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by shin-yamakami16

仏兵士「10人戦死」の波紋 [改訂]

 
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       パリ・ザンヴァリッド(廃兵院)での10兵士追悼式

そして住民76人死亡の米軍誤爆 —「混沌のアフガン」再び
                              山上 真
 去る8月18日、ヴァカンスの余韻残るフランス社会を、衝撃的な知らせが襲った。アフガニスタン・タリバンの攻撃を受けて、駐留フランス兵10人が死亡、21人が負傷するという未曾有の事件が起こったのである。
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        2007年11月 仏軍部隊を激励するサルコジ大統領
 
 米ブッシュ政権の「テロとの戦い」の要請を受けて、6年前からNATOの一員として参加していたフランスは、米政権と距離を置くシラク前政権当時は、若干の空軍機、艦艇と、1000人規模の兵士を、カブール空港周辺など比較的安全な地域に送っていた。
 ところが、「ブッシュ支持」を前面に掲げているサルコジ政権は、去年、方針を一変させて、新たに増援した700人の部隊を、タリバンと直接対峙しているアフガン南部の危険地帯に展開させた。
  
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 この日、フランス軍偵察部隊は、米軍特殊部隊、アフガン政府軍、チャド軍と共に、カブールとパキスタンを結ぶルート上にあるSaroubiに向かっていた。カブール北東約50キロ、海抜約2,000メートルの峠に近づいた所で、周到に準備していたタリバン軍約50人の待ち伏せ攻撃を受けた。そこでの4時間に及ぶ烈しい戦闘で、9人が死に、21人が負傷、もう1人は、看護兵として負傷者を救援中に射殺された。周辺地域から集まったタリバン軍は、100人程度に達していた。悪いことに、この作戦では、空からの援護を受けていなかった。
 
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 更に問題となっているのは、実戦経験のない20歳前後の兵士が多く送られていることである。相手のタリバン兵は、旧ソ連軍と戦って負けなかった、30年の戦闘経験を持つ古兵である。筆者が既に『混迷のアフガニスタン』(2008.06.18) で触れているように、ここでの戦闘に慣れている筈の米・英軍も多大な犠牲者を出している。
 最近だけでも、8月18日から22日にかけて、3人のポーランド兵士、1人の英兵、3人のカナダ兵がタリバンとの戦闘、路傍爆弾などで死亡している。
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 英国軍の戦死者は、2001年派兵以来、116人に上り、今年5月以降、22人に達した。米軍戦死者数は、今年5月以降だけで、48名に上っている。アフガニスタンでのNATO連合軍の戦死者は、総計2400人を超えている。

 
 他方では、NATO軍による、タリバンと間違えて民衆を殺す形の誤爆が増える一方である。8月16日、南部ヘルマンド州で、英軍ロケット攻撃により2人の子供を含む4人の住民が殺害され、2人の子供が重傷を負った。
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 8月22日には、アフガン東部ヘラトでの米軍機による空爆で、祝祭中の住民76人が殺された。うち19人が女性、50人が15歳以下の子供、男性は7人に過ぎなかった。これを、米軍当局は、「指揮官を含む30人のタリバン兵士」と主張している。
カルザイ大統領もこの事態に黙って居られず、調査団を設けて、連合軍側に強い抗議をした。現地では、24日、数百人のアフガン人が「アメリカに死を!」などと叫んで,激しい抗議デモを展開している。
 国連によると、今年前半のアフガニスタンで、一般人約700人が殺害された内、255人が、NATO・アフガン政府軍によるものという。(08.08.25 The Daily Mail)
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         米軍機誤爆に抗議するヘラトの人々
 
 10人のフランス兵戦死事件を受けて行われた世論調査で、55%の仏国民は、「フランスの手の打ちようがない戦争からは、軍を撤収しなければならない」と看做しており、36%は、「国際テロリズムに対する戦いに参加している以上、アフガンでの軍隊を維持しなければならない」としている。
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    「派兵以外に他の道があるのか」と語る Hervé MORIN 国防相
 
 フランス政府は、政治家・識者の提言を受け入れて、9月下旬に国会で「アフガン派兵」の是非を問う討議・採決を行うことに決めた。ここでの議論の深まり方によっては、国際的な波紋を及ぼす可能性が出て来る。アフガン戦争の「政治解決」の道も見えて来るかも知れない。そこに大いに期待したい。    (2008.08.25)


<写真> Libération, Le Monde, Le Point, Nouvel obs., France 2, La Croix. com,
    The Daily Mail 掲載のもの

<追記>
 (1) 8月24日のBBCニュースによると、故ブット女史の夫であり、パキスタン人民党から、次期大統領候補者として指名されている Asif Ali Zardari 氏は、インタヴューの中で、「アフガニスタンでタリバンが優勢になっている」と語っている。

(2) 8月26日、非政府組織『ペシャワール会』で、現地の農業支援活動に携わっていた、静岡県出身の伊藤和也さんが、ジャララバード近郊で何者かに拉致され,後に殺害される、という実に悲しむべき事件が起きた。欧米系のNGO関係者も、最近多くの犠牲者を出しており、改めて、アフガニスタンでの治安状況悪化を浮き彫りにした。

(3) 上記『ペシャワール会』の現地代表・医師中村哲氏が、2007年8月31日の毎日新聞紙上で、日本政府が準備している「テロ特措法はアフガン農民の視点で考えてほしい」と題するエッセイを書いている。その中で、氏は、米英軍の空爆によって多くのアフガン農民が殺されている事実を指摘し、日本の、インド洋上のNATO軍艦船への給油活動が、現地での反日感情を掻き立て、NGOの活動を危機に陥れていることを厳しく指摘している。この危惧が現実となったのが、今度の伊藤さんの事件である。
 年間90億円にも達する日本の給油が、現地民衆を助けるどころか、空爆によって彼らを殺すのを助けているとしたら、これは由々しき問題である。 (2008.08.28)



 
by shin-yamakami16 | 2008-08-25 21:20 | Comments(0)