世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

<   2009年 02月 ( 5 )   > この月の画像一覧

f0166919_19285042.jpg



対米従属脱皮の好機

                         山上 真

 民主党・小沢一郎代表が2月25日、大阪市での記者会見で述べた発言が波紋を拡げている。在日米軍削減論を改めて示し、
 「米国のプレゼンスは必要だが、おおむね第7艦隊の存在で十分だ。米軍が引くことによって日本の防衛に関することは、日本が責任を果たせばいい」と指摘した。
 この発言に対して、直ぐさま、自民党幹部から、異常と言える規模の、一斉「口撃」が発せられた。
 
f0166919_19303854.jpg



麻生首相の「日本を敵国と言っている国が存在する中、防衛に知識ある人の発言とは思われない」というものから、山崎拓元幹事長の「日米同盟にひびが入る。我が国の安全保障が根底から覆される」とするものの他、官房長官河村氏、元同長官町村氏、安倍元首相、伊吹元幹事長など多彩だ。米国軍部筋からも、批判が出ている。
 一方、共産党、社民党からも、「日本独自の軍備増強」の方向を懸念する声が出ているようだ。

 今何故小沢氏の言動が注目されるかと言えば、勿論、麻生自民党の混乱と、支持率10%そこそこという不人気の中、次の総選挙後の民主党の「政権奪取」が現実味を帯びているからだ。米国ヒラリー国務長官が小沢氏と異例の会見をしたのも、次期「民主党政権」の可能性を視野に入れたからであろう。その会談で、小沢氏が、米国との対等の関係を強調したとされるのは、当然ながら時宜を得たものと言えよう。オバマ政権としては、アフガン戦争などでの費用負担を日本に求めたい所だが、日本側としては、独自の立場で、アフガン民生安定への協力を進めるべきだ。そうした視点を小沢民主党は求められている。

 現在もなお、在日米軍の基地は88、自衛隊との共用を含めると、132に達する。その大部分は、沖縄県に集中しており、基地周辺では住民の生命・財産が危険に晒されている。

f0166919_19325531.jpg


f0166919_19334591.jpg

                  沖縄の米軍基地

他方、例えば2002年度の場合、米国外の米軍駐留総経費85億ドルの内、日本の負担額は44億1134万ドル(約5960億円)と、50%以上を占め、世界的に見ても在日米軍の存在に対して、突出した費用を負担している。そうした異常な現実を踏まえての「小沢発言」となったのであろう。

 米軍の日本駐留を必要とするという意見は、極東に於ける「他国の脅威」を根拠とする訳であるが、この「脅威」をなくしたり、減らす努力をどの程度やってきたのであろうか。
 日本国内には、徒に「拉致問題」や核問題を喧伝して、国家間の対立を煽り立てようとする勢力が目立つ。確かに、「相手国」は常識的に見ると大分変わった国のようではある。しかし、歴史的経緯からすると、「帝国日本」の朝鮮半島支配に起因する要素も少なからず存在する。
 先ずは、国交を開いて、一つずつ懸案を解決して行く方が賢明ではないか。急がば回れという手もある。
 恐らく、今日誰も戦争で問題が解決すると思っている人はいないだろう。ならば、全ての努力を平和的環境の整備の為に傾注するべきだ。そして、軍備を互いに縮小するように相談しよう。幸いにして、超軍事大国アメリカでも、オバマ政権誕生を契機に、少しずつだが、その方向に向かう可能性がある。もはや、どの国も軍備などにお金を使う余裕はない筈だ。

 「小沢発言」は決して新しいものではないが、程良いタイミングで出て来たものであり、決して臆することなく、「日本の平和・安全保障はどう図られるべきか」という根本的問題の議論に発展することを願いたいものだ。
                          (2009.02.28)


<写真> 読売新聞、Wikipedia 
by shin-yamakami16 | 2009-02-28 19:34 | Comments(0)
f0166919_15221965.jpg




ブッシュに倣うオバマ氏の「未熟さ」

                              山上 真

 就任から一ヵ月目の米国大統領オバマ氏は、17,000人の兵力を新たにアフガニスタンに投入する命令を出した。既に駐留する兵力と合わせて、4万人余りとなる。
 今度の米国政府の方針は、武装抵抗勢力タリバンがアフガン全域で攻勢に出ており、首都カブールの中央政府支配を直接的に脅かすような事態が生じている為に出されたものである。
 不安定性を増大させているアフガン政権に対する直接攻撃は去年倍増し、政府関係者の誘拐・暗殺は50%の増加である。

 NATO軍の死者数は35%、民間人のそれは46%、それぞれ増えている。
 特に注目されるのは、地上の航空機に対する攻撃が、67%増大しており、タリバン制圧を空軍力に頼っているNATO軍にとっての大きな痛手とされる。

f0166919_1524299.jpg

      2008年8月の米軍誤爆で亡くなった家族の墓に集う人々(Azizabad)


 カブールでは、イラク・バグダッドで見られたような爆弾テロ事件が頻繁に起こり、警察・軍スタッフばかりでなく、一般民間人の被害が急激に増えている。国連報告に依ると、去年一年間で、NATO軍の誤爆による被害を含む民間人の死者は40%増加し、2118人に上る。
 今年2月11日には、中央政府司法省など3カ所の政府機関がほぼ同時に、自爆テロ、銃による攻撃を受け、19人が死亡、54人が負傷し、カブール市内は大混乱に陥った。
 
f0166919_1525828.jpg

               戦死したキングズコット兵長 (22)

 一方、 2月18日の英国各メディアは、アフガン南部Lashkar Gah 近郊での、一人の英国兵の死を伝えていた。タリバン軍の待ち伏せ銃撃を受けて、負傷した後、間もなく死んだ兵長Stephen Kingscottは、今年に入って8人目の、英国兵の戦死者となった。2001年以来、145人の英国兵がアフガニスタンの戦線で亡くなっている。
 因に、アフガンでの米軍人死者数は、これまでに651人、他のNATO軍死者は426人に上っている。

 アフガン・カルザイ政権は、その政治的無能と官僚の腐敗で、民心を失ってから久しい。各地割拠の部族長が中央の方針をものともせず、独自の地方権力を誇っているのは、過去の歴史と変わらない。中には、戦闘力を回復して来たタリバンとの協働を始めた部族長も少なからずいるようだ。代替の生活基盤の整備が計られないまま、アヘン原料のポピー栽培畑を焼却・壊滅させるNATO軍の「強硬策」が現地民の憤激を買っており、タリバン側に追いやる原因にもなっている。現地住民の間では、厳しく禁止されたポピー栽培に替わって、cannabis(大麻)栽培に転じる動きも出ている。
 
 NATO(北大西洋条約機構)本部は、イラン政権が、アフガンからの麻薬を買い取り、代わりに武器援助をしているルートに手を貸しているのではないかと、非難している。

 西側の150億ドルに及ぶ膨大な援助資金も、賄賂を求める現地官僚の腐敗・非能率、そして、欧米「アフガン再建請負」企業の「金儲け主義」よって、既にその資金の三分の一は浪費され、殆ど実効を擧げていない。

 米国人が、オバマ大統領のアフガン兵力増派についてどう考えているかについては、’Washington Post・ABC News’ に依る最新の世論調査では、支持する国民は34%に止まっている。兵力を減らすべきという意見は29%で、「現状維持」は32%である。
 アフガン現地では、米軍・NATO軍の兵力増強を支持する国民は18%に過ぎず、44% は兵力削減を求めているという結果だ。(ABC・BBC・ARD調査)

  米国での「9.11」同時多発航空機爆破テロ事件の元凶をアフガン「アルカイダ・タリバン枢軸」に求めて、ブッシュが始めた戦争の、「是非論争」は未だ結着せず、英国では、「タリバンとの和平」を図るようにとの提案も出始めている。
「IRAでさえ和平が可能だったのに、何故タリバンとは出来ないのだ」という訳である。(BBC Radio 5 など)
  つい最近、カルザイ・アフガン大統領がパキスタン・ザルダリ大統領と会談し、タリバンなどとの「和平」について話し合っていると云う。
 NATO国防相会議では、米国の軍増派要請に対して、イタリア以外の諸国は皆、それぞれの国内の「反戦論」の根強さを考慮して、消極的だったようだ。オランダは、今春の、アフガンからの撤退を決めている。米国の「アフガン・パキスタン問題」特使ホルブルック氏さえも、「アフガンはイラクより遥かに困難な状況だ」と嘆いている始末だ。

f0166919_15261588.jpg

ホルブルック特使

 米国は、「アフガン・ソ連支配」時代 (1979 ー1989) には、旧ソ連軍と闘うタリバンを支持・育成していた弱みを持っている。
 2月5日、キルギスタン政府がロシアとの協議の末、同国の米空軍基地閉鎖を決めた事も、米国アフガン作戦にとって大きな打撃になる。同基地からアフガニスタンへの物資供給がいずれ不可能になる恐れがあるからだ。
 
f0166919_1527251.jpg



  オバマ氏の政策は、これまでは各方面で、圧倒的に支持されてきたが、ことアフガン問題に限っては、世界的にも、米国内でも、深刻な分裂を呼び覚ます要因になることは避けられないであろう。
 「アフガン戦争続行」は、大統領選挙前からのオバマ氏の持論だったとは言え、そして又、民主党大半の人々が支持していることであるにしても、事態を正確に捉え、政策変更に至って欲しかった。
 アフガンの荒野に、アフガン人、NATO軍人、そして民間支援団体の人々の「死体の山」を築くことのないように、今後のオバマ氏の、賢明な「見通しと判断」を厳しく求めたい。 
                            (2009.02.21)


                       
<追記 1> 2月21日正午のNHK衛星ニュースに依れば、記者のインタヴューに応じたタリバン・ムジャヒド報道官は、「米軍の増派に対しては、軍事基地攻撃を強めて、徹底的に抗戦する」と表明し、オバマ政権への対決姿勢を明らかにした。 
  
<追記 2> 2月22日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙に依ると、オバマ政権は、前ブッシュ政権の、「裁判無しの無期限勾留」政策を、アフガン捕虜に対しては踏襲することを明確にした。このことは、2月08日付本グログ「オバマ『新政策』をどう評価するか?」での、英国人評論家ジョン・ピルジャー氏の「オバマ人権擁護政策はまやかし」という指摘を、裏付けるものである。
 
<追記 3> 同日紙に依ると、先週17日に、ヘラト州Gozaraで発生した米軍機の誤爆によって、子供3人、女性6人、男性4人が死亡したことが確認された。タリバン容疑者死亡は、3人とされる。
 当初、米軍当局は、「15人のタリバンを殺した」と発表していた。

<追記 4> 2月25日一日だけで4人の英国兵がアフガン戦線で死亡した。内3人は、南部ヘルマンド州Gereshk地方で、路傍敷設爆弾で即死、四人目の海兵隊員は、Sangin近郊で、射撃を受けて負傷後、病院で死亡した。これで、2001年10月以来のアフガン英国兵総死者数は、149になった。


<写真> The Independent, The Guardian, The Daily Telegraph, The Washington Post
by shin-yamakami16 | 2009-02-21 15:32 | Comments(0)
f0166919_1250525.jpg

            アイスランドの「反政府」抗議行動


ジョージ・オーウェルが見た英国と今日

                            山上 真

 大量失業と社会混乱は、急速に世界的な広がりを見せている。

 ILO(国際労働機関)に依ると、2007年12月に米国で始まった景気後退による世界全体の失業者は、2009年末には5000万人に達するということだ。

 特に若年層の高い失業率は、ラトヴィア、チリ、ブルガリア、アイスランドで暴動を伴った激しい抗議運動に発展し、英国、フランスでは大規模ストを誘発している。
 アイスランドでは、急上昇の失業率と物価高騰に対して数週間も抗議する人々によって、政府が瓦解し、総選挙に追い込まれている。

f0166919_1251668.jpg

              中国・職安に殺到した人々

 中国大陸では、数百万の農民工が、工場が次々と閉鎖される中、職を探し回っている。ギリシャの混乱ほど規模が大きくないが、各地の工場などで抗議運動が巻き起こっているようだ。

 こうした状況について、米・国家情報長官のDennis C. Blair氏は、議会で「世界的経済危機によって引き起こされる不安定性が、テロリズムを上回って、国家的脅威になってしまった」と述べた。

 東欧諸国では、高まり行く失業率が、採用したばかりの自由市場経済制度と、親西欧政策からの脱却の動きを助長し、また、先進国では、国際的自由貿易を犠牲にして、自国産業保護の努力を高める恐れが出て来ている。

f0166919_12532267.jpg



 英国に於ける失業率は、現在の6.3%から、2010年半ばには9.5%に上昇することが予測されている。
 この冬、史上稀な大雪に見舞われて、今でも路傍に黒ずんだ雪が堆く残っている中、BBC記者Paul Mason氏は、ジョージ・オーウェルがその作品 ‘The Road to Wigan Pier’ 『ウィガン波止場への道』で書いたルートと同じ道筋を辿って、今日のWest Midlands の大不況の実情を探っている。これは、BBC ニュース解説番組 ‘Newsnight’ で2月9日に放映されたものである。

f0166919_12521874.jpg

           ジョージ・オーウェル(1903 - 1950)

 『ウィガン波止場への道』は、オーウェルが1936年に不景気と失業が広がっているイングランド北部の炭坑町を訪れ、そこで炭鉱夫たちと生活を共にしながら、共感をこめて丹念に書き留めたもので、その体験から、自ら「社会主義への支持」を表明した。そこでは、下宿した家の夫妻の生活ぶり、住宅状況、失業者の生活実態、階級対立の様子などが書かれており、「20世紀ルポルタージュの嚆矢」的傑作とも云われている。

 BBC記者は、ジョージ・オーウェルの日記も援用して、英国中央部を中心に、オーウェルの行程を、先ずコベントリーからバーミンガムに向かう。
 そこのショッピング・センターBullring自体は、主に若者たちで活気があるが、数多くのファースト・フード店に群がる学生たちは、口々にアルバイトが見つからないことを嘆く。
 また、そこで出会った青年Willは、自動車メーカーの下請け金属加工場でレーザー光切断工として働いていたが、「半ば破産」した会社が12人の労働者の半分を解雇し、彼はその内の一人となった。そこで記者が衝撃を受けた話は、23歳のWillが時給5.73ポンド(745円)という「最低賃金」と同額の給与しか払われていないことだった。つまり、月給700ポンド(約9万千円)という低さだった。彼のような例は稀ではなく、ちょっと聞いてみると、多くの人々が最低賃金のレベルで働いていることが分かる。

f0166919_1443261.gif

       ウィガンはマンチェスターと北西・プレストンの中間にある


 次の目的地 Stoke on Trent の鉄道駅で、産業革命の巨人 ’Josiah Wedgewood’ の銅像を見て、彼の工場があるBarlaston に向かう。そこに行ってみると、案の定、辺りは静まっていた。少しばかり、物が回転する音が聞こえるのみだった。去年、この伝統ある高級陶磁器メーカーは破産して、この工場だけで367人が突然解雇されていた。

 記者が乗ったタクシーの運転手は、自分は電気技師として「ウェッジウッド」に勤めていたと言う。彼は、セラミック・デザインの修士号を取っていた。
「ここはもう、どん底状態だ。これ以上悪くなることはない。これからもっと苦しむことになるのは、南部に住んでいる高給取りの連中さ」と言う。
 彼は、「ロイヤル・ドールトン」のインドネシア工場に移って働く道もあったが、セラミック「大量生産」に携るのは嫌気が差し、諦めた。
 記者は、このタクシー運転手の話を聞いて、
「英国の心臓部から技術と産業を奪ってしまう急速な景気後退に対応する何の対策も政府が取っていない」ことに慨嘆する。現政府、そして、これまでの政府に、どんな「産業戦略」があったのだろうかと。
 
 オーウェルはマンチェスターに着くと、ウィガンに案内する労働組合活動家に会うが、5日ほど、「惨状に備えての体ならし」の為に、ここに滞在する。

 このマンチェスターからウィガンまで乗ったタクシーの運転手からも、貴重な情報を、記者は耳にする。
 「学生も、年金生活者も、ジャーナリストさえも、余程の危急のことでない限り、タクシーを使わない。売り上げが、30%ダウンしている。その上、これまで工場労働者だった者が、どっとタクシー業界に乗り込み、客待ちの車の列が二倍に伸びている」

 このほか、記者は、どの業種でも、解雇を避ける為に、賃金カットをしているという話を聞く。従業員に対する説得によって、事実上の「ワーク・シェアリング」と、労働時間短縮が一般化してきているようだ。
 そのことについて、記者は、デフレーションに繋がるのではないかと心配する。
 
 ジョージ・オーウェルが70年以上前に目にした「悲惨な炭坑町」ウィガンはすっかり変わって、現在は再開発された一大ビジネス街になっている。

 旅の最後に記者は、「何を知ったのか?」と自問してみる。
 「確かに仕事が無い訳ではないが、’casual employment’ (不定期雇用)ばかり目立つ。いずれも、低賃金だ。次から次へと仕事を変える人が多く、変わる度に賃金が低くなる。結局の所、経済学で言う、’a race to the bottom’ (どん底への競走)ということになる」という結論に、記者は到達する。

 以上のような英国に於ける状況は、一見した所、オーウェルの体験した1930年代の「大量失業」とは、確かに異なる様相を見せている。しかし、Paul Mason記者が言うように、どうしようもなく落ちて行く生活からは、将来への明るい展望は全く見出せない。
日本でも同様であるが、やはり、行政府が一層積極的な雇用安定策を取ると同時に、当面の生活保障を図ることが何よりも求められている。    (2009.02.16)



<写真> The New York Times, The Washington Post, Wikipedia
 
 
 
by shin-yamakami16 | 2009-02-16 13:01 | Comments(2)
f0166919_1451287.jpg

        大統領就任後最初の記者会見(2月9日)


内政面の高い支持率と、見方の分かれる外交政策

                        山上 真

  就任から二週間経った米国新大統領オバマ氏の様々な評価が出始めた。

 米国新政権は、矢継ぎ早に、ブッシュ前大統領の政策を覆す政策を発表している。先ず最初に、テロリスト容疑者を収容しているグアンタナモ収容所の閉鎖、及び、取り調べに際しての一切の拷問の禁止命令に署名して、新政権が「人権擁護」を基本的姿勢としていることを印象づけた。


f0166919_21203281.jpg


 
 米国内の人権問題では、給与の男女格差を禁止する 'Lilly Ledbetter Fair Pay Act' に署名した。当事者の名前をつけたこの法律は、タイヤ・メーカーに19年勤めていたアラマバ州の一管理職女性の、男女「差別給与」の是正を求める訴えから生まれたものである。ご本人や、ペロシ下院議長、幾人もの人権擁護弁護士たちに囲まれたオバマ氏は、ミシェル夫人と共に、「肩の荷」を下ろした観があった。恐らく法律家同士の夫婦の間で長い間話し合っていて、大統領就任後に「これだけは早くやりたい」という懸案だったのだろう。
 もう一つ、オバマ大統領が早速署名した法案は、数百万の低所得家庭児童の健康保険を国が肩代わりする、 'Children's Health Insurance Bill' である。これは、ブッシュ前政権が、「全米国民の為の政府運営健康保険」に繋がる制度として、「断固として」反対していたものである。
 オバマ氏は明らかに、4,700万人以上の米国民が無保険状態であることを踏まえて、この法律を出発点として、国民皆保険を目指している。

 人工中絶支持団体への資金援助を認めたことも、ブッシュ時代の「モラル・宗教」上の理由での拒否姿勢とは正反対のものである。
 また、オバマ「就任演説」で、様々な宗教信仰者と共に、'Non Believers' (無信仰者)の存在に言及したことも、FOX Radioが指摘するように、確かに「異例のこと」に違いない。

 経済政策としては、周知のように、総額8,200億ドル(約75兆円)に及ぶ、公共投資によって景気刺激を図ろうとする 'New New Deal' を提起している。議会共和党の抵抗によって減額されるだろうが、70兆円規模の雇用確保政策が実施されるだろう。
 しかし、この半年間で350万人が失業し、1月だけでも60万人が職を失っている現状では、さらに一段上げた景気対策が求められることになるだろう。

 なお、この 'Stimulus Bills' (景気刺激法案)に含まれていた 'Buy American Policy' つまり、米国製品購入優先策は、「ダボス経済フォーラム」などでの「貿易保護主義反対」の声を配慮して、取り下げられたのは当然であろう。経済危機は、何も米国だけのものではないからだ。否応なく, 'Globalization' の今日は、1930年代のブロック経済政策、つまり一国だけの経済利益を図るという思想を排除しなければならない。

 経営困難に陥っている金融機関などへの7,000億ドルに上る負債救済策については、オバマ氏は2月4日、国の救済策を受ける金融機関の経営者に対する年俸限度を、50万ドル(約4500万円)にするように命じた。これは、既に破綻している企業のトップが6、7億円ものボーナスを受け取っていることが分かったからある。
 このような大統領の指示は、米国資本主義史上極めて異例であり、オバマが「社会主義者だ」と頻りに言うFOX Radioなど、右派グループの喧伝を一層煽るであろう。

 「地球環境保護」をオバマ政権が至上命令にしていることは、そのエネルギー政策で明瞭である。石油・石炭などの「化石燃料」に宣戦布告して、太陽、風、土壌などに頼る「グリーン」エネルギー政策への転換を推進し、併せて、500万人の雇用創出も狙っている。
 全米で最も厳しいカリフォルニア州の自動車「排出ガス規制」をも認可する方針だ。
 この「オバマ環境政策」を、英国保守系『タイムズ』紙は、 'Green Race' に於いての、他の西欧諸国に対する「挑戦」として、驚きをもって迎えている。
 オバマ政権は、既に、地球温暖化対策の為のCO2削減を取り決めた「京都議定書」協議への復帰を表明している。

 外交関係では、「一国行動主義」を放棄して、西欧など同盟諸国との協調を図りながら、対立している国々との「対話」姿勢を明らかにしている。イラン、キューバ、北朝鮮などとの、諸問題の交渉による解決の道を優先させる方針だ。
 「南オセチア・グルジア戦争」などで緊張したロシアとの関係も、東欧へのミサイル配備計画を一時凍結して、改善を計ることを意図している。ロシア側も、アフガニスタン問題での対米協力を表明している。
 ロシアとの交渉で、今後予想される最も大きなテーマは、かねてからオバマ氏が公約している核兵器削減計画である。軍縮交渉で、双方が保有する核弾頭の80%を減らすことを目指すものと思われる。('The Times' 2月4日)

 「イラク問題」の後、一番厄介なのが、アフガニスタンでの「対テロ戦争」である。この戦争に「参加させられた」NATO諸国には、それぞれの国内での根強い反戦運動も手伝って、厭戦ムードが漂っている。アフガンでの「勝利」の見込みも薄い。英国では、タリバンとの「和平交渉」を唱える政界人も増えているようだ。


f0166919_21204876.jpg

     ミリバンド英外相とクリントン国務長官


 オバマ新政権の国防相ロバート・ゲイツ氏は、かねてから、アフガンへの3万人の兵力増派を発表しているが、2月7日の『タイムズ』紙によれば、オバマ大統領はゲイツ氏に対して、兵力増派の前に、「戦略の再検討」を指示したと云う。終戦の見通しの立たぬまま、増派に踏み切ることに同意出来ないのは尤もなことだ。恐らく、これに先立って行われている、ミリバンド英国外相とヒラリー・クリントン国務長官との会談結果も、オバマ氏の判断の材料となっていることだろう。
 万が一、ブッシュ前政権と同様に、オバマ政権も又、アフガンで足を取られるようなことになれば、つまり、相次いで戦死者を出し、米空軍による誤爆で無辜のアフガン住民に被害が重なるような事態になれば、そして、行方定まらぬ戦闘が続くようになれば、一体何の新政権だったのかという深刻な疑問を、オバマ氏は突き付けられることになるだろう。
 

f0166919_21245326.jpg




 既にオバマ大統領とその政権に、本来は、期待感を持っていたのに、大きな疑念を抱き始めている人々が、少なからず現れている。最も顕著な問題が、他ならぬイスラエル侵攻の「ガザ」だ。
 ガザでの、あれだけの「パレスチナ人に対する惨劇」がイスラエル政府によって行われたのに、オバマ氏が真っ先に口にしたのが、「イスラエルの自衛権を擁護する」という的外れの発言だった。一体この人は、どれ位、パレスチナ問題を理解しているのかと、その真意を疑わせるような言動として受け止められている。

f0166919_22375916.jpg

               ジョン・ピルジャー氏


 その批判の一例が、英誌 'New Statesman' (2月5日)に掲載された、著名ジャーナリストJohn Pilger 氏の 'The politics of bollocks' 『たわごとの政治』という論文だ。先ずピルジャー氏は、次のような、英国政府高官の発言を紹介する。
 「トニー・ブレア(首相)がイラク侵攻の際に、他国を侵略して罪ない国民を殺しても、英国でのテロの脅威を増大させることは無いと述べた時、これは明らかに 'bollocks'(たわごと)だ」
 「今度のガザ戦争でも、パレスチナ人の間では、米国ーイスラエルー英国の密接な関係が疑われ、英国でのテロの脅威が高まる恐れがある」
 この発言を受けて、ピルジャー氏は、BBCが最近、ガザ市民を救うための募金活動を呼びかける報道への協力を断った事件を取り上げて、英国の体制がイスラエル寄りに傾いていることへの批判をする。
 「英国紙 'Guardian' も、オバマ政権が、テロリスト容疑者に対する人権擁護の姿勢を明確にしていることを讃えているが、実は、同政権が、容疑者誘拐、移送など、前政権と変わらない不法行為を続けているのに、見ない振りをしていることが、やはり'bollocks' だ」と、ガーディアン紙の有り方を疑う。
 更にピルジャー氏は、
 「オバマはブッシュ前政権とまるで変わらず、アフガニスタンとパキスタンを対テロ戦争の最前線として、軍隊を進め、爆撃を繰り返している。その結果、1月末にオバマ政権の下で、22人のアフガン市民が殺された」と続ける。
 こうして、オバマ政権をただ讃美することは、'bollocks' になるだけだとして、オバマ支持者に 「分別をもつ」( 'grow up') ように訴えている。

 日本でも、一般的にはオバマ政権支持が圧倒的ではあるが、少しずつ、客観的に評価しようという動きが、特にブログを書いている人々の間で強まっている。
 オバマ氏は、他の人間と同様に、無謬ではあり得ないが、極めて内省的な人間であることは間違いなく、その点に大いに期待出来るだろう。
 米国で、今もなお、65%という高支持率の政権が、果たして何処に向かうのか、注視してゆきたい。               (2009.02.08)



<追記 1> 2月8日の ABC News polling によれば、アフガニスタンでは、「米軍がタリバンを放逐した」2005年には、83%のアフガン国民が米国に好意的だったものが、今度の調査では47% にまで降下し、良い方向に向かっているかとの質問には、4年前に77% が Yes だったのに、今度は40% に過ぎなかったことが判明した。

<追記 2> 2月9日、ホワイトハウスで行われた最初の記者会見で、オバマ大統領は、何よりも雇用創出、金融界の信用回復を優先させる意向を明確にした。日本が、1990年代に経済危機への対策を遅れた為の「大失敗」を例に挙げて、緊急に「景気刺激プラン」を議会で承認することを要求した。
 記者会見では、13件の質問に対して、充分な時間をかけ、丁寧に答弁していたが、大部分が米国内経済問題に集中したのは、現状から見て致し方なかろう。
 しかし、対外問題で、「ガザ問題」がまるで語られなかったのは、如何に米国メディアがパレスチナ問題に相対的に無関心であるかを示している。
 オバマ氏は、イランとの対話路線を追求する方針を明確にしたが、イランと「テロリスト」ヒズボラ・ハマスとの関係断絶を望む点など、ブッシュ前政権とほぼ同じスタンスであることも露わにした。
 アフガン問題については、この日に、米兵4人が戦死したことを明らかにして、これまでの政権とは違って、人的被害を隠蔽するような態度を改めることを約束したが、交渉による解決策を模索しつつも、アルカイダ・タリバンとの戦闘は続くことを示唆した。                  (2009.02.10) 

<追記 3> 2月13日、米国上下院で、7870億ドル(約72兆円)に及ぶ「景気刺激法案」が可決された。この内訳は、公共投資が65%、減税策が35%の割合となる。オバマ氏が、大統領就任から僅か24日目で、最大規模の財政法案を現実化したことは「史上稀な」偉業とされる。なお、この法案には、'Buy American' 条項が残されており、今後のオバマ政権の対応が注目される。 (2009.02.15)


<写真> The New York Times, The Washington Post, The Times, New Statesman
by shin-yamakami16 | 2009-02-08 21:25 | Comments(0)
f0166919_1061797.jpg

      St James's Park, Central London  


「雪に弱い国」の大混乱と面子
                         
                                山上 真

 2月1日から2日にかけて、英国南部は18年ぶりの大きな降雪となり、殆ど全ての活動が麻痺状態に陥った。交通機関は運休し、勤労者は職場に辿り着けず、学校は休校となった。


f0166919_2222331.jpg



 ロンドン市内では20cm程度の積雪量で、郊外では、50cm程の降雪を記録したようだ。この為、一時全てのバス運行が止まり、地下鉄もごく一部が動いているだけだった。


f0166919_2252068.jpg



 車による交通も、普段の30%位に止まった。各地で運転不能になった車両が放置された。
 
f0166919_10304088.jpg





 英国全体で、650万の勤労者、5人に一人が職場に行けず、4500の学校が休校となった。英国では、学校が休みになって、児童が家庭に居ることになると、親が外に働きに出かけられない。留守中に何か事故などが起こると、親が厳しく責任を問われて、処罰されるからだ。だから、気象条件で「安易に」休校にする学校に対する世間の風当たりは、頗る強い。


f0166919_15312426.jpg

Essex Epping Forest


 「物事が難しくなると、学校を休んで、遊べば好い」というメッセージを子供に与えるのは良くない、と父母団体の代表者は言っている。
 子供たちは雪だるまを作ったりして、大喜びなのだが。
 

f0166919_15323059.jpg

                London           


 国際列車「ユーロスター」は運行の見通しが立たず、ヒースロー空港では800便が運航中止になった。


f0166919_15334719.jpg

Portsmouth


 降雪の2日目には、気温が零下10℃まで降下し、全てが凍りついた。更に一層の混乱が起こった。


f0166919_15351024.jpg

London   Berkley Square  雪投げを楽しむ銀行員たち


 英国南部の吹雪は北上し、ウェールズ、中部、北部、スコットランドに被害が広がっている。


f0166919_15351469.jpg

      London   Parliament  花束を投げる花嫁    


 一度止んだ南部でも、今週5日(木)から 6日(金)にかけて、再び大雪になるという予報が出ている。


f0166919_1085656.jpg

North Yorkshire
                


 経済専門家は、これ迄の降雪による被害額を12億ポンド(約1500億円)と見積もっているが、今後の被害見込みを含めると、35億ポンド(約4500億円)に達すると言う。

 欧州大陸側のテレビ報道などは、一斉に、大雪に見舞われた英国が「全くの静止状態」に陥って為す術がない様子を映し出している。この事を、英国の「責任感に富んだ」人々は心配している。


f0166919_15373945.jpg

London  Parliament


 「今日のような経済危機の最中に」、少し位の雪で「麻痺してしまう国」というイメージを外国に与えてしまうのは、世界でも有数の経済大国である英国の地位を貶める事態という訳である。
 しかし、時たましか起こらない筈の豪雪対策に多額の投資をすることも、疑問がつきまとう。斯くして、この時期を何とか遣り過ごさなくては、と雪かきしながら我慢の毎日だ。                     (2009.02.04)


f0166919_10315631.jpg




f0166919_10335866.jpg




<追記1> これ迄の降雪による交通渋滞の為に、多くの地域で、ゴミ集め、郵便配達が困難を来している。次の大降雪が予報されているが、滑り止め用の砂利、融雪用の塩が不足しており、スペインなどからの緊急「砂利輸入」を市町村長が政府に要求している。                        (02.06)                         
<追記2> 今回の降雪は続いており、英国30年来最大のものになっている。南西部を中心に、21,000戸が停電しており、数千の学校が休校している。 (02.07)



<写真> The Guardian, The Independent, The Daily Telegraph, Daily Mail

 
by shin-yamakami16 | 2009-02-04 15:41 | Comments(6)