世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

モスクワ「地下鉄自爆テロ」の衝撃

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「テロの根源」強圧政策で抑え込めるか?

                            山上 真

 今から40年程前、モスクワを訪れた時の思い出と言えば、屹立する「スターリン時代」の大ホテルの偉容、夕立の後の虹と夕日の美しさ、「モスクワ郊外の夕べ」が流れるレストランでの、注文した料理の「待ち遠しさ」、信号の無い大通りを横断した際に警官に見つかり、厳しく詰問されたことなどである。当時は勿論「ソ連」時代であり、現代のロシアの様相とはまるで異なっていたが、其処には一種の「長閑さ」があったように思われる。確かに「自由」の問題はあったが、少なくとも「旅の安全」は図られていた。

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 そのモスクワは今、恐怖の街と化している。チェチェンを中心とする北コーカサスでの「イスラム過激派」及び幾つかの共和国独立を要求する武装勢力の「自爆テロ」などによって、過去十年に渉り大混乱に陥ってきた。このような事態を招いた原因は、良くも悪くも「強権」で求心力を維持していた「ソ連」が、崩壊したのを機に齎された宗教・民族的大変動であろう。

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 今回の連続「地下鉄テロ」の場合、プーチン・メドヴェージエフ政権の厳しい「弾圧」下で殺された北コーカサス過激派の夫や親族の、復讐を目的とした「黒い未亡人」たちが引き起こしたものとされている。彼女たちは、ロシア軍によって3月2日に殺された精神的指導者 Said Buryatsky の訓練を受けていた、30人の ‘Black Widows’ の一部と推察されている。メディアによって「ロシア・ビン・ラーデン」と呼称されたSaid は、去年11月の列車爆破テロを始めとする幾つかのテロ事件を仕組んだとされている。

 ロシアに於ける過去10年間のテロ事件を列記すると次のようになる。
1999年  
 8月31日モスクワ市内の爆弾テロで1人死亡、約40人負傷。9月9日市内南東の10階建てアパートで爆弾テロ。94人が死亡、249人が負傷した。その4日後の9月13日、モスクワ市内南部の9階建物地下での爆弾テロにより118人が死亡した。結局、この年だけで214人が犠牲になった。これらのテロは全てチェチェン独立派に因るものとされる。
2002年
 10月23日から26日にかけて、モスクワ市内の劇場で、800人以上の観客がロシア軍のチェチェン撤退を要求する武装勢力の人質となる。ロシア特殊部隊はガス銃を使って鎮圧を図り、結局観客129人を含む169人が死亡した。
2003年
 7月5日モスクワ北西のロック・コンサートに侵入した2人の女性テロリストは、警備員に怪しまれて一旦改札口で逮捕されたが、僅かな間隙に身に着けていたベルト状の爆弾で自爆テロを行い、17人が死亡した。2人は所持のパスポートから、「チェチェン独立派」のメンバーと分かる。
2004年
 2月6日モスクワ地下鉄車内で、ラッシュアワーに女性テロリストによる自爆テロ発生、40人が死亡した。8月31日モスクワ北部地下鉄入り口で女性による自爆テロ、10人が死亡し、51人が負傷した。その翌日9月1日、モスクワ南方1900キロの北オセチア Beslan の学校で、約30人のチェチェン武装集団が1181人の児童と教職員を人質にする。ロシア治安部隊との戦闘で、児童186人を含む386人が死亡し、700人以上が負傷した。


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2009年
 11月27日ロシア北西部モスクワ・ペトログラード間で「ネフスキー・エクスプス」が爆弾テロに遭って脱線し、死者26人、負傷者約100人に及んだ。
2010年
 今回3月29日(月)の2女性によるモスクワ地下鉄車内の自爆テロにより、39人が死亡し、27人が負傷した。


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              3月31日のキズリャルでの爆弾テロ現場


 更に先程入ったばかりの報道によると、本日31日ロシア南部ダゲスタン共和国キズリャル中心部で連続爆弾テロがあり、現地警察幹部など12人が死亡し、20人以上が負傷したということだ。


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        爆弾テロ現場で献花するメドヴェージェフ大統領(3月30日モスクワ)

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           テロ負傷者を見舞うプーチン首相(3月30日モスクワ)

 メドヴェージェフ大統領などロシア指導部は最近になって漸く、テロ活動が軍事的対応だけでは防ぎ切れないことを理解し始めたようだ。軍事的に過激派を「根こそぎ」排除すると共に、北コーカサスでの人々の生活条件改善を図る為の施策を具体化しようとしている。遅きに失した観はあるが、世界至る所のテロリズムの主たる根源が「窮乏」にあることは間違いなく、これに有効に対処することが当事者の識見にかかっていると言っていいだろう。      (2010.03.31)



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<追記> Le Monde, Le Parisien など仏メディアが 4 月2日伝えているモスクワ発の情報に拠ると、29日に起きた「モスクワ地下鉄自爆テロ」の犯人の一人は、ロシア軍によって去年12月31日殺害された、「コーカサス反乱戦闘員」Oumalat Magomedovの17歳の未亡人 Djennet Abdourakhmanova であることが判明したということだ。



<写真・資料> The Times, Daily Telegraph, Daily Mail, The Independent,
Le Figaro, Libération, Le Parisien 
by shin-yamakami16 | 2010-03-31 22:33 | Comments(0)