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by shin-yamakami16

「民主主義者」の南オセチア侵攻

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グルジアと米・露確執の結末
                            山上 真

 何とか「五日間戦争」は終結したようだ。8月17日、グルジアに次いでロシアが停戦合意に署名し、ロシア軍の撤退が始まった。
 この間目立ったのは、慌てふためいたブッシュ氏の数回の演説と、グルジア・サアカシュヴィリ大統領の必死の「救国の訴え」だった。自ら招いた危機を、いかにも全てがロシアの「侵略行為」の所為であるかのように振舞った。日本を含む西側メディアの多くも、彼らの口車に乗って騒いでいる形であった。しかし、事の本質はどこにあったのだろうか。

 8月7日から8日にかけて、7400人のグルジア軍が突然、ロシア住民が大多数を占める自治領・南オセチアに侵入し、砲撃・銃撃によって1400人が死亡したという。
 サアカシュヴィリ大統領が北京オリンピックの最中に狙いを定めて、かねてから立てていた作戦計画を実行したという説が有力である。この時期ならば、ロシア軍は動かないだろうと、高を括っていたらしい。また、密接な関係にあるブッシュ政権の同意のもとに行われた作戦行動だった,という説も一部流布している。
 
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    グルジア軍の攻撃を受けた南オセチア住民

 南オセチアは、グルジア南西のアブハジアと並んで、グルジア国内にあるロシア人が住民の多数を占める、言わばロシアの「飛び地」である。この二地方は、1990年代から自治領としてロシア軍管理の下に置かれ、グルジアからの独立への動きを強めていた。これに対し、2004年、「反露・親米」を売り物にして選挙に圧勝したが、最近,人気が陰っているサアカシュヴィリ氏としては、先手を打つ必要に迫られていた。

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           ロシア軍の爆撃を受けたゴリ住民

 この国は、ブッシュ政権の要請を受けて、あの「イラク」に2000人もの軍隊を派遣している特異な国である。NATOに属しているドイツ、フランスさえ、一兵も送っていないのに、である。サアカシュヴィリ氏ご本人は、米国で教育を受け、法律家の資格を獲得した自称「民主主義者」なのであるが、グルジア国内では、反対派系のテレビ局を閉鎖させたり、反政府デモを暴力的に弾圧したりしているという。

 様々な情報から判断すると、どうもロシア指導部は、グルジア側の「南オセチア侵攻」作戦を今や遅しとばかりに、待ち構えていたようだ。プーチン首相はオリンピックを見ていたが、事が起こると即座に北京を離れて、現地に直行した。
 
 圧倒的兵力・火力を動員して、瞬く間にグルジア侵攻軍を蹴散らした。南オセチア首都ツヒンバリ解放後、グルジア内部の都市ゴリに到達した。他方、ロシア黒海艦隊を派遣して、アブハジア、黒海沿岸部を制圧した。この間、米国の援助で武装・訓練を受けて養成されたグルジア軍は、ロシア軍の電撃作戦によって、潰走するばかりであった。

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 このようなロシア軍の進撃を、「不均衡反撃」として、西側政府・メディアは一斉に非難している。ロシア側からすれば、「二度とグルジア側からの侵攻無き様に」措置しているということなのだが。

 最終的に、戦場となった地域の住民2000人が犠牲となり、16万5千人が難民となった。双方の戦闘員死者は200人とされる。

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 ここで想起されるのが、「コソボ戦争」である。米国ブッシュ大統領、英国ブレア首相らは、1999年、セルビアが支配するコソボ地区のアルバニア系住民の独立を、軍事力で強引に認めさせた。
 もし、この図式を南オセチアに適用するならば、ロシア系住民の独立を認め、南オセチア、及びアブハジアの国家樹立を承認しなければならないことになる。それを拒否するサアカシュヴィリ氏を支持するとなれば、「二枚舌」と非難されても仕方ない。


  英国『ガーディアン』紙の論説記事の中で、サイモン・ジェンキンス氏は次のように述べている。
 「嘗ては国家主権の尊重を原則としている国連によって、防げていた国家対民族の衝突を、ブッシュとブレアが『コソボ戦争』という恣意的干渉行為によって解き放った。その結果、世界中で分離・独立運動が活性化してしまった。至る所で流血の惨事を目にすることとなった」 (August 13 2008)

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           ロシア軍進撃を非難するサアカシュヴィリ氏  
    
 一方、フランスの『リベラシオン』紙は、解説記事の中で、
 「若くて激情型のサアカシュヴィリは、自己の独裁的政権を救う為に何かしなければ、と思ったのだ。米国の政権交代期を好機として、グルジア民族の気概を奮い立たせる『南オセチア解放』を実現することを、ブッシュ政権も支持しない筈はない、たとえ、ロシアと対峙することになっても、NATOが助けてくれるだろう、と考えていた」と述べている。  ( samedi 9 août 2008)

 今後のグルジア国内情勢について、仏紙『フィガロ』(14/08/2008) は、
 「国内を通って西側に供給している石油・ガス輸送管が閉鎖されており、銀行が業務を停止し、経済活動が止まっている。また、ロシア軍の攻撃を受けて、グルジアの殆どの軍事インフラが破壊された。更には、誰がこの戦争の口火を切ったのか、ということがグルジア社会の中で問われ始めている。発端がサアカシュヴィリ氏、ということになれば、今度の戦争による混乱の責任が、厳しく追及されることは必至だ」と伝えている。

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            北京オリンピック会場での二人

 米国政府の出方については、大統領がかなりヒステリックにロシア非難を繰り返していたのと対照的に、ゲイツ国防長官の、「ロシアとは今後も安定的な関係を続行しなければならない」と冷静に語る姿が印象的であった。しかし、ロシアが最も警戒している、ポーランドへのミサイル配備を米国・ポーランド双方で合意したことが、新たな緊張関係を欧州で生じることは間違いない。事実上の「新たな冷戦」が、小国指導者の向こう見ずな野望をきっかけとして始まったことは、悲しい皮肉だ。
                           (2008.08.18)


<写真> The Daily Mail, The Guardian, Le Monde, Libération 掲載のもの
by shin-yamakami16 | 2008-08-18 11:21 | Comments(0)