世界中で起きている重要な事件、事象についての忌憚なき批判、批評の場とします。


by shin-yamakami16
アメリカ大統領選挙ーエドワード氏、オバマ支持を訴える
                               山上 真

 この数ヶ月、揉みに揉んできた民主党候補指名争いの決着が間もなく付きそうだ。
 今日早朝、オバマ支持を匂わせてきたものの、明確な意思表示を躊躇ってきた元候補者ジョン・エドワード氏が、ミシガンでの集会で「オバマが、米国の必要としている持続的変革を担う唯一の人物だ」として、同氏への支持を強く訴えたのである。
 ヒラリー女史が前日、ウェスト・ヴァージニアで大差をつけてオバマに勝利した直後に発表した、このエドワード氏支持声明のタイミングは、オバマ氏が弱いとされる白人貧困層の今後の支持獲得競争に於いて、極めて重要だとされる。既に、ヒラリー候補の逆転は「数学的に」不可能であり、共和党マケイン候補との決戦に臨もうとしているオバマ氏にとっては、共に候補者であったエドワード氏の応援は、予想の範囲内のこととは言え、かけがえのない援軍だ。共和党マケイン氏は、ヒラリー女史よりもオバマ氏を恐れている、という噂が流布しており、今後の展開が興味深い。 (08.05.15)
 
# by shin-yamakami16 | 2008-05-15 12:42

    凋落するブラウン政権と英国既存秩序

                                山上 真

 今年初めの当地の天候は、如何にも「英国的な冬」として、改めて心に刻ませるものとなりました。筆者の住む英国南部は緯度が札幌より一〇度近く高いにも拘わらず、気温が零下に下がることもなく、雪を見ることも稀なのですが、多くの場合、低く黒い雲が垂れ込めて、雨が断続的に降ります。その上、傘が役立たない程、風が強く、通勤する人々は、未だ暗い中を風雨に晒された儘、駅へ急ぐのです。一週間に二日ほど晴れ間が見られますが、連続することは稀です。先日、『降れば必ず土砂降り』(It never rains but it pours.)という、懐かしい諺がタブロイド紙の第一面の大見出しになっていました。中部地方では洪水被害も懸念されました。この時期、スコットランドやカンブリアなど北部地方は雪に閉ざされており、この国の南北経済格差の一因にもなっているのです。
 この天候の陰鬱さは、英国経済の現状を象徴しているかに見えます。発足から半年を経たブラウン政権の前に依然として立ちはだかっているのは、債務超過が暴露されて英国各地で取り付け騒ぎを起こした銀行『ノーザン・ロック』問題です。ニューカースルに拠点を置くこの銀行は、英国で五番目の住宅融資高を誇る中堅銀行ですが、米国の「サブプライム・ローン」問題の余波を受けて資金不足に陥り、英国銀行が例外的に二百五十億ポンドの緊急貸し付けを行う事態となりました。負債額が余りに膨大な為、民間資金に頼った自立再建は不可能となり、残った策としては、労働党政権の押し進めてきた「民営化」政策に背反する「国有化」の道を選ぶか、それとも、唯一買収を申し出ている『ヴァージン』グループに安値で買い叩かれるかの選択肢しか残されていなかったのです。事が六千四百人の雇用を守ることと、百五十万人に及ぶ預金者・株主の利益を確保することを両立させなければならないのですから、決して容易なことではありません。
  二月十七日になってブラウン政権は漸く、国有化の方針を明らかにしました。この方向を主張してきた自民党は歓迎する一方、保守党は一九七〇年代の政策に逆戻りするものとして強く反対しており、一連の経済政策の失敗の責任を取って、ダーリング蔵相が辞任することを求めています。
 去年末のクリスマス商戦は各百貨店の売り上げが前年比で二%程落ち、期待はずれの結果となりましたが、ここに来て、国民一般の購買力低下が、この十年で最も明白な形で表われています。ガソリン価格が一リットル一ポンドを超えて久しく、電気、ガス代が一五%以上、食料品が一〇%と、軒並みの値上がりとなっております。住宅価格も、ひと頃より上昇率は鈍ったものの、平均的年収の四倍と高止まりしたままで、容易に手が届かないものになりました。
 他方、一部の民間企業を除いて、賃金上昇は二%と、物価上昇率に到底追い付きません。これには、インフレを極度に恐れるブラウン政権の賃金抑制政策が強く働いています。何とか生活を守ろうとする労働者側は、これまで労働党政権を守るべく手控えてきたストライキに訴えるしか、道が残されていないのです。この為、交通部門、公務員関係などのストが頻発しております。先日も、ロンドン市内で、二万余の警察官が全国から結集して、二・五%の賃上げを求めてデモ行進を展開しました。しかし、政府側は、一度譲歩すれば全般に及ぶ恐れがある故に、頑に拒否しています。
 二月七日昼のBBCテレビ番組『デイリー・ポリテイックス』では、同日の『ウオール・ストリート・ジャーナル』の報道として、久しくニューヨークと並んで世界経済のHUB(中枢)としての役割を担っていたロンドンが、嘗ては英国のGDPに匹敵する二・四兆ドルものマネーをロンドンに集めていた世界中の投資家たちが最近の英国での金融不祥事と個人負債の増大に嫌気を差して、他に資金を移している為に、その地位を失いつつあることを伝えていました。この番組の司会者アンドルー・ニールは、人一倍愛国心を重んじている人物だけに、如何にも深刻そうに、「ゴードン・ブラウンはどう考えているんだろうか」と懸念を露わにしておりました。図らずも、このような事態には、首相が責任を負わねばならないことを明かした形です。
 一方、先に公定歩合〇・二五%引き下げを発表したばかりのキング英国銀行総裁は、二月十三日、今年中に英国経済が米国と同様、リセションに陥る恐れがあることを警告しました。
 こうした中、普段は娯楽番組が多いITVが家屋差押え、借金苦の深刻さを一時間にわたってルポし、貸す側の銀行の問題も指摘しておりました。英国では千百万人が何らかの負債問題を抱えており、今後一年間で四万五千戸が差押えに遭う恐れがあるということです。
 これと対照的に、石油販売で『シェル』が年間百三十九億ポンド(約二兆八千億円)、ガスで『ブリテイシュ・ガス』が五億七千百万ポンド(約千百四十二億円)という莫大な利益を揚げており、大幅な料金引き上げの直後のことだけに、社会的批判を浴びています。

 米軍増派後の「治安改善」の最中にイラクでは、二月一日、七十人死亡のテロが起こりました。この事件について、BBCの報道姿勢に、従来とは異なる変化が見られます。「治安安定の中,起きる散発テロ」という報道の仕方には疑問が残ってしまいます。十四万人に達する米軍大量派遣にも拘わらず、やはり起きてしまうテロ、という点を無視しているのです。
 四年前に激しい戦闘のあった「ファルージャ」の取材でも、BBCは、数日前の『インデイペンデント』紙の本格的なルポとはまるで異なる描写を『ニューズ・ナイト』でやっていました。
 『インデイペンデント』―│確かに治安回復の途上にあるように見えるが、ファルージャの町は幾重もの米軍警戒網によって封鎖されており、出入り出来るのは身分証明を持った者に限られている。現地の医師の話では、水、電力、医薬など、極めて不足。民衆の不満は募り、何時また戦闘が始まるか、という状態だ。
 『ニューズ・ナイト』――短時間の映像の中に、ファルージャ郊外でオンボロ車のオートレースを楽しんでいる数十人の姿、街角で何やらお祭りを賑やかにやっている場面を紹介。若い記者は、この通り、治安は良くなり、アルカイダの姿は皆無だとする。
 要するに、BBCはイラク戦争の不法性はどこへやら、現状を肯定し、イラク占領政策が軌道に乗っているということを強調する報道姿勢に転換している様子なのです。
 現実に戻ると、二月二十四日には、バグダッド南部カルバラで、シーア派宗教行事を狙った爆弾テロが起こり、四十人以上死亡、六十人以上が負傷しました。二月二十六日には、イラクの抵抗勢力によって拘束されている英国人五人の内一人が、英国政府に解放の手立てを講ずるよう呼びかけているヴィデオが現地の『アル・アラビヤTV』によって放映されています。彼らはシーア過激派「マハデイー軍」によって拘束されていると見られています。
 イラク戦争のコストがどの程度のものか、ということは幾度か試算されてきましたが、二月二十五日の『ニューズ・ナイト』は、ハーバード大学ノーベル賞受賞者ステイーグリッツ教授らによる新著を紹介し、この戦争の公的、私的コストを将来に及ぶ影響を含めて算定すると、三兆ドルに及ぶことを明らかにしました。この数字が、米英両国のみならず、日本を含む各国の今後の経済状況に極めて重くのしかかることは言う迄もありません。
 アフガニスタンは一層深刻な状態で、’Fail’という言葉が頻繁に使われています。二月六日突然訪英したライス米国務長官は、ミリバンド外相と、アフガニスタンのNATO軍兵力増強計画について会談しました。これは、カンダハル、ヘルマンドなど南部地域での治安悪化に対応する必要に迫られていた為です。両国の要請で、フランス軍一千人の派遣が同意されたと伝えられていますが、ドイツは拒否した模様です。英国軍を始めとするNATO軍の戦死者は急増する一方、カルザイ政権は国土の僅か三〇%しか手が及んでおらず、麻薬原料のケシ栽培も全くと言える程抑えられていないようです。
 そうした中、二月二十八日に突然、ハリー王子がアフガニスタン南部で去年十二月以来、戦闘任務に就いていることを英国メデイアが一斉に伝えました。この報道を、「安全上の理由」とする国防省の要請で自主規制していたものの、米国、オーストラリアなどの海外メデイアがすっぱ抜いてしまったので、慌てて報道に踏み切ったようですが、「マヴェリック(一匹狼)」議員ジョージ・ギャロウェーがBBC討論番組で厳しく指摘したように、政府の戦争政策に対して距離を置くべきメデイアの「報道の自由」という点で、大きな問題を孕んでいると考えられます。

 このところ、次期米大統領選挙関係の報道が目立っていますが、オバマ候補という「異色の」人物が白人候補者たちと互角の闘いをしていることが、伝統主義を尊ぶイギリス人を大いに刺激していることは間違いありません。国内に四百万人以上の非白人人口を抱える一方、固定した「白人元首」を戴くこの国としては、海の向うの「兄弟国」米国の元首が「黒人」ともなれば、極めて衝撃的な事件となることは避けられません。
 新聞、テレビなどのマス・メデイアは総じて、少なくとも表面上客観的な報道姿勢を取っておりますが、本音のところは、「クリントン女史辺り」で落ち着いてくれれば、と願っている節が見え見えです。『インデイペンデント』紙など一部メデイアを除いて、ブッシュ・ブレアのイラク戦争を事実上支持した立場の英国メデイアとしては、オバマ氏の、当初からの厳しい「反イラク戦」姿勢は痛し痒しなのです。「イラク」に賛成投票をしたという同じ古傷を持つクリントン候補に、同情的になるのは無理からぬものがあります。二月三日昼のBBC『ポリテイカル・ショー』では、ニューヨークから特派員が有権者の関心事を紹介した後、黒人解放運動家ジェシー・ジャクソン師、キリスト教会連合指導者、そして政治評論家の三者の予想を尋ねておりました。ジャクソン師は、イラク問題が最大の選択肢を与えるだろうとして、人種問題を乗り越えて、オバマが有利とした一方、後者の二人(白人)は、宗教的要素、「イラク安定」を国民は重視して、ヒラリーとマケインの戦いになるだろうとしておりました。
 大統領選挙の大勢が決まるとされる二月五日の「スーパーチューズデー」の取材には、BBCを始めとするニュース・キャスターなどが大挙してニューヨークなどに乗り込み、現地取材をしておりましたが、その多くが、イラク戦争に疲れ、経済不況に見舞われつつある米国選挙民の間に漲る「変化」を求める雰囲気を一様に伝えておりました。共和党でマケイン候補が有力となったことは織り込み済みの事としても、民主党ヒラリー候補との間に「一キロあった距離を数歩にまで迫った」オバマ候補の健闘ぶりには、右寄り『デイリー・テレグラフ』紙さえ讃辞を惜しみませんでした。
 二月十三日に首都圏四州を全てオバマ候補が手中に収め、代議員数でも有利に立つと、ヒラリー候補側がどうやったらオバマ側の攻勢を食い止められるか、という論調に変わって行きました。
 オバマ候補の優勢が伝えられるにつれて、二月中旬の『タイムズ』紙は、二度に渉って、「右派はオバマをシカゴ出身のうさん臭い左翼政治家だと批難する」、「米国はこの危険な左翼を受け入れる用意があるのか?」などの論評記事を掲載しましたが、これは明らかに、英国保守層がオバマ候補のホワイトハウスへの接近を異常な警戒心をもって見守っていることの証左です。

 ウィリアムズ・カンタベリー大司教がイスラムの「シャリア法」を英国で認めざるを得ない、とBBC『ラジオ4』で語ったことが、大きな波紋を呼び、氏の辞任論まで飛び出しています。「シャリア法」はコーランに基礎を置く、財産相続、婚姻・離婚などの家族法を定めた法体系ですが、英国での適用を認めることになると、英国法との二重の法律が併存することになり、社会の混乱を招くとの反対論が殆ど全てのマス・メデイアによって捲き起こされています。一国に於いては一つの法が支配するべきだ、という単純な論理です。しかしこの国に於いては、異文化を持つイスラム教徒が百六十万人暮らしており、現実に「シャリア法廷」が離婚問題などで彼らの生活を律しているという現実をどうするか、ということが大司教の問題提起なのです。 二月十二日の『デイリー・テレグラフ』紙は、エリザベス女王が大司教発言を非常に懸念している、と伝えました。やはり、英国の「一体性」を損ないかねないという思いからの発言でしょう。

 「ダイアナ事件」の裁判が大詰めを迎えています。この裁判は英国随一を誇る百貨店『ハロッズ』の経営者アル・ファイド氏が、ダイアナ元妃と共に息子ドーデイがパリで交通事故死した事件は、実は英国情報機関MI6が仕組んだ謀略だったとして、真相を白日の下に晒そうとする企てなのです。MI6が王室関係者と結託して、二人の結婚を阻止しようとした、という主張です。これまでに、事件関係者、周辺の人々など約二百四十人が証言し、その度毎に大きく報道されてきました。事件前後の新しい映像や、今まで明かされていなかった新事実も出てきて、かなり意味のある裁判となっているのです。ところが、いよいよ、MI6の当時の関係者、原告のアル・ファイド氏が登場する段になって、不思議な報道が始まっています。「この裁判にどれだけの費用がかかっているのか知っている?」、「六百万ポンドだぜ、これを納税者が払うのか、それともアル・ファイドが払うのか?」といった調子でBBCやITVなどが一斉に放送しているのは異常としか思われません。誰かが事件の山場に差し掛かったところで、別件を持ち出すことで焦点を逸らせようと企んでいるように思えてしまいます。
 アル・ファイド氏の証言は、大方の予想を遥かに超えて、英国の既存秩序を殆ど全て否定した手厳しいものでした。「ダイアナ事件」は、トニー・ブレア、フィリップ殿下(エリザベス女王の婿エジンバラ公)、当時のフランス大使、MI5・6、スコットランド・ヤードが周到に仕組んだものと断じたのです。中心人物とされたエジンバラ公は「ナチスの手先であり、ドイツに帰すべきだ」とまで言って退けました。この証言には、これまで公正さを装っていたBBC記者も、「何ともエラテイック(風変わり)な証言」という表現を使って衝撃の波及を抑え込もうと必死な様子でした。丁度この前後に、既に証言を終えていたバレル氏(ダイアナ妃の元執事)が、『サン』紙のインタヴューで、「証言で真実を述べた訳ではない」と法廷証言を翻す発言があった上に、この日のアル・ファイド氏の証言が、ダイアナ妃との直接的な人間関係を含む、細部に渉っていた為、大きな反響を呼んだことは確かです。結局、問題は、物的証拠が得られない儘、どのような法的判断が可能かということになります。

 今年五月に予定されているロンドン市長選挙には、労働党現職ケン・リヴィングストン、保守党から下院議員ボリス・ジョンソン、その他自民党、緑の党から立候補しておりますが、事実上、ケン、ボリスの一騎討ちとなることは動かぬところでしょう。ケンは相変わらず米ブッシュ政権のイラク・環境政策を叩き、「イスラム過激派」とされる人物に公然と会ったりしておりますが、既に二期を務め、側近の「汚職」めいた醜聞を騒がれるなど、必ずしも良き評判ばかりではなく、ボリスは「ローマ帝政」の研究など物する一方、放言癖でいつも周囲をハラハラさせている人物ですが、有権者にとって魅力的な面もあり、今回の選挙はほぼ互角の戦いになると予想する向きが多い様です。ごく最近の世論調査では、ボリスが一〇%程リードしているということですが、これも英国「体制」側の希望的観測を表しているのかも知れません。

 フィデル・カストロの引退が二月十九日発表されましたが、英国に於ける「キューバ・スポークスマン」を自認しているジョージ・ギャロウェーは早速、自ら司会者を務めている民放番組『トーク・スポーツ』で、米国が支えていたバチスタ政権の腐敗ぶりと革命政権の誕生、米国マイケル・ムアー監督が『シッコ』で描いた医療・教育の充実ぶりを得々と説明しておりました。この「カストロ辞任」に伴って、現代キューバをどう見るか、ということが多くのメデイアの関心の対象になったのは当然ですが、キューバの「経済的行き詰り」状況を、米国政権による経済封鎖という要素抜きに批判することが一般的な中で、ロンドン市長ケン・リヴィングストンが、「幾つかの失敗もあったが、福祉面の先進的施策は中南米の模範になっている」と強調したり、労働党副党首のハリエット・ハーマン女史が、インタヴューで「カストロはあなたにとって権力的な独裁者か、それとも、左翼の英雄か」との問いに対して、「後者です」と答えている場面もあり、カストロを「邪悪な独裁者」として断罪しようとする、例えば『タイムズ』紙のような試みは成功していません。

 去年の秋、ブラウン首相が下院議会解散・総選挙の絶好の時期を逃して以来、何処か政治熱が一般に冷めてしまった雰囲気が漂っています。在るのは、労働・保守両党の金銭をめぐる疑惑ばかりです。二〇〇五年総選挙の時期に、政治献金を受けたにも拘わらず、届け出ずに資金を使ってしまった労働党議員数人の名が挙げられたのですが、結局、ピーター・ヘイン労働・年金相一人が辞任に追い込まれました。最近では、下院議長マイケル・マーチン氏(労働党出身)が公費を、セカンド・ハウスの購入費の一部など、私的に使っていたことが『デイリー・メール』紙上で暴露されています。保守党では、大物議員コーンウェー氏が、ドラ息子に「研究員」名目で四万五千ポンドを支給したという汚職が明るみになり、議員辞職を余儀なくされました。
国際面では、英国でも一時期、派手な「親ブッシュ姿勢」故に、「ブレアの再来か」と騒がれたサルコジ仏大統領は、公約の「購買力拡大」政策が成果を挙げられず、再婚をめぐる個人的「醜聞」と相俟って、早くも支持率失墜(三〇%台)ということで、英国メデイアは静観の態度に変わりました。
 対露関係では、元諜報員リトビネンコ氏の、「ロシア側スパイ・ルゴボイによる謀殺事件」後、英国側の、「犯人身柄」移送要求が拒否される一方、モスクワ以外の「ブリテイシュ・カウンシル」(文化交流機関)が課税問題をめぐってロシア側に閉鎖を求められるなど、「冷戦」という言葉が頻繁に用いられ、冷え切っています。スコットラン北部沖合数十マイル迄ロシア空軍爆撃機が接近し、英軍戦闘機がスクランブルをかけたという様なニュースを耳にすると、否応もなく人々は緊張感を植え付けられることになりそうです。
           [追記]
(一)「ロイヤル・メール」が全国二千五百の郵便局を「赤字」理由で閉鎖する方針をめぐって、民営化方針を打ち出した労働党政府の七議員が反対し、例えば法相ジャック・ストローが自分の選挙区「ブラックバーン」の郵便局閉鎖に反対してデモに加わっていることが明らかになり、その「偽善性」が笑われています。
(二)軍需巨大企業BAEがサウジアラビア政府高官に莫大な賄賂を渡していた問題の裁判が始まりました。ブレア元首相がサウジの「テロリスト取り締り」の協力を得る為に、不法行為を黙認したことが明らかになっています。
(三)社会主義政党「リスペクト」が分裂の危機に陥っています。ジョージ・ギャロウェーの周りに集まった左翼集団と、「社会主義労働者党」が、「イラク反戦」で大同団結して成立した党ですが、地方選挙の取り組み方をめぐって各派の利害対立が表面化しています。
(四)英国南東部の町イプスウィッチで去年五人の娼婦が連続的に殺された事件の犯人に、「生涯獄中」の判決が下されました。この事件を契機に、死刑制度復活論議が起こる一方、犯人逮捕の決め手となったDNA鑑定を全国民に適用できるように、このデータベースを整備するべきだ、との提案が警察などから出されましたが、「プライバシー擁護」の点から反対論が優勢です。                    
                              (2008年3月6日)
# by shin-yamakami16 | 2008-05-08 20:59
ブレア時代の終焉と今後の英国
    │││ブラウン政治にどこまで期待可能か?
                                 山上 真 

 丘陵を埋め尽くす黄金色の菜の花の季節が終わったかと思うと、今度は草原の緑を圧倒するように真っ赤なポピーの花が勢いを増している初夏の英国では、六月下旬から七月にかけて集中的な豪雨に見舞われました。この為、ミッドランド、ヨークシャーなどでは、百年ぶりと言われる洪水被害を蒙り、五人の死者と、床上浸水などによる三万戸の住宅、七千の事業所の被害を出すことになりました。イングランド中部の都市シェフィールドは、高速道M1など周辺の全ての道路が不通になり、文字通り「陸の孤島」となりました。ハルでは十日後になって漸く水が引く始末で、浸水した住宅に戻れるのはクリスマス頃と聞いて、当面の住いの当てもなく泣き伏す二児の母親の姿など、見ていて遣りきれません。総被害額は十五億ポンド(約三千七百六十五億円)に上ると推定されています。

 過去十年間に渉って英国を支配してきたブレア政治が漸く終わりました。未だ五十代半ばのブレア氏が、その意志に反して、何故首相の座を年上のブラウン氏に譲らなければならなくなったかということの説明が公式に無いまま、この所メデイアだけが喧しく「ブレア時代」を回顧し、その功罪を論じています。例えばBBC RADIO5は、その時々に流行した音楽を背景に流しながら、ブレア首相の政策演説を肯定的に、時に批判的に紹介していました。大概のメデイアは、希望に充ち満ちて出発した政権が、二期目、三期目と重なるにつれて、憂色の漂う雰囲気に変化して行く様を詳述していました。若干の弱さや誤りがあっても、五割以上の国民の支持を得て安定した政権を築いてきたブレア氏が決定的に冒した過ちは、他ならぬ「イラク参戦」でした。二〇〇三年、米国のブッシュと共に、有りもしないイラク「大量破壊兵器」保有説に飛びつき、まっしぐらに戦争へと突き進んでいった同氏は、最後の議会討議の冒頭で、最近死亡した幾人かの英国兵士について今も猶報告し、哀悼しなければならない苦渋を痛切に味わった筈です。
 最後の議会では、ブレア首相に対する、いつもの激しい質疑は影を潜め、保守党党首キャメロンさえも、ブレア氏の「目覚ましい業績」に賛辞を贈ったほどですが、そんな雰囲気の中でも、「イラク」に関する幾つかの質問が提起され、労働党左派ジェレミー・コービン議員が、英国軍の「イラク撤退時期」を明確にするように求めたことに示されるように、首相任期の最後まで、「イラク」が尾を曵いた形です。
 ブレア氏の成し遂げた衆目一致の業績は「北アイルランド問題」で、不倶戴天の敵同士であったプロテスタント・民主統一党(DUP)とシン・フェイン党(旧IRA)の和睦に成功したことですが、これも、イラク参戦という「大罪」の前では霞んでしまう、というのが大方の見方です。ブレア政権誕生から十年目の五月一日、インデイペンデント紙は、同氏退任後も憑いて回るレガシ(遺産)はイラク戦争であると考えている英国人が、六九%に達することを伝えています。
 七月一日には、十年前に不慮の死を遂げたダイアナ妃の誕生日を祝う大コンサートが、六万二千の観衆を集めて新装ウェンブリー・スタジアムで開催されましたが、二日前に車爆弾がロンドン中心部で発見され、その後相次いでグラスゴー空港での火炎車突入、リバープール空港での車爆弾発見と続き、発足したばかりのブラウン政権は、テロ警戒度を最高レベルまで引き上げるといった事態の、真只中の一大イベントということになりました。翌日の新聞は、コンサートのホスト役を務めたウィリアム、ハリー両王子の写真と並べて、火炎に包まれた空港フロントの様子を掲載しておりましたが、共に悲劇に繋がる英国の現実を想起させないわけにはゆきませんでした。

 失政ブレア政権を、待ちに待って漸く引き継いだゴードン・ブラウン氏は、渾名「スターリニスト」に相応しい閣僚人事に打って出ました。前政権の二十三閣僚の内、続投するのは、僅か一人(デス・ブラウン国防相)という有様です。これは、支持率が二〇%台まで落ち込んだ労働党政権を立て直して、次期総選挙後の政権を確保する為の起死回生の策に他なりません。「ブレアライト」の無能閣僚とされたNHS担当ヒューイット、外相ベケット両女史など全て切り捨て、大胆に党内有力新人、外部有力者を登用し、国民の支持を回復させようとする狙いでした。
 新内閣発足後の四つの世論調査によれば、全てで労働党が四~七ポイント程保守党を上回り、最高四〇%の支持率を獲得しておりますので、ブラウン氏の作戦は取り敢えず的中というところです。こうした成り行きから、一部に今年末の「スナップ・エレクション」(抜き打ち総選挙)の可能性を公言する向きもありますが、ブラウン氏本人は「国民の為の政策を実施することが大事だ」として、BBCテレビ番組の中で、その可能性を否定しています。
 ブラウン氏が政策の中で最も優先させるものの一つとして、戦争行為、国際条約など重大な案件の決定権を政府から議会に委譲する、ということを提起しました。これは何よりも、英国のイラク参戦が、ブレア氏の主導権の下で決められ、国民の大きな不信を招いてしまったことによるものとされます。国民の「トラスト」獲得には、巨大過ぎる首相権限を縮小させる必要があるという認識は、ブラウン氏が長らく温めてきたもののようです。
 こうした新政権を、例えば、労働党支持ながらブレア政権に対する厳しい批判を続けてきた『ニュー・ステーツマン』誌は、「新時代」の到来として手放しで歓迎しておりますが、問題山積のNHS,「アカデミー・スクール」など医療、学校制度の民営化路線を維持することや、莫大な資金を要するIDカード計画の推進、殆ど連日戦死者が出ているイラク、アフガニスタンでの戦争政策の継続を表明していることから見ても、ブラウン政権を高く評価することは早計と言わざるを得ません。
 新政権発足の翌日、ブレア時代特有の事件と思われていたテロに早速見舞われたブラウン首相は、緊張この上ない面持ちで国民の注意と団結を呼びかけました。今度のテロは未遂に終わったものの、中東、インドなど出身の六人のNHS勤務医師・看護師が企てた犯行として英国社会に衝撃を与えました。この内の一人は、バグダッドでの医学研修中に起こったイラク戦争に激しい憤りを抱き、英国入国後も過激化して行ったことを告白しています。更には、一九八八年の発表直後にイスラム教徒の憎悪を掻き立てた『悪魔の詩』の作家サルマン・ラシュデイ氏に、最近、英国王室が「ナイト」の爵位を与えたことが、今回の一連のテロ事件のきっかけとなったのではないか、という憶測が夙(つと)に為されています。
 今こそ、ブラウン新政権の真価が問われているのですが、相変わらず、首相、そしてジャッキー・スミス内務相は「テロに屈することなく団結しよう」という訴え一点張りです。ここには、ヨーロッパで、特に英国が何故テロの標的になっているのかという単純な疑問に何ら答えられない、ブレア時代からのデイレンマが見て取れます。アフガニスタン、特にイラク、その後のレバノン、最近のパレスチナ、それぞれの情勢に英国外交が米国に追随して自主的な対応が出来ず、多くが水泡に帰しているのですが、この失敗を決して認めようとしない態度は「ブレア・レガシ」そのものなのです。
 もう一つ、ブレア時代の「負の遺産」の最大のものが、英国の軍需巨大産業BAEが英国政府承認の下に、約四百三十億ポンド(十兆五千億円)と言われる、新鋭戦闘機など兵器受注契約に関連して、サウジアラビアのバンダル王子に十億ポンドを超える賄賂を贈ったという問題です。不正取引調査委員会(SFO)は早くからこの事件を察知し、捜査を開始したのですが、法務長官ゴールドスミスが中止させたということです。これには、ブラウン氏も当時の蔵相として、事情を熟知している筈です。この問題を、BBCドキュメンタリー番組『パノラマ』が取り上げ、ガーデイアン紙も連日キャンペーンを続けています。現在も英国当局は沈黙を守っているのですが、パリに本部を置く経済協力開発機構(OECD)が重大な懸念を表明し、調査を開始しています。最近では、米国司法省などが究明に乗り出しており、成り行きによっては、英国政界に激震を齎(もたら)す恐れがあります。
 
 七月四日のファイナンシャル・タイムズ紙(FT)は、『分析』欄の一ページ全面を割いて、安倍首相の眉を顰めた表情と、A紙の最近の世論調査での内閣支持率二八%を示す折れ線グラフと共に、「安倍氏は万事休すか」という見出しで、副題は「日本の失言続きの政府は選挙で袋だたきに遭いそうだ」とする政治分析記事を掲載しました。先ず自民党高知県参議院議員候補者が、「安倍氏が応援に来ること自体が頭痛の種だ」として、この儘では自民党が大敗北し、自分も落選する、とこぼしています。政治評論家森田実氏は、「宇野内閣が一九八九年に敗北した状況と酷似しており、自民党は今や戦意喪失状態だ」とし、その根源に安倍首相が一般庶民感覚を理解できず、まるで天から見下しているような「貴族的」性格があると語っています。次に谷垣前財務相は、「イデオロギー過剰」の安倍氏が小泉時代の経済格差拡大路線を引き継いでおり、「自民党が次の選挙で勝てる見込みはなく、その責任を誰かが取らなくてはならない」と結んでいます。更に、米国コロンビア大学のジェラルド・カーチス氏は、「年金茶番劇」を、ブッシュ政権にとっての「カトリーナ台風」に喩え、安倍氏の転落が「不運」による面があることは確かだが、「嫌みな本能を持つ嫌みな政治家」であることを皆が既に嗅ぎとって、氏の主張する「憲法改正」、「愛国心教育」よりも、経済生活、保健問題に関心を抱いている結果だとしています。
 FTは、安倍政権が発足した直後に、その「右翼的性格」を危惧する英国他紙とは際立った違いを見せ、この政権の「市場原理」優先的姿勢に賛辞を贈る論評記事を大きく掲載したのですが、日本の政情の余りの変化の激しさに驚き、流石に気が引けたのか、慌てて「修正記事」を認(したた)めた、というところでしょうか。

 フランス大統領サルコジの登場、東欧での米国ミサイル配備問題などをめぐってのロシア対欧州・米国の対立など、新たな危惧の種が生れていますが、叉の機会に譲りたいと存じます。

           [追記]
(一)今年五月のスコットランド議会選挙で、イングランドからの分離独立を目指すSNPが僅差ながら初めて勝利しましたが、他党が全て独立反対の為、前途多難というところです。
(二)ブラウン内閣の安全保障相アラン・ウエスト氏(元海軍総督)は、七月九日、英国はイスラム圏からのテロの脅威に、今後十五年間曝されるだろうと語りました。
(三)ブレア前首相の報道官だったアレスター・キャンベル氏が、最近の著書の中で、トニー・ブレアは殆ど全ての閣僚が疑問視したにも拘わらず、イラク戦争に突入していった、と暴露していることが明らかになりました。
(四)ブレア氏が首相退任直後に、米国ライス国務長官の根回しで中東和平「特使」に任命されたことについて、同氏のこれまでの言動から見て「笑止千万だ」(モーガン前デイリー・ミラー紙編集長)という声が一般的です。
(五)日本で、中央と地方の格差が問題となっておりますが、英国でも、衰退が進むイングランド北・中部(リバープール、ニューカースル、バーミンガムなど)と、好況に湧く南部(レデイング、ブリストル、ケンブリッジなど)諸都市の経済格差が拡大し、政府の対策が後手に回っている実態を、研究機関が指摘しました。
(六)ブレア前政権が推進してきた、「スーパーカジノ」をマンチェスターに建設する計画を事実上撤回する方針を、ブラウン首相が明らかにしました。経済効果を当てにしていた現地の失望・怒りの声の一方、「流石牧師の息子だ」と賞賛・歓迎する声が挙がっています。
                            (2007年7月15日)
# by shin-yamakami16 | 2008-05-05 21:12