世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

ガザ救援「フロティラ事件」:孤立深めるイスラエル

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        ロンドン・ダウニング街での「イスラエル抗議」デモ


パレスチナ問題:問われる「擁護者」米国の責任

                             山上 真

 事は去る5月31日未明、地中海公海上で起こった。
 イスラエルによって、人口約150万、面積360k㎡のガザ地区は完全に封鎖されており、その住民の80% は、食料など基本的な生活物資さえこと欠いた状態がここ数年続いている。
 今回は、トルコの民間支援団体が、ガザ地区住民に食料・医薬品・建設資材などを届けようとして、小型船舶を意味する ’flotilla’ 6隻を派遣したのであった。それらには、アイルランドの1976年ノーベル平和賞受賞者Mairead Corrigan Maguire氏を含む各国人道活動家など約600人が乗船していた。

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   5月31日公海上でイスラエル軍の襲撃を受けたトルコ『マヴィ・マルマラ号』


 早くからflotilla の動きを察知していたイスラエル政府は、これら船舶のガザ着岸を未然に阻止しようとして、公海上での拿捕方針を決めていた。「ガザ地区への武器・弾薬などの持ち込みを阻む」為というのがその理由であるが、flotilla側は、飽くまで人道支援物資の搬入であることを公言していた。しかし、イスラエル政府による「ガザ封鎖」を解こうとする試みの一環であることは、明らかであった。


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 イスラエル軍は、ヘリコプターで先ず3人の戦闘員を、flotillaの一つで最も大きな ‘Mavi Marmara’ 号に降下させたのだが、ここで、既に甲板上にいた活動家たちと衝突が起こった。これを見たイスラエル軍は、更に多数の戦闘員を乗船させ、活動家・乗員に向かって射撃を浴びせ、十人以上を射殺し、数十人を負傷させたが、正確な犠牲者数は分かっていない。flotillaを拿捕したイスラエル軍は、Tel-Aviv南部の港 Ashdodに向かわせ、そこで、英国人30人を含む約400人の活動家たちを逮捕し、勾留した。報道関係者のカメラ・機材なども全て破壊又は没収されたという。


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            勾留された各国「ガザ支援」活動家たち


 このような「海賊行為」を、イスラエル政府は、「国家の安全保障のため」と正当化するが、国際社会は一斉に厳しい非難をイスラエルに浴びせている。「公海上」の武力行使は、どのような言訳があろうとも、許される筈がない。トルコの要請で開かれた「国連安保理」で、緊急「非難決議」が採択されたが、そこには、「イスラエル」の名前がなかった。毎度のことであるが、イスラエルに「理解を示す」米国代表が、イスラエル名指しの非難声明に反対したからである。


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          イスタンブールでの「イスラエル抗議」デモ


 今度の事件では、伝統的にイスラエル寄りの姿勢が目立つ英仏両国をはじめ、多くのEU諸国が「イスラエル非難」に踏み切っている。特に、flotillaが出航したトルコは、イスラム系国家としては親イスラエル姿勢が目立っていたのだが、今回は厳しい対応に転じ、「拘束活動家を解放しなければ、イスラエルとの断交も辞さない」という強いメセージをイスラエル政府に送った。

 結局、イスラエルは、約400人の逮捕者を24時間後に釈放せざるを得ず、航空機で、死傷者及び活動家をアンカラに送還した。国際的な圧力に屈した形になったイスラエルの失ったものは、余りにも大き過ぎるというのが、大方の見方だ。


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      6月5日イスラエル軍に拿捕された『レイチェル・コリー号』


 次いで6月5日、アイルランドを出航してガザに向かっていた人道援助船 *’Rachel Corrie’ (1,200トン) が同じくガザ沖30キロの公海上でイスラエル軍によって拿捕された。この船にも、ノーベル平和賞受賞者など平和運動活動家が乗船していたが、今度は無抵抗のまま、テル・アヴィヴ南部Ashdod港に着岸させられた。積み荷のガザ援助物資は、検査後に陸路ガザに運び込まれるという。イスラエル当局としては、ガザ地区に於ける「イスラエル主権」と封鎖の維持姿勢を強調した措置であろう。

 現在、パリ、ロンドン、イスタンブールなどで、いずれも数万人規模の「反ガザ封鎖」デモが展開されている。つい先程入った情報では、イスラエルのテル・アヴィヴでも、「ガザ解放」を叫ぶ6,000人規模のデモが、左翼連合によって展開されているということだ。

 イスラエルの不法行為に対して、英国キャメロン首相、更に仏サルコジ大統領までが、従来の「親イスラエル姿勢」から転じて、「封鎖解除」を求める厳しい態度を示しているのと対照的に、事実上の「イスラエルの保護者」米国のオバマ大統領は、当惑の表情を浮かべつつも、明確な「対イスラエル政策」の見直しを打ち出していない。これは、相変わらず、米国内ユダヤ勢力の隠然たる圧力を受けて、中近東に於ける国際関係の正常化に踏み出せないでいる「米国外交の限界」を如実に示すものだ。斯くして、「国際連合」UNを始めとする国際舞台での威信は、確実に低下しつつある事実を直視するべきである。 (2010.06.06)

 
*<注> この船は、2003年3月16日、ガザ地区で、「国際連帯運動」活動家としてイスラエル軍のパレスチナ人家屋破壊に抗議中、イスラエル軍ブルドーザーに轢かれて死亡した米国人Rachel Corrieさん(当時23歳)に因んで名付けられたものである。



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             在りし日のレイチェル・コリーさん



<写真・資料> Le Monde, Libération, The Guardian, The Independent, BBC News, Wikipedia

 
by shin-yamakami16 | 2010-06-06 13:58