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by shin-yamakami16

キューバ・革命50年の光と影

 
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             革命記念式典会場で


「オバマ米国」との関係改善は必然か?

                           山上 真
 1959年1月1日、フィデル・カストロが、チェ・ゲバラと共にキューバ革命の勝利を宣言してから、今年で半世紀になる。現指導者ラウル・カストロは,兄と同じバルコニーの下から、経済的苦境と去年襲った三つのハリケーン被害を乗り越えて、更なる50年間の革命の持続を訴えた。

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              ラウル国家評議会議長

 米国の事実上の「傀儡」バティスタ独裁政権を打倒したキューバ革命は,当初、社会主義を目指していた訳ではなかった。しかし、革命政権が、米国などの外国資本への統制、農地改革に乗り出すと、当時のアイゼンハワー米大統領は、亡命キューバ人を組織・訓練して、革命政権の打倒を図った。1961年に大統領を引き継いだケネディは、この作戦を継承し、武装勢力をキューバに侵入させようとした「ピッグス湾事件」(正式名:プラヤ・ヒロン侵攻事件)を起こしたが、失敗に帰した。革命軍の力量を過小評価した為の、作戦上の初歩的錯誤であった。
 これを契機として、キューバ革命政権は急速に旧ソ連邦に接近し、社会主義革命の道を辿ることとなった。

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                フィデル・カストロ

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                チェ・ゲバラ

 1962年2月に、ケネディ大統領はキューバに対する輸出の全面禁止、経済封鎖を発表、対抗するキューバ側は、ソ連ミサイル基地の建設を進めていることが明らかになり、一気に米ソ核戦争の危機(キューバ危機)が迫った。
 この危機は、米・ソ妥協でミサイルが撤去され、土壇場で回避されたが、米国対キューバの対立が固定化した。

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 キューバの主要産業と言えば、モノカルチャーと言えるサトウキビ単一栽培、埋蔵量が世界最大規模のニッケル生産、海産物であるが、革命後は、工業化と、有機農業への転換が図られている。2000年以降は,砂糖の国際価格の暴落、輸入原油の高騰により、厳しい経済状況が続いているが、近年は観光産業に力を入れた結果、2003年には観光客数190万人、観光収入は23.2億ドルに達している。

 最近では、伝統的に米国の強い影響下にあった軍事政権が次々と打倒され、ヴェネズエラ、ボリビア、ニカラグア、チリなど、社会主義的民主政権が誕生するに至って、キューバは、これらの国々,更にはブラジルと、互恵的経済・教育援助協定を結んでいる。例えば、チャベス・ヴェネズエラ政権から日量100,000バレルの石油の供給をキューバは受けており、その代わりに、優れた医療体制を誇るキューバが、医師派遣・留学生受け入れなどの援助をしている。

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 旧ソ連をモデルにしたキューバは、世界的最高レベルの教育、医療制度、そして社会福祉制度を確立した。
 識字率95.7%を誇る教育は、大学に至るまで学費が無料である。小学校は、20人学級を導入し、国民の大半は高等教育を受けている。

 「キューバ・モデル」として有名な医療制度では、人口165人に1人という医師数は世界1位であり、乳児死亡率も、1,000人当たり6.5人と先進国並みである。医療費は無料である。キューバ国民の平均寿命は77.7歳で、コスタリカに次いで、ラテン・アメリカ2位を誇る。世界各地への医師派遣も積極的に行っている。


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    ロシア・メドベージェフ大統領とラウル・カストロ議長


 社会主義国キューバは、中国、北朝鮮との外交関係を安定的に維持し、特に前者とは、砂糖、ニッケルの輸出、バイオ医薬の生産・販売で、盛んな交流を行っている。
 ロシアとは、農業、鉱産物、医薬品、観光に加えて、科学技術、海底石油資源開発協力を進めている。最近、ロシア艦艇がハバナに寄港したことが注目された。
 去年8月のグルジア・南オセチア侵攻事件に於いては、キューバはロシアの反攻作戦を積極的に支持した。
 去年11月に、中国・胡錦涛国家主席、ロシア・メドベージェフ大統領が相次いで訪問し、ラウル議長と会談している。
 それに先立つ10月には、欧州連合(EU) との協力協定に調印し、緊張関係を終らせた。

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 過去50年間、キューバでは医師と、例えばタクシー運転手のような労働者が同じ賃金であることが、西欧社会では、驚きをもって迎えられる事実であるが、最近、新指導者ラウル・カストロは、「労働の質」に基づく賃金制度を導入し始めているようだ。中国型の「経済改革」を導入する方針だと云う。
 農業分野でも、新たに山野を開墾した者などの「土地個人私有」を認める方針に政策を転換したようだ。(米国ABC News, 1月3日)
 最近になって漸く、パソコン、携帯電話、レンタカー、ホテル滞在などを自由化したことは、遅きに失した政策変更と言えよう。

 間違いなく明言出来るのは、現段階のキューバ国民は,みな貧しいことだ。月額給与が20ドル程度では、他に生活必需品の配給があっても、厳しい。

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チャベス・ベネズエラ、モラレス・ボリビア、ルラ・ブラジル各大統領とラウル議長

 嘗ては孤立化が目立ったキューバは、先に述べたようなラテン・アメリカ諸国の変革の波に助けられているが、その対外的環境を一層明るいものにしているのは,他ならぬ米国新指導者バラック・オバマの登場である。キューバ国民は言うまでもなく、ラウル・カストロも「密かに」歓迎しているようだ。
 オバマ氏は、大統領選挙戦最中に、「キューバ指導者との対話の必要」を唱えて、対立候補者マケイン氏に激しく攻撃されていた。オバマ氏は、「経済制裁解除」の条件として、政治犯釈放と複数政党制度の実現をキューバ側に求めているが、当面は、「旅行制限」の一部解除の上、対話路線を続ける方針を変えていない。
 最近の情報では、ExxonMobilなど、米国石油関連企業が、キューバ沖合油田の開発に参入する意思を示しており、この辺から、キューバ・米国関係が急速に進む可能性が出てきた。
 一方、キューバ側は米国に対して、国連総会の場で、経済制裁解除、グアンタナモ海軍基地の返還など5つの要求を突きつけている。

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 以上のように見ると、遅かれ早かれ、キューバ・米国間の外交・経済関係は間違いなく改善に向かうものと思われる。両国の国内事情が,それを何よりも必要としているからだ。
 キューバは、「原初型共産主義」から、個人の自由を重んじる「開放型社会主義」に体制を進展させて行くであろう。恐らく、それしか現体制維持の道は無いに違いない。                             (2009.01.04)


<写真> The New York Times, Washington Post, The Independent,
        The Guardian, Le Monde 掲載のもの
by shin-yamakami16 | 2009-01-04 00:51 | Comments(0)