世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16

火蓋を切った米大統領選挙戦

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'Palin’ スキャンダルの行方は?
                              山上 真  

  ジョン・マケインとバラック・オバマの熾烈な戦いが本番を迎えた。既に半年前から、各党候補者の絞り込みの形で実質的に始まっていた選挙戦は、今度は、それぞれの党大会での正式指名を受けて本格化したのである。
  民主党大会は8月25日から28日にかけて、ロッキー山脈の麓デンバーで開催された。会場周辺では、ヒラリー女史を熱狂的に支持するデモも行われていたが、同女史本人が強くオバマ氏を民主党候補として推したことで、党内対立は急速に終息に向かった。
 この大会では、クリントン元大統領を始めとして、ゴア元副大統領、ジェシー・ジャクソン師などが、史上初めての黒人大統領の実現を訴え、民主党内の結束に成功した。副大統領候補者は、重鎮ジョゼフ・バイデン氏となった。
 
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 オバマ氏は、大会最終日、8万人が集まった野外競技場で行った指名受諾演説で、イラク戦争、経済不況などの「ブッシュ失政」を厳しく糾弾し、共和党からの政権奪還を呼びかけた。この模様は、全米3800万人以上が視聴していたという。

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          民主党副大統領候補・バイデン夫妻

 共和党大会は、9月1日からミネソタ州 St. Paul で開かれたが、ハリケーン「グスタフ」が米国南部に上陸する恐れが出てきた為、急遽、大会行事を延期した。その大会場を、「戦争犯罪者ブッシュ・チェイニーを裁け」と叫ぶ反戦デモ参加者1万人が取り囲んで警察隊と衝突し、約280人が逮捕された。

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 共和党の場合は、早くからマケイン氏が大統領候補として内定し、副大統領候補者は、大統領候補者として共に戦っていたロムニー氏などの名が既に挙がっていた。ところが、マケイン氏は、大会初日に、副大統領候補者として、一般に名が知られてない、アラスカ州女性知事セイラ・ペイリンさんを紹介した。これが大騒ぎの元となった。彼の狙いは、副大統領を女性にすることによって、民主党内のヒラリー票をそっくり戴こうという点にあったのだが。

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       ペッパー・スプレーを使って平和的なデモを取り締まる警官
 
 マケイン氏が「ホワイトハウスに新風を送り込む」人物として紹介した女性は、その娘が未だ高校生なのに妊娠5ヶ月で、夫は、大分前の事だが、飲酒運転で逮捕歴があるとか、ご本人は、アラスカの橋梁建設工事計画で、後に連邦政府から「無駄」と判定された工事実施に、「地元利益の為」にのみ、賛成していたとか、又、州知事選挙中の地元ラジオのインタヴュー番組で、相手候補者をコメンテーターが「癌で、あばずれだ」などと中傷したのに対して、頷いてケラケラ笑っていただけだったとか、アラスカの、米本土からの分離・独立を目指す『アラスカ独立党」に、夫と共に属していたとか、最悪なのは、彼女が州知事になる前に、肉親の絡む個人的問題に関連して、市長としての立場を利用して、役人を罷めさせていた疑いが浮上してきた。この問題は、裁判沙汰になり、弁護士を立て公訴中ということだ。要するに、ペイリンさんの、政治家としての根本的資質と品格が疑われ始めた。とにかく、降って湧いた一連の「暴露」は、世間を多いに驚かせている。

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       ブッシュ氏はテレビ演説でマケイン支持を呼びかけた。
 
 思想・信条の面では、人工中絶・絶対反対、銃規制反対を唱え、「創造神話」を信じるペイリンさんの方が、一部中絶容認のマケイン氏より保守強硬派と指摘されている。こういう人物が、大統領に何かあった場合、権力を取って代わること自体、深刻な問題とする人々が少なくない。

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 こうした問題をマケイン氏が熟知した上で、彼女を選んだのかどうかが、大いに疑問視されている。もし間違っていたという事になれば,将来の「最高権力者」としてのマケイン氏の判断能力が大いに傷つくことになる。

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 これ迄マケイン氏は、気さくにメディアの取材に応じる姿勢が、好評を博してきたと言われる。ペイリンさんの問題が追及されることを避けようとすると、その姿勢の大きな変更を余儀なくされるかも知れない。

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キャサリーン・ムーアさん「ペイリンさんが女性だからといって、ヒラリー支持者がマケイン氏に投票するわけではないわ』(St. Paul, 53, manager)

 「醜聞」の取材を拒否して、丸二日間雲隠れしていたペイリンさんは、大会4日目にマケイン氏と共に,就任受諾演説をした。その中では、ご自分の件については殆ど触れず、専らオバマ氏の「経験不足」など「弱点」を衝く攻撃的内容に終始した。会場の聴衆は、流石共和党支持者で固めているだけあって、何が起ころうと盛り上がっていたが、民主党大会の雰囲気より醒めている印象を受けた。米国の 'Fox Radio' の聴取者の感想では、「まるでチア・リーダーの語り口だ」というのが幾つかあった。しかし、予想された以上に「無難にこなした」というメディア評価が出ている。事前の関心を集めた彼女の演説の視聴者数は、4000万人余りということで、共和党関係者にとっては、「新たな希望の星」となった観がある。

 マケイン氏の演説は、「ヴェトナム戦争中の捕虜体験から生まれた愛国心」を前面に打ち出し、オバマ氏のお株を奪って「改革者」として、幅広い人々との協力の下に,'White House' 政治の刷新を訴えた。しかし、オバマ氏の「経験不足」という、手垢に汚れた指摘を忘れなかった。演説の最中に、二人の女性が、「イラク戦争反対!」を叫んで、会場から摘まみ出され、進行が中止される一コマもあった。

 共和党大会が終わった段階での 'GALLUP' 調査では、オバマ支持が48%、マケイン支持が44%である。今後の約二ヶ月の選挙運動期間中に、国際的事件、或は候補者をめぐるスキャンダルなどで、かなりの変化が生じるだろうが、米国という国で、黒人候補者が白人と少なくとも互角に大統領選挙を争っている、という事実そのものが極めて貴重なことと思われる。

<追記>
 9月4日のNHK『クローズ・アップ現代』で、米大統領選挙について放映し、マケイン氏の「善戦振り」を取り上げていたが、ロシアの「グルジア侵攻」と、女性を副大統領候補者に選んだことが、マケイン氏を有利にしていると殆ど断定的に述べていたのには驚いた。ペイリンさん周辺の問題にも、全く触れなかった。支持率も、前日の世論調査では、オバマ候補の方が8ポイント上回って、初めて50%の大台に乗せたと発表されているのに、NHKは逆に、2ポイントマケイン氏がリードしているとしていた。どうも、1週間前に,大部分の内容が作られたようだ。状況が日々流動している事を無視すると、こういう番組が出来てしまうことを示す好い例だ。

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 他方では、非常に衝撃的な噂がネット社会に流布している。グルジアの南オセチア侵攻は、ブッシュ政権が、マケイン候補を選挙戦で有利に導く為に、グルジアの後押しをして開始させた戦争だというのである。背景には、オバマ候補が、国際問題を解決する為には、「対話」を重視する姿勢を強調していることがある。ロシアの軍事行動を誘発させて「東西緊張」を増大させ、オバマのような「対話路線」が間違いであることを示す狙いが込められているということなのだ。この噂の真偽の程は、今後の歴史の展開が明らかにするだろう。                (2008.09.05)



<写真> The New York Times, The Times, The Independent, BBC News,
  The Washington Post, The Daily Mail 掲載のもの

 
by shin-yamakami16 | 2008-09-05 21:24 | Comments(0)