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by shin-yamakami16

オバマ政策は「社会主義」か?

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               ワシントンでの「反オバマ」デモ


「平等か、自由か」・問われる民主主義の理念

                  山上 真

 米国オバマ大統領の「医療制度改革」の成否が最終段階に入ろうとしている。

 最近の米国統計局調査によると、厳しい経済情勢を反映して、無保険人口は、2007年の4570万人から、昨年は4630万人と急増している。
 
 この8月に議会での成立を目指していた法案が、共和党議員、及び民主党の一部の議員の反対に遭って、今年中に成立するかどうか微妙な情勢になっている。

 オバマ氏は当初、全国民に適用される、英国の*NHS 型医療制度の実現を頭に描いていたようであるが、既存の医療保険に入っている人々の「新たなる重税への危惧」、及び保険会社、共和党の猛烈な反対に直面することとなった。

 この制度を維持する為には、向こう10年間に1兆ドルを要する故に、富裕層への課税を重くすることになりそうなこと、国家管理の医療制度成立によって、民間保険会社の経営が困難を来す恐れがあることなどが、反対の理由である。

  これに対して、オバマ大統領は、「誰も、病気になったら破産してしまうということがあってはまらない」と訴えている。つまり、膨れ上がる医療費と膨大な「無保険人口」の存在をどうするべきかということは、「選択」の問題ではないとも。

 9月6日付『ニューヨーク・タイムズ』紙は、その社説で、オバマ大統領が共和党を中心とする反対派の猛烈な攻勢に怯むことなく、当初の「国民大多数をカバーする」公的医療保険制度を確立するように求めている。それが今後10年間に1兆ドルを必要とするとしても、前ブッシュ政権下で富裕層に対して施した、向こう10年間の1兆7千億ドルの減税額と較べれば、大した問題ではないとする。

 更に同紙は、9月12日、保守派によって組織された5万人の大規模デモでの多くのプラカードに、「オバマは社会主義者だ」という ‘epithet’ (形容辞・「渾名・悪口」)が用いられたことについて、5人の学者・雑誌編集者などの感想を掲載した。そこでは、米国民大多数が、「社会主義」という概念を漠然と「悪いもの」としてしか理解せず、ヒットラーを連想したりしていること、人間的な社会民主主義が存在することを知らず、旧ソ連型「共産主義」と混同してしまうこと、フランクリン・ルーズベルト大統領も『米国自由同盟』から「社会主義者・共産主義者」と呼ばれたことなどを指摘している。そして、オバマ氏の政策が「自由」よりも「平等」にウェイトを置いている点で「社会主義的」であるにしても、中央集中的経済計画・生産手段国有化というような「厳密な定義の」社会主義とは全く異なると指摘している。
 またTerence Ball 氏(アリゾナ州立大教授)は、米国には、19世紀末からの「社会主義的伝統」が生きづいており、「社会主義者」と「愛国者」とは相容れない存在ではないと主張している。

 最近オバマ大統領の支持率が50%台前半にまで低下していることの原因は、必ずしも「医療制度改革」の為ばかりではなく、アフガニスタン情勢が、米兵などNATO軍兵士の戦死者数が激増する一方、総選挙の混乱で「次期アフガン政権」の展望が見えないことなどに由るものと思われる。9月17日のカブールでの爆弾テロで6人の兵士が犠牲になったイタリア・ベルルスコーニ首相は、アフガン駐留3100人の軍隊について、「出来るだけ早期に撤退させる」意向を明らかにしている。他のNATO諸国も、アフガン駐留続行について、ますます強い反対論が巻き起こっているのが実情だ。
 米国内でも、軍首脳部が求める兵士増派について、支持する世論は28%に過ぎない為、オバマ大統領も増派について態度を決めかねているようだ。

 これまで幾つもの画期的な政策を実行してきたオバマ大統領は、前向きの政策である「医療制度改革」と、「オバマのヴェトナム」、つまり「取り返しのつかない大失敗」となりかねない「アフガン作戦」という二つの難題をどう処理するか、胸突き八丁に差しかかっている。
                    (2009.09.19)


<注> NHS=National Health Service 国民保健制度
 英国民全てが、無料で医療を受けられる国営制度。しかし、高度医療や、歯科医療などについては、財源及び医師不足で不充分な面があり、改善が求められている。(外国人の利用も可能)

 
<写真> The New York Times 
Commented by ripit-5 at 2009-09-19 21:03
こんばんは。
我々日本人にとって、国民皆保険制度が「社会主義」的と見られる層が幅広く見られることがむしろ理解を越えるところです。

たとえ、高度経済成長と高い技術力で日本の経済成長が後ろ盾としてあった過去があったにせよ、日本人がそのように勤勉でいられたのは無意識であるにせよ、皆保険皆年金の国であり、老・病・障害・死の不安にダイレクトに直面せずに来られた故だと思います。
 その制度が揺らいできたからこそ、ある面で民主党政権が樹立できたわけですね。鳩山首相が訪米の折は、ぜひオバマ大統領に「あなたの政策は正しい。ぜひ貫徹して欲しい。その点において日本は応援する」といって欲しいですね。日本は同盟国としてもし力があるとするなら、皆保険制度の素晴らしさをアッピールするべきです。
Commented by shin-yamakami16 at 2009-09-19 21:35
ripit-5 様
日本の国民健康保険は、次第に、患者の一部負担金が増大しており、改悪された部分を元に戻す必要がありますが、米国の場合と較べて、良好と言えるでしょう。ともかく、国家予算の組み方を本質的に改め、無料医療制度を確立することが、全ての国民の安心に繋がるものと存じます。
by shin-yamakami16 | 2009-09-19 11:17 | Comments(2)