世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

<   2011年 05月 ( 3 )   > この月の画像一覧

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    5月24日トリポリでのNATO軍爆撃:3人の市民が死亡、150人が負傷


北アフリカ・中東「疾風・怒濤」:ますます意味を失うG8サミット

                            山上 真

 北フランス・Deauville で先日行われたG8サミットは、事前に予想されていた様に、日本の未曾有の規模の「原発」事故にも拘らず、主催国フランスの狙い通りに、「安全対策」を口にしながらも、核エネルギーの「持続的開発」へと導いた。また、アラブ・アフリカに於ける「変革の嵐」については、欧米の利益に出来る限り沿う方向での「進展」を図るべく、例えば「親西欧」バーレーンでの、政権側の「血の弾圧」を黙認する一方、「反欧米」姿勢明白なリビアへの非道な「空爆」を続けつつ、「未だ革命の出口定かでない」エジプト・チュニジアへは「経済的懐柔策」を露骨に打ち出し、欧米側への引き止めを謀ろうとした。

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       5月21日仏ル・アーブルでの「反G8・反核・反戦」デモ


 「成功」と言えば、「リビア制裁」の側に、ロシア大統領メドヴェージェフを引き込んだこと位だろう。ロシア外務省が前日、リビアに対する空爆を停止するように求める声明を出したばかりだから、メドヴェージェフの「変身」は欧米側を「仰天・歓喜」させるに十分だった。しかし、かねてから次期大統領に立候補することを噂されているプーチン氏が、現大統領の「親西欧」姿勢に極めて批判的であり、ロシア紙『プラウダ』の英字版などを読む限り、トリポリ在住ロシア人医師からの現地惨状を紹介する形で、エスカレートするNATO軍による「リビア空爆」に対して激しい抗議が為されたりしており、果たしてメドヴェージェフ氏の「カダフィ見限り表明」は国内世論の支持を得られるのだろうかという疑問が湧く。

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            「社交クラブ」化して久しいG8サミット

 当初から、仏サルコジ大統領、英国キャメロン首相などは、ベンガジ拠点の「反カダフィ」派がリビア全土で大きな影響力を奮い、政府軍は僅か数日、遅くとも2週間程度で崩壊し、カダフィ大佐が国外に逃亡するのではないかというような、極めて楽観的な観測を抱いていたのではないか。その反政府軍に、少しの「空爆」という支援をすれば、全てが片付くという軽率な見通しを立てていたのであるが、寧ろ米国は、リビアの実情をより細かく把握し、事が簡単に運ばないことを認識していたようだ。だからこそ、リビア介入には二の足を踏み、慎重な姿勢を崩さなかった。


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             トリポリ港でのNATO空爆

 結局のところ、カダフィ政権側はリビア主要部を依然として握り、反政府勢力はミスラータ・ベンガジに拠って、僅かに西部チュニジア国境付近で抗戦しているだけだ。この事態は全く英・仏指導者たちの期待に反するものに違いない。「空爆」が、混戦の中、市民・味方側への誤爆を招いてしまう状況を予想していなかったという「お粗末さ」だ。揚げ句の果て、今度は高性能・攻撃ヘリコプター「アパッチ」などでの、カダフィ軍掃討という作戦に出ているが、これ又、誤爆のほかに、小銃火器による撃墜の恐れが高まるというリスクがある。

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       5月25日オバマ・ロンドン訪問中の「リビア空爆」反対デモ


 カダフィ軍が、何故これ程の勢力を維持出来ているかという点については、アフリカ人傭兵を「一日千ドル」で雇って、兵員補給を続けているからだというような見方が多く為されて来たが、どうもこれは外れているようだという記事を、かなり早い時点で、『ニューヨーク・タイムズ』(3月15日付)紙が掲載していた。その 'Libyan Oil Buys Allies for Qaddafi' (リビアの石油はカダフィの味方を買っている)と題する記事に依ると、カダフィ大佐は国内の石油資源から得られる豊富な資金で、マリ・チャドなど「亜サハラ地帯諸国」、更には、アフリカ西岸リベリアから東南部マダガスカルに至るまで、過去数十年に渉って「ひも付きでない」経済援助を続けてきた。その結果は、様々な政府機関や宗教関係の建物・ゴム工場・水田開発・ダイヤモンド鉱山・スーパーマーケット・幾多の「リビア石油」給油所などの形になっており、その「恩恵」をよく知っているアフリカ人の中には、「カダフィの為なら、金銭に拘らず義勇軍に加わる」と言う者が少なからず見られるという実情を紹介している。こうなると、NATO本部などの「西側観測」が全く外れ、間もなく倒れるどころか、リビア政権はかなり強固な基盤に立っていると見なければならなくなる。

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リビア近隣国マリの青年Elhadj Maiga:「カダフィ支援」の'fan Club' で義勇隊員を募る



 こうした状況を踏まえて、上掲の英国紙『ガーディアン』は、カダフィ側も「ベンガジ」側のいずれも、退くことも、進むことも出来ない‘stalemated’ の状態に陥っており、NATO 側は打開策として、「国連安保理」決議の求める「即時停戦」から外れて、「カダフィ殺害」によって、少しでもリビア「政権打倒」に近づけようとしていると見ている。しかも、この違法とも言える手段について、オバマが従来の「引いた姿勢」から進んで、事実上「カダフィ暗殺」をも黙認するべく、サルコジ・キャメロンの線に合わせて、一切 ‘ceasefire’ (停戦)という言葉を口にしなくなっていることを指摘する。


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     2007年12月11日パリ:サルコジ大統領招待で訪れたカダフィ大佐



 ところが、5月25日、「アフリカ連合」の提起に応じて、リビア政権側は初めて、かなりの真剣さで「ベンガジ側」に停戦を提案して来ており、新たな「憲法」を準備する為の話し合いを求めていることが明らかになったということだ。
 しかし、同紙は、NATO側が「信用できない」として、リビア「停戦」案を拒否したという。

 オバマなど西欧指導者たちは、『ガーディアン』紙が最後に主張するように、リビア全土で今や広がりつつある「人道上の悲劇」を救済する為に、リビアでの「内戦」の一方にだけ肩入れするという「誤った行為」を止めて、同国に新たな転機をもたらすべく、今直ぐ「停戦を具体化する支援」を求められている。
 欧米諸国にとっては、そうすることが、「イラク」・「アフガン」の誤りを三度繰り返さない為の差し迫った「義務」に違いない。
                          (2011.05.29)

<写真> The Guardian, The New York Times, Le Monde, Daily Telegraph, Al-Arabiya


<参考資料> ロシア紙『プラウダ』英語版:NATO軍によるリビア空爆を西側諸国の「国家テロ」としている。そして、サルコジ、キャメロン、オバマを「戦争犯罪者」として逮捕するように求めている。

Libya: More terrorist attacks by NATO
17.05.2011 18:16

Indiscriminate wanton acts of mass murder and terrorism, the latest disgusting display of callous disregard for human life by NATO and more blood on the hands of its war criminal leaders Cameron, Sarkozy, Obama - chilling reminders of the cold-blooded reptilian evil which mingles among the leadership of nations in the international community.

While the international media continues to spin the lie that the Libyan authorities are attacking unarmed civilians (see the photo), NATO continues to spend millions upon millions upon millions of dollars of taxpayers' money (50,000 dollars per aircraft per hour times thousands of missions) on indiscriminate acts of terrorism against civilian structures. One of these was the Libyan Downs Syndrome headquarters, another was a room in which three of Colonel Al-Qathafi's grandchildren were slaughtered, along with one of his sons.

War crimes, and crimes against humanity, as NATO protects terrorists (see the photo) and acting against the UN Charter, hinders the authorities from dealing with an armed insurrection. The latest reports are of a strike on a guesthouse in Berqia, where 16 civilians were murdered by NATO bombs and a further 40 civilians were injured. The one killing civilians and children is NATO.

It is by now obvious that NATO has become desperate in its attempt to murder Colonel Gaddafy. One wonders how NATO and its leaders would react if an attempt were made to take their lives or target their children as they have done to the leader who inherited the poorest country in the world and turned it into the most prosperous in Africa and who has done so much for his continent, so much in fact that he was to be awarded a UN humanitarian prize in March...for his excellent humanitarian record.

Along come the axis of evil, Cameron, Sarkozy and Obama, all of them with awful popularity ratings at home, around them close the weapons and energy lobbies proposing a nice cozy and easy war, bombing targets in some country without defences from 30,000 feet like the cowards they are and lo and behold! Job contracts start to open up, the oil starts to flow and hey, Libya is a better place? No, it most certainly isn't. They want to give it to a clique of marauding armed Islamist fanatics.

Would that Obama, Cameron and Sarkozy did half as much in their countries as Gaddafy has done in Libya. Do they provide free health services? Free education? Free housing? Heavily subsidised food? On the other hand does Gaddafy sponsor armed terrorists in their countries? No he does not, he was the first world leader to issue an arrest warrant against bin Laden and Al-Qaeda, while the USA was cavorting with him as indeed NATO once again cavorts with Islamist terrorists from Benghazi, the same ones whose leader was arrested for working with Al-Qaeda against the American and British troops in Afghanistan and Iraq.

How interesting it is that the bought media keeps repeating their lies about Libyan authorities attacking civilians and NATO keeps committing war crimes, attacking civilian targets and destroying evidence against the corrupt TNC leaders as they did on Monday night when a State archive building was bombed to remove evidence collected against them.

If there is a right and a wrong, this will rebound in NATO's face as indeed it must. Those who respect international law should demand a stop to this act of aggression and now and a writ should be issued for the arrest of war criminals Cameron, Sarkozy and Obama.

Facebook site against the criminal NATO invasion and war crimes:

http://www.facebook.com/pages/Lets-start-international-revolution-against-natos-invasion-on-Libya/183943638319564

Timothy Bancroft-Hinchey

Pravda.Ru

Timothy Bancroft-Hinchey
   

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            「反政府軍拠点」ベンガジ市内

<追記 1> ドバイを拠点とする衛星通信局『アル=アラビーア』が伝える所によると、NATO空軍に守られて辛うじて「一時の平和」が保たれている「反カダフィ」勢力の中心地ベンガジでは、人々は食料・水など生活必需品を求めて苦闘しているが、蓄えも僅かになりつつあるという。唯一の企業である郊外の製油所は完全に生産停止状態にある。公的機関の給与が主な生活資金であるが、その原資は米国及びカタールの援助金に依るという。                  (2011.05.30)

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<追記 2> 南アフリカ・Zuma大統領は、昨日30日、トリポリでカダフィ大佐と会談し、リビア政権が「停戦」を受け入れることを確認した。その前日29日、既に「アフリカ連合」が要求している、NATO軍による「リビア空爆を直ちに止めること」を、南アフリカ与党ANCも強く求める声明を出した。一方、ベンガジの「反政府勢力」は、「カダフィ排除」が前提であるとして、「Zuma提案」を直ぐに拒否した。NATO軍は、Zuma大統領が会談後、トリポリを離れるや否や、「トリポリ空爆」を再開した。                              (2011.05.31)
by shin-yamakami16 | 2011-05-29 21:07 | Comments(0)
石原・橋下など「愚鈍な輩」の妄言を超えて

                                 山上 真


 原発問題が一層深刻さを増す中、民主政権幹部が壇上の「日の丸」に深々敬礼をして登壇する図を幾度も見る度に、何とも形容し難い「滑稽さ」を感じてしまうのは、筆者だけではないだろう。

 一体、物に礼をすることに、何の意味があるのか?

 その物である「日の丸」というものは、1945年以前の日本に於いて、天皇制日本帝国主義の象徴として用いられ、その旗の下に、幾多の日本人が身を捧げさせられ、また、幾多のアジア民族が隷従化させられ、生命を失ったのである。

 「日の丸」・「君が代」は、日本帝国の残忍な侵略の象徴として、二度と決して用いてはならないものである。それを戦後再び利用可能にすることを許したのは、天皇を政治的に利用して日本統治を容易にしようとしたマッカーサー司令部である。即ち、天皇制存続の方針と共に、「日の丸」・「君が代」は、世界人民の反対意見を無視する形で復活したのである。

 先に述べた「物に礼をする」ことは、礼をする対象が、例えば、戦争の犠牲者を慰霊する碑とかであれば、誠に意味深いと言えるだろうが、その対象が、自国民や他国民を殺戮することに利用されたとなれば、一体何だという事になる。

 菅とか、枝野とかの諸君は、そのことを意識して、この旗に礼をしているのだろうか?もし、「産経新聞」や、自民党右翼諸君が「国旗」に礼をしないと騒ぐからとか、右傾化した国民愚衆の支持票を取りにくくなるといけないからとかの危惧から行動しているのであれば、最早、国の大切な未来を担う政治家の資質を失っていると言うほかない。

 民主党諸氏が、歴史を学び損ねたらしい石原慎太郎とか、橋下某とかの無学な輩とは違うのだと主張したいならば、先ず、国民に、「何故旗と言う物に敬礼するのか」ということを、歴史の真実に背かずに、充分説明するべきだ。

 付言すれば、米国人が「星条旗」に礼をする習慣があるのは、多民族国家という特殊性から、国家としての団結を図ろうとする努力として致し方ない面があるだろう。しかし、英国・フランス・ドイツなどで、自国国旗に礼をしている政治家の姿など、見たことがない。学校でも、そのような習慣は無いと思われる。

 これからの世界は、「国家」を強調するナショナリズムよりも、国際協調を強調する方向に向かうのが自然であり、「国旗・国歌」問題も、頑迷な姿勢を改めて行かねばならない。この際、歌曲としても調子外れの「君が代」、そして、暗い歴史に染まった「日の丸」に替わるものを新たに作ることを提案する。
                         (2011.05.22)

<参考資料 1> 「日の丸・君が代の論理」から

表2 主要先進国の学校における国旗・国歌の扱い
(『世界の国旗と国歌』=1991年・岩波ブックレット掲載の各国大使館回答による)
.〔学校での扱い〕〔学校行事での国旗掲揚〕

イギリス  とくに教えない しない
イタリア  由来は教えるが扱いは学校一任  学校の判断による
オーストラリア  扱いは学校に一任  学校の判断による
カナダ  (多民族国家なので国旗は必要。あらゆる場合に掲揚) .
スイス  歴史の授業で。学校一任 学校の判断による
スウェーデン  (国旗には親しみをもち個人的な祝いにも揚げることがある) .
デンマーク  教えない  掲揚しない
ドイツ  学校に一任 比較的まれ
ノルウェー  学校に一任  掲揚しない
フランス  歴史の授業で教える  掲揚しない
ベルギー  学校に一任  しない


<参考資料 2>

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記事入力 : 2011/05/27 11:27:59
大阪府、教職員に君が代斉唱時の起立を義務化
橋下知事が条例制定を推進「3回違反すれば免職に」
君が代 | 橋下徹 | 石原慎太郎
 日本で今年4月に行われた統一地方選で、議員給与削減や行政区域の統廃合を公約として掲げ、大阪府議会で第1党となった地域政党の「大阪維新の会」は26日、府内の公立学校の教職員に対し、学校行事で君が代が斉唱される際に起立を義務付ける条例案を提出することを明らかにした。大阪維新の会は議会で過半数を占めているため、条例が提出されれば可決は確実視されている。条例案の提出を進めているのは、同会を率いる橋下徹知事。橋下知事は、3回違反した教職員を免職とする内容も条例に盛り込む考えだ。朝日新聞は「選挙で地方行政改革を公約として掲げて圧勝した大阪維新の会が、最初にやることが教員の懲戒強化だ。これは理解に苦しむ」と報じている。

 日本政府は1999年、日章旗を国旗に、君が代を国歌とする法律を制定し、公立学校の行事では君が代斉唱が事実上、義務化された。しかし、一部の教職員たちは君が代を「天皇による統治が千年万年続くという意味が含まれている」として、歌詞が軍国主義的などと反発してきた。東京都の石原慎太郎知事はこの法律を根拠に、君が代斉唱時に起立しなかった公立学校の教職員に対し、減給や停職などの懲戒処分を下したが、東京都の条例までは制定しなかった。東京高等裁判所は今年3月「君が代斉唱時に起立しなかった教職員に対する懲戒は、懲戒権の乱用」という判決を下すなど、今もこの問題では激しい議論が続いている。橋下知事は「教職員の服務規律を確立しようとしているのであって、思想の自由とは関係ない」と主張しているが、一方で「極右的な政策で存在感を誇示する戦略ではないか」との批判も出ている。

東京=車学峰(チャ・ハクポン)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版



<追記 1> 5月27日付『朝日新聞』が報じる所によると、「日本弁護士連合会」は26日、宇都宮健児会長名で、大阪府・橋下知事が率いる「大阪維新の会」の府議団が成立をめざす「教職員に君が代の起立斉唱を義務化する条例案について、「起立・斉唱を強制することは憲法の思想・良心の自由を侵害する」などと批判する声明を発表し、「憲法違反」と論断した。このことは、「弁護士出身」の橋下君にとっては、「反憲法的」人権無視の自らの立場を弾劾されているだけに、致命的打撃となるに違いない。                            (2011.05.27)


<追記 2> 今日30日、日本最高裁は、卒業式などで「日の丸」に向かって起立し、「君が代」を斉唱することを強制することを合憲とする判決を下した。「礼式などでの秩序の維持」を「個人の思想・信条の自由」の上に置く判断であるが、日本の恥ずべき歴史の中で果たした「日の丸」、「君が代」の邪悪な役割を免罪するもので、世界的視野・基準では到底通用しないものだ。この国歌・旗の下で殺され、苦しめられた韓国・朝鮮の人々、中国・アジアの人民からの厳しい非難が、これら「粗悪な判決」を下した4人の裁判官どもに向けられることだろう。        (2011.05.30)
by shin-yamakami16 | 2011-05-22 11:11 | Comments(0)
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        5月18日 NATO軍と衝突したTaliqanでの大規模デモ


米国単独「特殊作戦」はパキスタンの協力を失うか?

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 アフガニスタンでは、最近、新たな形を採った、タリバンの激しい攻撃が政府軍・NATO連合軍に対して展開されている。米国に依るオサマ・ビン・ラーデン「私的処刑」後の事態だけに、注意深く見るのが当然だ。

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           5月7日 カンダハルでのタリバン攻撃


 ビン・ラーデン殺害は去る5月2日とされているが、その直後の7日、アフガン南部カンダハルで、約100人のタリバン部隊が州知事公邸・警察・諜報機関建物など7か所を自動車爆弾などで一斉攻撃し、民間人・アフガン軍兵員など4人が死亡、46人が負傷した。これだけ組織的且つ大規模な攻撃は、これまでに見られなかったものだ。

 次いで5月18日には、アフガン北東部Takhar州首都Taliqanで、NATO軍に依る「夜間作戦」で4人の「武装アフガン人」(NATO筋の話)が殺害されたことに抗議する数千人のアフガン人が、カラシニコフ銃・手斧・手榴弾・火炎弾で武装して、「米国人に死を!カルザイに死を!」などと叫びながら示威行動を繰り広げ、市郊外のドイツ軍主体のNATO軍基地を襲撃した。NATO軍の反撃で、数時間後には鎮圧されたが、女性や子供を含む数十人のアフガン人が殺されたという。NATO軍・政府軍側は5人程が負傷した。(ニューヨーク・タイムズ紙)

 一方、アフガン東部Kapisa州では、5月18日、爆弾攻撃を受けて、フランス軍兵士一人が死亡し、4人が負傷した。これで2001年の仏軍アフガン参戦以来、58人のフランス軍兵士が死んだことになるという。(フィガロ紙)

 因に英国軍人のアフガン戦死者は、5月15日に、南部ヘルマンド州で路傍爆弾で海兵隊員一人が死亡し、戦闘員として365人目の犠牲者となった。(BBCニュース)
 米国兵士は、今年5月1日までに、1579人が戦死した。(Anti-War Com)

 ところで、この5月19日付仏紙『ル・モンド』は、’Al-Qaida consolidée en Afghanistan’ 「アル・カイーダがアフガニスタンで強化されている」と題する注目すべき論文を掲載した。寄稿者は、長期に渉ってパキスタン駐在欧州委員会委員及び仏大使館員を務めた政治・外交専門家のGeorges Lefeuvre氏である。

 その論文の要旨は次の通りである。

 米国オバマ政権によって為されたビン・ラーデン殺害の後、批評家たちは、アフガニスタンはもはやアル・カイーダの影響力が及ばないことを、そして、ラーデンに隠し家を与えたことで「罪深いパキスタン」は、タリバンやアル・カイーダを支える一方、「テロとの戦い」の役割を担うという「二股をかける」行為をしたことで罰せられねばならない、と主張しているが、これは単純すぎる見解だ。
 
 米国人の「象徴的見方」では、ビン・ラーデンを抹殺することで9・11テロに対する「正義が果たされた」という訳であるが、これは性急過ぎる見解であり、実は、アル・カイーダは北東アフガニスタンで危険なほど影響力を強めつつあるのだ。

 現在パキスタンとアフガニスタンの間に、国境を越えた「反政府・武装勢力」の三つの「軸」が存在する。南部Kandahar-Quetta では、国家奪還を図ろうとするタリバンが居り、中央「軸」としては、Khost-Miranshah が1984年以来のアル・カイーダ「揺籃の地」として歴史的に有名であり、そこから派生的に生まれたパキスタンのTehrik-e-Taliban Pakistan 即ちTTP「パキスタン・タリバン運動」 はビン・ラーデンの組織網と深い繋がりを持っている。

 TTPは公式的に2007年に創られ、2005年から活動を開始しているが、この組織は、「ビン・ラーデン抹殺」に備えて組織生き残りを目論んでおり、行動決定権を具えた作戦実行ネットワークである。ビン・ラーデン殺害後の5月12日にパキスタン北西部で起き、70人が犠牲となった恐るべきテロは、この組織の「復讐」の証である。

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 TTP は又、1980年代半ば以来、パキスタン北部Swat Valley やアフガン東部Kunar の地方部族有力者と組んで、影響力を及ぼしており、米軍基地廃棄後、これらの地は事実上、タリバン・アルカイーダの支配地域となっている。

 今年に入って、TTP/Al-Qaida の「聖戦主義者」によって、21人のアフガン部族長が誘拐され、その内9人が殺害されている現状や、各地の警察・軍組織、米軍最大基地バグラムまでも攻撃されているところを見ても、アフガニスタンが「アル・カイーダの脅威」を免れているなどと信じることは愚かさの極みと言うほかない。


 オバマ政権が「ビン・ラーデン殺害」を、当事国パキスタンに対して何の連絡もなく実行したことは、明から様な「国際法違反」は言うに及ばず、「テロとの闘い」の友邦としての信義に背くものとして受け止められていることは当然である。先日起こった米軍ヘリとパキスタン地上軍との「交戦」という事態は、「ビン・ラーデン殺害」作戦の代償が如何に高くつき、今後のアフガン情勢が、いかに険しいものかを如実に示している。   

 (2011.05.21)


<追記 1> 今日21日付英国『インディペンデント』紙によると、パキスタン北西部Khyber地方の、アフガニスタン国境Torkhamで、アフガンNATO軍用燃料を輸送中のトラックに対する爆弾攻撃が2回あり、合わせて32人が死亡したという。前夜にも爆弾テロで16台のタンクローリーが破壊されている。20日にはペシャワールで、米国領事館の車を狙った爆弾テロが起こり、パキスタン人一人が死亡し、米国人2人を含む12人が負傷したばかりだ。いずれの事件も、TTP即ち「パキスタン・タリバン運動」が「ビン・ラーデン殺害」に対する報復とする犯行声明を出している。
 同紙によると、アフガンNATO軍への石油燃料供給は、パキスタン・ルートが40%、北部近隣諸国から40%、空輸が20%という割合になっており、TTPは、アフガン・タリバンに呼応して、NATO軍の物資供給を遮断する為の執拗な攻撃を行っているという。         (2011.05.21)


<追記 2> 5月26日付『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、この一か月間に合わせて約20人の米軍兵士がアフガニスタン戦線で死亡したという。主として極めて破壊力の強い路傍爆弾爆発に因るものだが、いずれもタリバンが「ビン・ラーデン殺害に対する復讐」という発表をしている。この他、NATO軍ヘリが2機、フランス軍ミラージュ戦闘爆撃機が1機、原因不明で墜落している。
  一方、パキスタンでは、5月2日の米軍「ビン・ラーデン殺害」特殊作戦以来、パキスタン・タリバンに因る合わせて20件以上の「報復テロ」があり、約150人が犠牲となっている。この26日夜には、ペシャワール南西部Hanguでの自爆テロで25人が死亡し、重傷者10人を含む30人が負傷した。      
                                     (2011.05.27)

<追記 3> 5月27日付米『ロス・アンジェルス・タイムズ』紙が伝える所によると、ヒラリー・クリントン米国務長官は27日、イスラマバードを訪問し、パキスタンAsif Ali Zardari 大統領と、「ビン・ラーデン殺害」後に冷えきった両国関係を改善する意図で会談したが、パキスタン側は、極めて冷たく対応したと云う。CIAによるビン・ラーデン「住居調査」は認めたものの、パキスタンは両国間の「対タリバン・アルカイーダ情報交換協力」を拒否し、同国内で活動中の「RQ170Sentinel無人偵察爆撃機」作戦・中止を強く要求した。                                                             (2011.05.28)
by shin-yamakami16 | 2011-05-21 12:11 | Comments(0)