品は、都市部を中心に、かなりの人気を博しています。未だ歴然たる差はあるものの、韓国製品が、それに追いつこうとして、一定の成果を上げていることは注目されます。

 日本が英国で悪名高い分野は、製薬会社の動物実験と、捕鯨です。前者は、数年前からの日本大使感館前での、動物愛護団体による反対示威行動で目立ってきています。
 捕鯨は英国全体を反対派としている、重大問題になっています。これは、日本人全体に「幼気な哺乳動物を捕獲し、食する野蛮な国民」というレッテルを貼りかねない、深刻な問題になりつつあります。当然のことながら、反捕鯨運動の急先鋒
'Greenpeace'に対する評価は、日本での状況と裏腹に、高まっているのが実情です。

 女王を元首として戴く英国民にとって、日本に於ける最近の「皇位継承」問題ほど解りにくい事は無かったことでしょう。女性が天皇を継承出来ないとは、どういうことなのかという強い疑問が、英国メディアの関心を呼んだのです。この一件で、「先進国日本」が、現代世界に於いて極めて「特殊な国」という印象を与えたことは確かです。

 芸術・文化面では、小津安次郎とか、黒沢明の映画が時たまテレビで放映されていますが、現代物は目立ちません。音楽では、陣太鼓実演の催しがしばしばあります。絵画では、江戸時代の広重の絵などが、時々披露されています。
 園芸で、日本的な盆栽、竹、もみじ、飛び石を基調とする和風庭園が人気を博しているようです。

 日本に何らかのきっかけで関心を持った英国人でも、日本に行くとなると、長時間の飛行の苦しみと高い運賃を考えて、二の足を踏むことになるのは、致し方ないと言えるでしょう。その傾向を一層強めているのは、先に述べたような、最近の日本についての否定的側面なのです。以前よりも、日本は魅力的な国ではなくなっているのです。
 
 この際、日本が「過去に回帰している奇妙な国」というイメージが固定化することは、何としても避けたいところです。米国がオバマ氏を次期指導者として選んで新たな航海に乗り出したように、日本も真の意味で「未来志向」に転じなければなりません。そうすることが唯一の「閉塞状況」脱出の道と言えるのではないでしょうか。
(2008.12.30)

 
by shin-yamakami16 | 2008-12-30 06:42 | Comments(2)

「ガザ惨劇」再び

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糾弾されるべきイスラエルの「過剰攻撃」

                          山上 真

 世界各地でのクリスマス祝祭の余韻未だ残る12月27日 9:30(現地時間)、60機のイスラエル空軍機がガザ地区を猛爆撃、225人を殺し、約700人の住民を負傷させた。

 
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 過去数十年間で最大とされるこの攻撃は、ガザ地区イスラム勢力「ハマース」のイスラエルへのロケット攻撃に対する報復として行われたものだが、一目瞭然の事実として、イスラエル側の攻撃の規模はハマース側のそれを遥かに超えた、過剰反撃と言える。ハマース警察・軍事組織を目標としたと言うが、子供を含む民間人多数が被害者となった。


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 これに対するハマースは、イスラエルへの徹底抗戦を呼びかけており、停戦の見通しは全く立っていない。米国政府は、イスラエル寄りの姿勢を崩しておらず、国連も双方の自重を求めるだけで、手を拱いている。


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 イスラエル周辺のパレスチナ人510万人の内、ガザ地区には150万人のパレスチナ人が住む。この地区は、イスラエル・エジプト当局によって事実上封鎖されており、電気、ガス、医療品が極度に不足する「収容所」と化している。この状態を放置しておくことは、重大な人道問題だ。

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「イスラム過激派」とされるハマースは、これら住民の生活の中に深く根ざしていて、もしイスラエルがハマース勢力の壊滅を図ろうとすれば、パレスチナ住民に多くの犠牲者を出すことは避けられない。


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 イスラエルはハマースをテロリストとして「抹殺するべき対象」にしているが、
両者の関係は寧ろ、「征服者」と「抵抗者」の対決関係として捉えられるべきだ。国際社会は歴史的経緯を確認した上で、両者の係争関係を整理することが望ましい。


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 すでにアラブ世界一円で、イスラエルの圧倒的な攻撃に対する激しい怒りと抗議の声が巻き起こっている。ハマースに極めて近い関係にある、レバノンの「ヒズボラ」の軍事行動を再び刺激する恐れもある。こうして、中近東一帯が、更に不安定化する可能性が生まれている。

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 根源的に辿れば、パレスチナ人が住む地に、西欧諸国の「ご都合主義」によって生まれ出た「イスラエル建国」の問題に行き着く。一方的にパレスチナ人の住む地を奪った責任を蔑ろにして、「イスラエル擁護」の立場を取り続ける米国、英仏などEU諸国は、今こそ、早急に抜本的解決策を講じるべきである。
                           (2008.12.28)


<追記> 12月29日の 'France Radio' によると、イスラエル軍の攻撃が続くガザ地区の犠牲者は、300人以上に達していると云う。
 

<写真> The Daily Mail, The Independent, Le Monde
by shin-yamakami16 | 2008-12-28 14:20 | Comments(2)

英国「クリスマス事情」

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「未曾有不況」下のロンドン

                           山上 真

 英国では、毎年、1ヶ月半程前から、市街至る所にクリスマス飾りが見られる。小さな町には、如何にも素朴だが、美しい大小の星模様の飾りが多い。ロンドンでは、リージェント・ストリートと、それに繋がるオックスフォード・ストリートの飾りが大規模で、豪華だ。昼間はあまり目立たないが、日が4時半頃に暮れると、雰囲気が一変する。ああ、これが「華のロンドン」だと素直に実感する。

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 今更言うまでもなく、今年の英国は、7、80年来稀な大不況が襲っている。全土で約100万人が職を失った。従って、出費を抑えようとする、企業、個人の動きで、例年程の賑わいは巷に無い。

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 人々はクリスマスを家庭で過ごすことにしている様子で、自動車利用の旅行者は例年より200万人少なく、航空機利用者も、373,000人減っているようだ。


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 企業活動縮小の為、クリスマス休暇が、ここ16年間で最も長くなり、1月19日迄休む従業員もいると云う。その中で、自動車関係に勤める人々は、1ヶ月の休業を強いられている。Ford, Aston Martin, Vauxhall などのメーカーが工場を一時休止する為だ。
 中小企業も、約500,000 社が、12月22日から、1月5日迄、閉じるということだ。燃料費、暖房費、タクシー代などを節約する為だ。


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 こんな折、12月20日の『デイリー・メール』紙によると、天文学者などが、「イエス・キリストが生まれたのは12月25日 ではなく、6月17日 であるから、現行のクリスマスは廃止するべきだ」と主張しているということだ。聖書が記している、キリストが生まれた時に東方から来た3賢人が見たという一際輝く「クリスマス星」は、天文学的観察結果から、二千年前の Bethlehem で、6月17日に現れた筈だと、オーストラリア人の研究者Dave Reneke氏などが述べている。

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 もし、これが真実ということになると、カードに描かれる風景は、将来、雪景色から、陽光一杯の浜辺ということになりそうだ。       (2008.12.21)




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     クリスマス・バーゲンに戻った客足・Oxford Street

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      交通まばらのロンドン市内


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       恒例の女王メッセージ:大不況の影響を気遣う内容のもの



<写真> BBC News, The Times, The Daily Telegraph, The Daily Mail , Mirror
Evening Standard

 
 
by shin-yamakami16 | 2008-12-21 00:45 | Comments(0)

フランス・パリ騒然

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「サルコジ政治」と社会不安

                          山上 真
 
 この数年、パリはとても落着きのない都市になっている。
 パトカーがしょっちゅう、あの間の抜けたサイレンを鳴らし、警備車が至る所に目立っている。
 労働組合や学生デモを見ない日は無い。
 「華のパリは何処へやら?」旅行者は、そんな印象を抱くだろう。

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 12月16日、火曜日、クリスマスを控えての買い物で賑わうパリ9区の百貨店『プランタン・オスマン』に、いきなり警察隊が進入し、買い物客を外へ誘導の後、警戒線を張った。店内では、各階のトイレなどを捜索し、5個の爆発物を発見した。幸いにして、爆発誘導装置は付いていなかった。


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 これより先の火曜日早朝、AFP通信社に、謎めいた『アフガン革命戦線』(FRA)を名乗る組織から、「多数の爆弾が百貨店『プランタン』に敷設された」ことを知らせる郵便物が届いていた。「4階のトイレに、17日水曜日爆発予定の爆弾が1個ある」とまで細かく記していた。その要求書には、「2009年2月以前のアフガン駐留フランス軍部隊の撤退を求め、もし、そうしなければ、今度は警告無しに資本家の百貨店(複数)を爆破する」と書かれている。

 この要求書を伝えられた内相 Michèle Alliot - Marie 女史は、直ちに措置して、
買い物客に爆発物の存在を知らせることなく、「技術上の理由で一時閉店する」こととして、パニックを起こさせなかった。

 問題は、このテロリスト・グループは、当局が全く把握していない、捜査の手がかりが困難な組織であることだ。パリ警察は、新たに2500人もの警官を百貨店などに配置して、再発を防ぐ構えだが、これからの X'mas、新年の「稼ぎ時」を控えての商業活動に深刻な影響を及ぼす事態は不可避だ。
 
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 サルコジ政権は、シラク前政権のアフガン派兵抑制方針を一転させて、現在、NATO指揮下に、2800人のフランス軍部隊を送っている。筆者が8月25日に書いているように、10人の兵士が一度に殺された事件も起きているが、サルコジ大統領は、「ブッシュ・米国との友誼」を優先させて、撤兵など論外という姿勢だ。アフガン情勢が好転の兆しを聊かも見せない以上、この方針が袋小路に嵌り込む公算が大である。内には、テロの差し迫った脅威を抱え、外からは、戦死者を受け入れ、葬送するという悲劇的な構図を、当分避けられそうに無い。

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 折から、中等学校・第2段階の「改革」を目指すダルコス教育相の方針が、高校生多数の全国的な反対運動に遭い、当人及び、サルコジ氏の側から、引っ込められる事態に陥った。『ギリシャ・シンドローム』、即ち、激しく燃え盛り、無政府状態になっているギリシャの学生運動の高揚を、フランスで再現される危機を避けようとして、25000人の教員削減などを含む、学校教育の「低コスト化」を狙う教育改革を、1年延期することとした。この政府側の後退姿勢でも、高校生連合(UNL) は納得せず、今週後半に、全国的な学校閉鎖を伴うストライキを実施する予定だ。

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 関係者の中には、1968年5月21日にパリで始まった学生・労働者の反体制運動、即ち、「五月革命」のような事態が再現されるのではないかと、懸念する声が出始めている。今後の展開を注目したい。       (2008.12.18)


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<追記>
 12 月18日(木)、仏教育省の教育改革に反対して、127,000 から160,000人の高校生がフランス全土で抗議デモを繰り広げた。


<写真> Le Monde, Libèration, Le Figaro, France 2, L'Express 掲載のもの
 
by shin-yamakami16 | 2008-12-18 01:00 | Comments(0)

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「イラク侵略」の消せぬ傷跡

                           山上 真

 12月14日、残る任期僅かになったブッシュ大統領は、突然バグダッドを訪問した。自分が始めたイラク戦争の、最後の後始末をするつもりだったのだろう。2011年末の米軍完全撤退時期を決めた、イラク・マリキ政権との協定を結ぶ目的もあった。この協定は、イラク国内の少なくない反対、つまり、更に早期の撤退を求める声を押し切って、混乱の中、イラク国会で漸く承認されたものである。

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 ブッシュ氏としては、イラク首脳との会談成功を、記者会見の場でアピールして、全世界に「有終の美」を伝えて貰いたかったであろう。事はそうは運ばなかった。ちょうど、会見が佳境にさしかかった時、思いがけないことが、「またもや」起こった。会見場に居た1イラク人記者が、立ち上がるや否や、「おさらばだ、犬野郎!」と叫びながら、4メートル程離れた所から自分の履いていた靴を次々と、ブッシュ氏に向かって、勢いよく投げつけたのである。直ぐに気づいたブッシュ氏は、「さすが運動神経素晴らしく」、身を屈めて見事に除けて、体裁を何とか保った。

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     モスル市街:道路に流れ出た下水を避けて歩く市民
 
「またもや」と云うのは、この厳しい警備に守られた『グリーン・ゾーン』の記者会見場は、度々、会見の最中に、ロケット弾攻撃を受けていて、国連事務総長・潘基文氏など居合わせた各国首脳を仰天させているのである。今度は、爆弾こそ避けられたが、イラクで最も侮辱的と言われる「靴投げ」だった。

 この事件を聞いたバグダッド市民の反応は、一様に、記者の行動を支持するものの様だ。それほど、ブッシュ氏は、イラク人に嫌われ、憎まれているのだ。米国などによるイラク侵略の傷は、未だ癒されるのとは程遠く、深い。


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 この戦争は、米軍兵士4200人と、イラク人約100万人が死亡し、5760億ドル(約57兆6千億円)の戦費を費やしている。
 1000億ドル掛けた戦後再建事業も、官僚主義など「イラク社会の特殊性」故に、全くと言ってよい程進んでいない。(The New York Times レポート)

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 現在でも、自爆テロなどの被害が続いている。12月1日、バグダッド東部の警察学校付近での連続爆発で、16人が死亡し、46人が負傷している。北部モスルでは、自動車を用いた自爆テロにより、15人以上の市民が死亡、30人が負傷した。
 12月11日には、イラク北部キルクークのレストランで自爆テロがあり、少なくとも55人が死亡し、120人が負傷した。

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 これからの数年、イラク人、米軍人の犠牲者は跡を絶たないであろう。その一つ一つが、戦争というものの不条理、空しさを示すとすれば、全く無駄とは言えないかも知れない。しかし、「国家によるテロ」と言える侵略戦争を起こした者に対する追及を、聊かなりとも弱めてはならない。それが、歴史の合理性を証明する、唯一の方法であるからだ。            (2008.12.15)

 
<追記>
 ブッシュ氏に靴を投げたイラク人記者は、エジプト・カイロを拠点とする衛星テレビ
『アルバグダディア』のバグダッド通信員 Muntadar al - Zaidi 記者(29) で、その「殉教者」的行動は、イラク国内だけでなく、広くアラブ世界で英雄扱いされている。イラク当局によって拘束されている記者の釈放、及び、米軍の即時撤退を求めて、バグダッド、ナジャフなどで数万人のデモ行進が巻起こっている。 (2008.12.16)


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<写真> The Guardian, The Daily Telegraph, Le Nouvel Observateur
The Independent 掲載のもの
 
by shin-yamakami16 | 2008-12-15 20:47 | Comments(2)
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   「女王演説」の際のマーチン下院議長(労働党出身)とペイ衛視長


「保守党政治家逮捕」に揺れる英国政界
                          山上 真

 去る11月27日、英国保守党・影の移民問題担当相デミアン・グリーン氏(南東部アシュフォード選出議員)が突如として、ロンドン首都警察に逮捕されて、議会内事務所、自宅などが捜索を受け、携帯電話、コンピュータなどが押収されるという事件が起こった。氏は7時間、拘束された。これは、議員特権によって厚く保護されている国会議員に対する権利侵害とされ、国会内への警察権行使を禁じている慣例法に対する重大な違反ということになった。


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           逮捕されたデミアン・グリーン議員


 グリーン氏逮捕に先立って、11月11日には、一内務省職員が、移民関係の情報漏洩容疑で逮捕され、グリーン氏の逮捕は、この事件に繋がったものとされる。同氏は、5,000人に及ぶ英国への不法移民が、刑罰を免除されて、警備会社などに雇用されている秘密情報を掴んで、議会で公表しようとしたとされる。推察するに、これら警備会社は、イラク・アフガンに進出している民間企業警備に携わる活動をしているようだ。


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 この一連の事件で最も大きな問題点は、国会議員が令状なしで、「反テロ」警察に不当逮捕されたことだ。本来ならば、議員特権の剥奪権を持つ下院議長マイケル・マーチン氏が判断を下すべき所を、「素通りして」、警察当局の逮捕要請を受けたジル・ペイ衛視長( Serjeant At Arms) が、逮捕許可書に署名してしまったということだ。

この衛視長は、その適格性を疑問視されたにも拘らず、マイケル・マーチン下院議長が強引に任命したとされている。今回は、彼女が議長に、警察からのグリーン氏逮捕要請を相談したのに、彼は何の意思表示もせずに、そのまま行使されたということで、下院議長の責任が厳しく問われることになった。

 BBC Radio 4 によれば、マーチン議長の取った態度を ’Stalinist' (独裁的)として非難し、その辞職を求める議員は、3割以上に達しているという。核心は、警察権力から、いかに議会制民主主義を守るかという基本的原則を、マ−チン氏がきちんと弁えているかということだ。この議長の、かねてからの公使混同の金銭浪費問題も絡んで、辞職論は一層高まりそうだ。


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 英国政府は、国民のあらゆる情報のデータベースを設けて、政府諸機関、警察、自動車免許交付機関、社会保険、病院・保険機関、及び民間会社の間の情報流通を容易にしようとしている。実利面を重視する余り、国民の個人的秘密(プライバシー)が著しく損なわれる事態が目前だ。ジョージ・オーウェルの作品『1984』の 'Big Brother' が支配する国家が現実になりつつある。    (2008.12.13)



<写真> The Independent, The Times, The Guardian 掲載のもの

 
by shin-yamakami16 | 2008-12-13 00:25 | Comments(0)
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危機に立つカラマンリス中道・右派政権

                             山上 真


 ギリシャのアテネを初めとして、諸都市が「燃えている」。最初、アテネのポリテクニック(工業技術専門学校)から始まった「暴動」は、三日目の9日には、北部のThessolinikiから南部クレタ島までギリシャ全域の市街に拡がっている。1974年、軍事独裁政権が打倒された時以来、最大の反政府デモということだ。


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 数千の学生、無政府主義者、労働者は、大理石厚板や火炎瓶を投げ、銃、催涙ガス、放水車で武装した警官隊と激しく衝突を繰り返している。数百か所の商店、百貨店、内務省、警察署など、政府関係庁舎が放火され、燃え上がっている。略奪も横行している。

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 普通の抗議運動が暴動化した「きっかけ」は、15歳の高校生 Alexandros Grigoropoulos が警官隊の銃撃で死亡したことだった。しかし、背景には、若者の高い失業率、通貨ユーロ導入以来の生活費の高騰、劣化した年金改革、そして、ますます顕著になっている貧富の差がある。


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 中道右派のカラマンリス政権は、金融危機の最中で苦しさを増す低所得階層に対して、何ら手当をしていないことが指弾されている。一方では、政府は、信用危機の中の銀行を救う為に、280億ユーロ(約3兆4千億円)の融資を決めて、大方のギリシャ人の怒りを買っている。


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 この政権は、「暴動」をひたすら極左分子によるものだとして、弾圧を合理化しているが、政権の腐敗、教育制度の荒廃、経済の破綻状態によって生活が危機に陥し入れられている国民の過半数は、コスタス・カラマンリス政権を見限り、野党・社会主義者のパパンドレウ氏に次期政権を託そうとしているようだ。その動きを加速させる為に、二大労働組合がゼネストを構えている。

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 この数年前から、イタリヤ、フランスなどの諸都市で「暴動」が発生した原因は、貧困と共に、人種差別的なものが大きかったが、ギリシャの場合は、明らかに、市場原理主義の行政、即ち、民生支出、賃金・年金を抑制する厳しい緊縮財政が、広範な民衆の激怒を買うことになった。このことは、何もギリシャに限られる現象ではなく、市場原理が蔓延る世界共通の脈絡を持つ問題だけに、その帰趨が大いに注目される。
                         (2008.12. 10)

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         ゼネスト参加者のデモ行進 (12月10日)

<写真> The Guardian, The Independent, The Daily Telegraph, Libération
by shin-yamakami16 | 2008-12-10 23:29 | Comments(0)
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旧クリントン政権との違いは?

                            山上 真

 次期米大統領バラック・オバマ氏は、各方面との慎重な協議を重ねつつ,矢継ぎ早に政権ポストを指名・発表している。その顔ぶれから見て、大方は、性急な変革よりも、実務的政策遂行を重視した、安定志向の政権運営を目指したものと受け止めている。

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        首席補佐官ラーム・エマニュエル氏とオバマ氏

 12月5日付の英国・保守系『タイムズ』紙上で、米国出身のコラムニストGerard Baker 氏 は、そうした見方とはかなり異なる観測を公にしているので、ここに紹介しておきたい。
 
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 「オバマは、先ず、これまでの民主党内の政敵だった人物を選んだ。副大統領に老練の ジョー・バイデン, 国務長官にヒラリー・クリントン、そして、元国連大使を務め、クリントン政権ではエネルギー問題担当相で、現ニュー・メキシコ州知事のビル・リチャードソンを商務長官に選んだ」
 
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              ビル・リチャードソン氏

 「次に、過去75年間で最悪とされる混乱から脱出する為の方策を練る経済担当チームとして、『ロバート・ルービン組』が出場することになった。ゴールドマン・ザッククス証券のトップ出身、クリントン政権の財務長官で、市場原理主義・規制緩和主義者のルービン氏は、如何にも新政権に不似合いなのだが、オバマ氏は彼を選んだ」

 「ラリー・サマーズ氏は1999年に、ルービン財務長官の仕事を引き継いだ人物であるが、今度は、ホワイトハウスの首席経済顧問に就くことになった。やはり、ルービン氏の「お気に入り」のティム・ガイトナー氏が、財務長官を担うことになったが、彼は、連邦準備制度議長ベン・バーナンキ氏、現財務長官ヘンリー・ポールソン氏と共に、これまで金融危機への対応策を導いてきた人物だ」

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              ティム・ガイトナー氏

 「第3のグループは、民主党とは距離を措く人々だが、非イデオロギー的で、中立的テクノクラート(技術官僚)である。現国防長官ロバート・ゲイツ氏は留任、そして、海軍大将、NATO軍司令官だったジェームズ・ジョーンズ氏は国家安全保障顧問となった。彼らはマケイン氏が大統領になった場合にも、同じ職務に就いた可能性がある」

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              ロバート・ゲイツ現国防長官

 「これまでの所、真のオバマ主義者は誰も重職に就いていない。強いて言えば、国連大使に任命されたスーザン・ライス女史がいるが、彼女は政策立案者ではない」
 
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              スーザン・ライス女史

 「こうしたオバマ氏の選択は、選挙中に約束されたものとは大分異なるという懸念が生まれているが、これは、オバマ氏の『意外な臆病さ』を示すものでは全くなく、彼が追従的人物に取り巻かれず、如何に自信に満ちているかを示すものだ。彼は,見慣れたスタッフたちを巧みに操って、ブッシュ時代、クリントン時代とはまるで異なる方向に導いて行くであろう」

 「特に経済分野では、1933年にフランクリン・ルーズベルト大統領、1979年に英国でマーガレット・サッチャー首相がやったのと同様な規模の変革が起こる可能性がある。それは、指導力と環境要素の組み合わせに依るものだ。オバマ氏は、他のどの名士も持ち合わせていない真の指導力によって、変革を実行に移す機会を手中にしているのだ」

 これを書いたベーカー氏は、米国大統領選挙中は、オバマ氏の対立候補者マケイン氏を支持していただけに、このコラムでの同氏の主張には,注目に価するものがある。
 
 12月3日付のUSA Today紙は、オバマ氏の政権移行作業への支持率が、78%に達すると発表している。
 12月4日の Gallup 世論調査では、オバマ氏の組閣姿勢を支持している割合は、65%に及び、歴代大統領の中でも最高だということだ。不支持率は、26%まで落ちている。海外での評判も極めて高い。

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           フランス週刊誌『リベラシオン』

 しかし、オバマ支持者は「騙された」と、FOX Radio Newsがしきりに云う。新政権が、現在も抵抗勢力の攻撃が続くイラク情勢を考慮して、米軍撤退時期を遅らせるという現実的対応をする方針に転じていることについて、オバマ氏の「早期撤退」の約束を、「反故」にしようとしているとの批判が高まっているとする。  (12月5日)

  外交面で、すでにオバマ色が出始めている。ウクライナ、グルジアのNATO加盟を、米国が支持していた姿勢を保留している。東欧へのミサイル配備計画も見直されるようだ。ロシア大統領メドベージェフ氏は、この米国東欧政策の変化を歓迎しており、ロシアとの戦略対話が容易になる可能性がある。
 
 環境政策も大きな変化を期待できる。前政権が参加を拒んできた、地球規模のCO2削減の為の「京都議定書」協議に、復帰する可能性がある。これによって、米国の国際的威信は、飛躍的に高まるだろう。

  人権問題では,早期に大変化が現れるだろう。例えば、国際人権擁護団体『アムネスティ・インターナショナル』が、次に示すような声明を出している。

米国 : オバマ次期大統領のグアンタナモ収容所閉鎖発言を歓迎

 昨日のCBSのインタビューで、グアンタナモ収容所を閉鎖するという公約を守ると語った次期米大統領の発言は、正しい方向に向けた重要な一歩であると、本日、アムネスティ・インターナショナルは語った。

「グアンタナモ収容所を閉鎖し、米当局が拷問を採用しないことを保証する意向をオバマ次期大統領が確約したことをアムネスティは歓迎する。1月、大統領に就任した後に、自ら主導権を取り、米当局による国際法に反したすべての拘禁と尋問を中止することを最優先するよう要請する」と、アムネスティ米国調査員ロブ・フレアは述べた。

「我々は、オバマ次期大統領が就任100日以内に公約を実行に移すこと、そして国際法で定義されたような拷問や虐待を禁止する大統領令に署名するなど、米国が国際的義務を果たすということを自身の行動で示すことを求める。」

「ジョージ・W.ブッシュ大統領も、米政府は拷問を用いないと語った。しかし、CIAの秘密収容所に拘禁されている人びとに対する「水責め」やその他の「強化された尋問テクニック」の採用、またアフガニスタン、イラク、グアンタナモに拘禁されている人びとに対する拷問や虐待は、その言葉とは違う事実を物語ってきた。これらは、米政府が拷問やその他の違法な行為を国家安全保障の名の下で正当化し許可してきたという、悲劇的で懸念すべき事実を明らかにしている」と、ロブ・フレアは語った。

「テロとの戦い」において米当局が行ってきた拘禁と尋問のあらゆる側面を調査する独立委員会を支持するよう、またそれによる人権侵害に対し完全な説明責任を果たすよう、アムネスティは次期大統領に求める。
アムネスティはオバマ次期大統領に書簡を送り、グアンタナモ収容所の閉鎖、拷問の中止、調査委員会に対する支持が就任100日以内に優先すべき課題とすることを確約するよう要請した。

アムネスティ発表国際ニュース
2008年11月17日
                           (2008.12.06)

<追記>
 次期大統領オバマ氏は、12月6日、11月中だけで雇用が533,000件失われ、失業率が6.7%に達したことを受けて、大規模な公共事業を展開して雇用を確保する計画を発表した。その内容は、公共建築物を省エネ型に建て替えること、高速道路を改修すること、老朽化した校舎を改装すること、学級にコンピュータを配備すること、高速インターネット網を米国全域に配備すること、電子医療記録を使えるようにすることによって病院を近代化することなどである。こうした施策によって250万人の雇用を創出しようとする計画だ。この為の投資額は6000億ドル(55兆2千億円)に上る。
 
<写真> Washington Post, BBC News 掲載のもの
by shin-yamakami16 | 2008-12-06 11:28 | Comments(2)