世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

欧米メディアが見た「尖閣・中国漁船衝突」事件

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         「釣魚島」(尖閣諸島)沿海で拿捕された中国漁船


「甚大な損失」もたらす菅政権「タカ派」外相登場
  
                                  山上 真

 去る9月7日、東シナ海「尖閣諸島」付近で日本海上保安庁巡視船と中国漁船が「衝突」して、中国人船長が逮捕・勾留されている事件は、「尖閣」領有権を巡る日中間の厳しい対立に発展し、日中友好関係そのものを根底から覆しかねない事態に立ち至っている。「船長逮捕」に抗議するデモが各地で展開されており、一万人規模の中国人観光客が来日を止め、千人の日本・青年「万博訪問団」が招待を取り消されたりして、小泉政権当時の「靖国参拝」問題に発した大規模「反日」運動を凌ぐ勢いを見せている。今日では、中国内には夥しい数の日系企業が展開しており、日本の輸出総額のトップを占めているのは米国を超して中国市場となっているだけに、現下日本の「経済低迷」を顧慮するならば、今度の事件が将来的に及ぼす影響は深刻なものと言わなければならないだろう。


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 ところが、新たに発足したばかりの菅政権の外相前原氏は、「東シナ海に領有権問題は存在しない」と嘯くばかりで、単なる「衝突」事件から「領有権」問題へと拡大して行く一方の現実を直視しようとしていない。日本が主張する「尖閣」領有権が、必ずしも、米国を始めとする国際社会で認知されたものではないことは、今度の事件を巡っての「日中衝突」を伝える海外メディアの報道姿勢からも窺えることだ。


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 『ガーディアン』、『ファイナンシァル・タイムズ』などの英国紙は、今度の「日中衝突」を巡る両国の遣り取り、歴史的背景、現場海域での「ガス田」など資源開発競争について、概ね客観的に経緯を伝えているが、「中国漁船と、進路遮断作戦中の日本巡視船の衝突」事件と、「尖閣諸島領有権についての両国の主張の対立」に関しては、全く中立的であり、日本側の立場を支持していない。むしろ、これまでの外相より ‘hawkish’ (タカ派的)な前原外相の「この地域に領土問題は存在しない」という挑発的発言に注意を喚起させる形になっている。一方、9月19日付保守系『デイリー・テレグラフ』紙は、「この事件は、第二次世界大戦中に中国を占領した日本軍の残虐行為に対して強い感情を抱く中国大衆の憤激を掻き立てている」と記事を結んでいる。



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 仏保守系紙『フィガロ』は、日本側の「中国漁船が故意に巡視船にぶつかって来た」という発表に対して、’bateau de pêche chinois est entré en collision avec deux navires des garde–cộtes japonais ‘ 「中国漁船は日本の沿岸監視船2隻に挟まれるようにして衝突した」という記述をしており、明らかに解釈が異なる。

 米国『ニューヨーク・タイムズ』紙は、9月10日付と20日付の二度に渉ってニコラス・クリストフ記者の論説記事を掲載している。前者の ‘Look out for the Diaoyu Islands’ 「釣魚台諸島に注目して!」と題する記事では、米国民一般に対して、
「皆さんが耳にしたことのない太平洋上のつまらない岩礁を巡って緊張が勃発しているが、耳を傾けていて下さい。と言うのは、いつか将来、中国・日本・台湾・米国にとって醜悪で計り知れない結果をもたらす恐れのある国境紛争なのです」と語りかけている。そして、今回の中国漁船拿捕事件の顛末に触れた後、
「尖閣諸島の領土主権を主張する各国の指導権が『ナショナリスト』に握られた場合、特に日中間の衝突に至った際には、米国が『尖閣』の日本主権を認めていなくても、日米安保条約の規定上、日本に味方をしなくてはならず、現実的にはそうしない可能性が大きいのだが、その場合には、日米関係が破局に瀕することになる」
「ところで、どの国がこれら諸島の領有権をより有利に主張出来るかと問われれば,私見では、数世紀に渉る航海史記録を具備している中国である。1783年の日本の地図でも、これら諸島を中国領としており、『日本領』となったのは、1895年に日本が台湾を奪い取った時が最初である」

 クリストフ記者は、結びに、尖閣諸島を「無国籍」とする考え方も選択の一つとしているが、いずれにせよ、最善策として、日中両国がハーグの「国際司法裁判所」に調停を申し入れるように提起している。しかし、現実的には、この地域が石油・ガス田に恵まれており、解決が困難であることを示唆している。

 同記者の2回目の記事は、10日の論説に対する日本外務省からの抗議に応える形で書かれているが、主眼点は、米国が日中間の領有権紛争に巻き込まれることを強く警戒することに置かれている。

 折しも,久しぶりに目にした日本の『朝日』(9月22日)には、「尖閣」問題についての、やや趣を異にする二つの論説が掲載されていた。社説では、「日本が実効支配する尖閣諸島」と記し、同紙の「菅政権外交を援護する」姿勢を明確に示しているのに対し、19面「オピニオン・私の視点×4」の天児慧氏「脱国家主権の新発想を」と題する小論文では、尖閣諸島を日中などの「共同主権」地域に指定する構想を大胆にも提起しているが、誠に時宜を得たものと思われる。

 ともかくも、如何に天然資源に恵まれた島々とは言え、それらを巡って戦火を交えるといった「愚の骨頂」だけは御免蒙りたい。賢明な政治家の「賢明な選択」を期待したいものだ。
(2010.09.23)


<追記 1> 今晩9時からのNHK「ニュース・ウォッチ9」では、二番目のニュースとして、国連総会に出席中の菅首相と「強硬姿勢」を見せる中国・温家宝首相の動きを追っていたが、ニュース・キャスターが、「尖閣」を何の躊躇いもなく「日本領土」と断言し、如何にも中国が理不尽な振る舞いをやっているかのような言い方をしていたのは、「国営NHK」放送の職員としての「自覚」なのだろうか。
 なお、普段は首相の「国連演説」を、少なくとも一部を欠かさず放映するのに、今日の演説は一切報道しなかったのは、菅氏が日本語原稿での演説中に、「疾病」を、「しつびょう」と読んだ所為だろうか。或は、菅氏演説中の国連会場が「ガラ空き」だった為だろうか。                                              (2010.09.23)

<追記 2> 今日24日、那覇地検が突然、日本巡視船に「故意に」衝突した中国船の船長の釈放を発表したことは,各方面に衝撃を及ぼしている。この決定は、明らかに日本政府主流の意向を酌んだものであろう。例えば、中国の「レア・アース」輸出停止の問題一つ取ってみても、日本の産業界を揺さぶる「死活問題」なのだ。それほど迄に、相互依存関係が進んでしまっていることに無知で、「あの国はヤクザだ」などと「吠えている」のは、「アホな」石原君ぐらいだろう。別の観点から見ると、菅政権は漸く、「尖閣」領有問題で、日本が「国際的支持」を得られていない現実を理解し始めたということだ。中国との関係を深めているEU諸国や、米国さえも、今度の事件の如き「瑣末な」問題で、足を取られたくないのが本音なのだ。                (2010.09.24)


<追記 3> 今朝のNHK「日曜討論」で自民党から共産党まで「尖閣・日本領土」で一致していたが、国民意識が「反中」に傾いていることに合わせた「大政翼賛会」の臭いがぷんぷんだ。中国が主張するだけでなく、国際的に「尖閣諸島」の帰属問題が必ずしも確定していない以上、国際的な裁定の場に提起するべし、という声があって当然である。
 また、テレビ朝日の10時からの番組の中で、これまで「進歩派」面していた東大・藤原「センセイ」が、自衛隊上がりの右翼「学者」に媚びて、「孤立しているのは中国だ」などと宣っていたが、一応一流とされる大学で講じる以上、世界にまともに通じる「国際関係論」を学び直さないと恥ずかしいですぞ、藤原君!                           (2010.09.26)




<写真> Le Figaro, The Guardian, FT
by shin-yamakami16 | 2010-09-23 16:58