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by shin-yamakami16

英国ブラウン首相、万事休すか?

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風雲急を告げる英国政局
                               山上 真

 バラック・オバマが嵐のようにロンドンを立ち去った後、同氏が会ったばかりのブラウン首相周辺の動きが慌ただしくなっている。彼を首相の座から引きずり落とそうとする労働党幹部・政府閣僚らの動きが活発になり、ストロー法相などが「ブラウン後」に備えて、後継者の指名に乗り出したというのである。閣僚の半分が首相の辞任を求めている、という噂も流れている。
 
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            ストロー法相
 
 きっかけは、スコットランド・グラスゴーでの下院補欠選挙での、労働党候補者の敗北と、SNP(スコットランド国民党)候補者ジョン・メイスン氏の勝利である。ここは,過去約60年間、常に労働党が勝利してきた「盤石」の労働党地盤であり、敗北など考えられない選挙区であった。もし, ここで敗北すれば、労働党は英国中どこの選挙区でも勝てない、とさえ言われているのだ。
 
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      SNP党首アレックス・サモンド氏とジョン・メイスン氏
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 しかし、7月24日に行われた選挙では、前回13,500票差で勝ったのが、今回は365票差で破れたのである。24%の票が労働党を離れてしまった。
 一回の選挙で敗れただけなら,さほど問題ではないのだが、労働党候補者が過去9週間の選挙全てで敗北したとなると、話は別である。三つの下院補欠選挙、ロンドン市長選挙で軒並み破れたのである。「もはや救い難し」の雰囲気が漂っている。

 更には、最も新しい世論調査によると、保守党支持が40%, 労働党が17%で、現在第三党の自民党支持率18%にも負けているのだ。

 ブラウン氏の不人気の原因が何か、と言えば、先ず経済政策がうまく行っていない点だろう。インフレが政府予測の3.0%を大きく外れて年率3.8%に上る一方、賃金上昇は2%程度で、勤労者の生活は苦しくなるばかりだ。この為、各方面でストライキが頻発している。つい先日も、パスポート発給業務に携わる3,000人の公務員が賃上げストをやり、夏休みを海外で過ごそうとする人々の出鼻を挫いた。金融不安から、モーゲッジ(住宅ローン)を得ることが難しくなり、販売実績が一年前より50%減となって、住宅市場がすっかり冷え込んでいる。こうした状況に対して、前蔵相のブラウン首相は、まともな対策を取っていない、というのが、一般的評価だ。

 去年からブラウン政権が提案している「反テロ法案」即ち、テロ行為の容疑を懸けられた者を、42日間、裁判に付すことなく勾留できる、とする法案を十分な審議を尽くすことなく押し通した態度は、労働党が本来護持している筈の人権擁護姿勢から大きく外れていることは明らかだ。「彼はどうもテロリストらしい」という何ら根拠が明らかでない巷間の噂に基づいて、誰でも長期間勾留されるとしたら、どこに基本的人権があるというのだろうか。
 
 『マグナ・カルタ』(1215年成立)以来の堅固な人権擁護の伝統を持つ英国民でも,2005年の「ロンドン連続テロ事件」の影響もあって、現在、その60%がこの法案を支持しているということだが、「リベラル」自民党が強く反対しているのは当然乍ら、保守党が反対しているのは貴重なことと言わなければならない。その保守党古参議員であり、「影の内相」であるデヴィッド・デーヴィス氏は、政府の「傲岸、恣意的かつ権力的」なやり方に抗議して、自ら議員辞職し、この「反テロ法」の危険性と問題点を訴えるべく、再選挙に持ち込んだのは、さすが「英国の保守党」と、感嘆させるものであった。更に、6月に、彼がヨークシャー東部での下院補欠選挙で圧倒的な支持を得て再選されたことは、「痩せても枯れても」英国民主主義の健全性を銘記させてくれた。この選挙では、労働党は候補者を立てることさえも出来なかったのである。

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       デヴィッド・デーヴィス氏、ミス英国と共に
 
 ブラウン首相が国民に不信感を抱かれている最も大きな原因は、昨年10月に、一般に待望されていた総選挙の好機を逃したことだ。ブレア氏から政権を引き継いで、信任投票を受けなければならないのに、支持率が低くなったことを気にして、総選挙を見送ってしまったのである。この頃から、ブラウン氏は勇気に欠けるという評判が定着してしまった。政策も、ブレア時代と較べて、新鮮味が薄いということだ。「イラク」から英軍を撤収させるという公約も果たされないままだ。兵力を増強した「アフガニスタン」では、今年6月以来、16人の英国兵が戦死している。
 
 こうなると、ブラウン首相がやっている限り、二年後に予定されている総選挙は労働党が大敗して、保守党キャメロン政権誕生が必至の情勢となってしまう。となれば、現在議席を有している労働党下院議員356人の大半が失職することになるわけだ。
 誰でも、享受してきた議員としての特権と生活水準維持に汲々となるのは無理もない。ブラウン氏の下でそれが不可能ということになれば、なりふり構わず、「新しい指導者」待望論に転換することになる。

 現在ブラウン氏は、英国南東部サフォークで夏期休暇を過ごしているが、メディアに辞任論が騒がれている最中であり、内心穏やかならざるものに違いない。政府内外の要人たちは、表向き、「ブラウン辞任論」に慎重な態度を取っているが、既に、外相デヴィッド・ミリバンド氏、副党首ハリエット・ハーマン女史は動き出しているようだ。
 
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             ミリバンド外相
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             ハーマン副党首
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             マックドネル下院議員

 ブラウン氏の辞任を求める公然とした動きとしては、600人に及ぶ労組関係者、市会議員などが、左翼議員ジョン・マックドネル氏を次期首相に推挙しているという。
 大方の見方は、秋の党大会で同氏の去就が決まるだろうとのことだ。

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          保守党キャメロン党首とオバマ氏
 
 しかし、誰が「ブラウン後」の後継者になろうと、次の総選挙後は、政権が労働党から,保守党に移り、「キャメロン首相」が誕生するだろうとの観測が一般的だ。政策的に両党は接近しているので、大きな変化は結局の所、期待薄だが、強制的な「IDカード」計画、前述の「反テロ法」などでは人権擁護の方向を強めることになりそうだ。これらの点で、労働党より保守党に期待が集まるとは、皮肉なことだ。 (2008.07.31)



<写真> The Daily Telegraph, The Times, BBC News, Daily Mail 掲載のもの 
    である。
 
by shin-yamakami16 | 2008-07-31 09:58 | Comments(0)