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by shin-yamakami16

ウクライナ・「親露」大統領誕生の意味

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         ウクライナ大統領に選ばれたヤヌコーヴィチ氏


ヤヌコーヴィチ氏に立ちはだかる「金融・経済危機」

                                  山上 真

 2月7日に行われたウクライナ大統領選挙の決戦投票で、ヴィクトール・ヤヌコーヴィチ氏が、親欧米派の首相ティモシェンコ女史を、得票率48.8対45.6%で破り、大統領の座を確実なものにした。

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               現首相ティモシェンコ女史


 第一回目の投票(1月17日)では、6人の大統領候補者が競ったが、経済危機を招いて「無能」の烙印を押されていた現大統領ユシチェンコ氏は、得票率5.45%に止まり落選、親露派元首相ヤヌコーヴィチ氏が35.32%、ティモシェンコ現首相25.05% の得票率で、両氏が決選投票に残った。

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             惨敗したユシチェンコ前大統領


 今度の選挙結果については、欧州議会の選挙監視団が「民主的に行われた」として高く評価しており、「異議申し立て」で抵抗するティモシェンコ女史に対し、建設的な政権交代の為に、選挙結果を受け入れるように求めている。

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            「オレンジ革命」の熱狂 (2008.11.22)


 このような状況は、ウクライナが2004年の「オレンジ革命」で、西側への傾斜を鮮明にした「歓喜の時期」の様相とは全く異なっている。先ず、ウクライナ国内では、ユシチェンコ大統領の、NATO加盟を目指す「反ロシア路線」によって、天然ガス供給をめぐる*紛争が激化した結果、ロシアが天然ガスの供給を停止したが、世界的金融危機も重なって、経済全体の大混乱を招いた。通貨フリヴニャが過去最安値に下落し、2桁のインフレ率、約400万人(総人口4571万)の失業者を生み、竟には、債務不履行(デフォルト)の瀬戸際まで追い込まれた。
 IMF(国際通貨基金)はウクライナに165億ドル(約1兆6000億円)の緊急融資を実施した。
 

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        ロシアーウクライナー西欧を繋ぐ天然ガス・パイプライン


 加えて、ロシアからウクライナを通るパイプラインでの天然ガス供給に依存しているドイツなどEU諸国が、ガス供給停止によって、深刻なエネルギー不足に陥った。今や、ロシア抜きには、欧州全体のエネルギー政策が図られない構図になっているのである。
  
 事実上「NATO加盟」是非を問う国民投票でもあった大統領選の結果が 'NO' と出て、困惑する筈の欧米諸国が意外にも、「親露ウクライナ」誕生の知らせに動じるどころか、寧ろ歓迎ムードなのは、このような背景がある。
 
 一方では、米国オバマ政権が、『核軍縮』などの面で、モスクワとの協調路線を採り、東西の緊張緩和が著しく進んだことが、ウクライナ国民に、ロシアに対する過度の警戒感を解く働きを齎していると考えられる。
 
 ウクライナの「政変」は、2年前にロシアとの間で戦火を交えたグルジアのサアカシュヴィリ政権の帰趨にも、大きなインパクトを及ぼすに違いない。ユシチェンコ政権下のウクライナは、「グルジア戦争」直前、密かにグルジアに対して武器供与をしていた程親密であったが、この度の「環境変化」で、かねてから強力な反政府運動に直面している現グルジア政権は、事実上孤立無援の状態に置かれることになった。 

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             新大統領誕生を祝うキエフ市民


 ヤヌコーヴィチ率いるウクライナ新政権は、ロシアの強力な支援を受けることが容易になったとしても、先に述べた未曾有の経済危機を脱することは至難の業と言う外ない。新大統領のモットーである「安定」が実現できるかどうか、世界が注視している。 (2010.02.10)
 

<注> *印:ロシア・ウクライナ間の紛争の原因には、ソ連時代から長期間に渉って、ウクライナ側の密かな「ガス抜き取り」、低料金に抑えられていたウクライナ向け天然ガス料金の「引き上げ」を巡る衝突などが挙げられる。(2010.02.10)


<写真> The New York Times, Le Monde, The Times, The Guardian
by shin-yamakami16 | 2010-02-10 19:04 | Comments(0)